第157話 永遠に溶けざる凍海氷灼4

「〖Uアップデート〗!」


 体を構成するマナクリスタルを変質させていく。

 オレの体積は有限なためあのアーティファクトを丸ごと真似る余裕はねぇ。必要な機能に限定して己の内へと再現する。


「(シールド!)」


 当然、その間もクリオネの攻撃は継続中。

 熱線、黒氷球に加えてクリオネ周辺の氷晶からも凍結光弾が放たれており、それらを凌ぎつつの〖Uアップデート〗は難儀する。


 照準を振り切るため天高く飛び上がり、すぐに急降下して氷原スレスレを低空飛行。それから氷がトラバサミみたく閉じる予兆を感じ取りまた上へ。

 左右だけじゃなく上下の動きも加えることで、被弾は最小限に回避していく。


「ララリリ……」

「(ふぅ、ようやく弾切れかっ)」


 やがてその時はやって来た。

 黒氷球の蓄えた凍結光弾が枯渇したのだ。

 クリオネの〖マナ〗はまだまだ潤沢なためすぐ補充されるだろうが、これで若干の猶予は出来る。


「(この隙に一気に仕上げる!)」


 そうしてオレの中心に形作られたのは、眩いばかりの黄色い宝玉。オレ自身を小さく押し固めたような一品だ。

 コイツは地底の街では有名なアーティファクトであり、一般的にはこう呼ばれている。

 太陽石、と。


「(護金烏晶ソルクリスタル、起動!)」


 太陽石。正式名称、都市運営型複合中核アーティファクト護金烏晶ソルクリスタル

 このアーティファクトは千年前、土蛟と戦い命を散らした機神達のコアパーツから作られた。

 つまり、最上級に限りなく近ぇマナクリスタルだ。


 その機能はただの照明に留まらず、都市の〖マナ〗の隠匿から〖マナ〗ラインの補助、自動メンテナンス、果ては攻撃手段まで備えている。

 とはいえ今回必要なのは発光機能だけだが。


「ララ……?」


 突然、黒く染まった・・・・・・オレにクリオネは怪訝そうな反応をする。

 けどそんなのお構いなしにオレは行動を開始した。


「(〖転瞬〗っ、シールドっ!)


 体中に〖マナ〗を漲らせ、光弾と熱線の網を掻い潜って接近していく。

 太陽石等に〖マナ〗を割いているため白駆の出力は微減しているが、諸々の〖スキル〗とこれまでの経験により何とか距離を詰められている。


「(そろそろ充分か……? イチかバチかだっ、〖超躍〗!)」


 『凍結』の効果範囲まであと少し、ってとこでフェイントを入れ熱線と光弾の狙いをズラし、それにより生まれた刹那の空隙を〖超躍〗で駆け抜

 ──FREEZE凍結──



 不破勝鋼矢は停止した。

 動きが、ではない。彼の身に流るる時間そのものが『凍結』した。

 対象の時を凍らせる理外の所業も、第六階梯に至りし“極王”には可能である。


 ……とは言えど。この〖スキル〗ではベクトルまでは止められない。

 例えば落下する時計を『凍結』させた場合、時計の針は止められるが落下運動自体は継続してしまうのだ。


 故に、鋼矢は突進の勢いそのままに“極王”へ向かっている。

 これまでの“極王”はまるで蹴鞠でも蹴飛ばすが如く叩き落としていたが、手傷を負わされ怒り心頭の現在はそんな手心は加えない。


 まず、黒氷球をただの氷塊に戻し、飛んで来た鋼矢を挟んで受け止めた。

 そして光弾と熱線の集中砲火を浴びせようとする。


 鋼矢があと数秒で『凍結』を脱すると経験上知っているからこそ、その動きは迅速だ。

 そして的確でもあった。

 単発では効果の薄い光弾や熱線も、数秒かけて当て続ければ相応の損傷を与えることが出来る。


 ただ一つ、“極王”に誤算があったとするならばそれは、



 ──THAWING解凍──

 けようぅおわぁっ、目の前にクリオネが居やがるっ。

 ……と、たまげる心情とは別に、オレは反射的に引き金を引いていた。


「(『クイックシュート〗、〖SスパークルU・アプルート〗!)」


 〖超躍〗を使った時点で攻撃準備は終わっていた。

 だからオレの魔弾はクリオネの攻撃と同時に放たれ、交錯し、お互いに命中する。

 何十もの魔弾はオーロラ羽衣に減衰させられ傷は負わせられなかったが、当たっただけで役割は果たした。


「ルラ!?」

「(〖超躍〗、〖爆進〗、〖チャージスラスト〗!)」


 全方位砲撃で氷塊の拘束は既になく、何やら戸惑っている様子のクリオネへと刺突を食らわせる。

 特に武器は模らなかったが、さっきの魔弾で〖嵐撃〗も相当数溜められており、〖王獣〗の強靭な表皮を貫くことが出来た。


「(雷げ──うおっ)」


 さらに追撃を、と意気込んだところでオレは地上にめり込んだ。

 また『凍結』させられたのだろう。


 けど、最初にやられた時よりも意識の復帰が早ぇ。

 あの時はめり込んだその後で意識が戻ったが、今回は接地の瞬間を認識できた。


「(効果アリ、って訳か)」


 体の中心で熱を放ち続ける疑似太陽に意識を向ける。

 オレが再現したコイツはただべらぼうに強い光を発するだけのアーティファクトで、体が黒くなったのだって〖擬態〗の効果でしかねぇ。

 しかし、『凍結』の対策はこれで正解だったようだ。


 クリオネの時間停止が氷の力を媒介しているのなら、その効き具合──解までの時間には温度が関係しているのではないか。

 そんな推測を立てての行動だった。


 太陽石を光量特化で再現し、光熱を余さず吸収するため体色を黒くし、体温が充分に高まったところで『凍結』圏内に飛び込む。

 欲を言えば無効化まで行きたかったんだが、『凍結』の脅威を軽減できただけで成果は充分。


「(これで第一関門クリアだな。このまま倒してやるぜ!)」


 決意を新たに、オレの熱に当てられ溶け始める氷の上から跳び上がった。


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