第155話 永遠に溶けざる凍海氷灼2

「ルルラァ♪」


 数度の攻防を経たことでクリオネの戦法には変化が生じていた。

 光弾の乱射は据え置きだが、氷の棘の代わりに氷塊をり抜いて操るようになった。


 操られる氷塊の数は四。

 一つ一つがオレ並みのサイズなそれらが逃げ道を塞ぐように飛んで来る。


「(〖レプリカントフォーム〗!)」


 対するオレは白イタチの氷鎖鎌を八本ほど模倣していた。昔懐かしの八本脚スタイルだ。

 リーチの長い氷鎖鎌を氷塊に引っ掛けることで、正面衝突を避けつつ空中での変則機動を実現している。


 挟み撃ちにされかけるもすんでところで躱し、また氷鎖鎌で氷塊を叩いた反動で進路を変えた。

 急な軌道変更で光弾の照準が僅かに遅れ、その隙に攻撃を差し込む。


「(〖投擲〗っ、〖千刃爆誕〗、〖LロックオンAIM・エイム〗!)」


 投げつけたのは氷塊の欠片。先程の接触で削り取った物だ。

 それに合わせて鋼鉄の刃を爆散させ、クリオネの処理能力の飽和を狙う。


「リリレレレ♪」


 まあ案の定簡単に対応されたが。

 上下からオレに迫っていた氷塊二つが粉々に砕け、かと思えば破片が弾丸みてぇに撃ち出されてオレの攻撃を相殺しやがった。

 消費された氷塊も、たちまち氷の大地から補充される。


 そこで光弾の照準がオレに追いついたため攻守逆転。

 オレは回避行動を取る。


「(取りあえず、この距離ならあの『凍結』は来ねぇな。こんだけやって使われねぇならやっぱ射程外か?)」


 クリオネとの間合いは最初逃げ回っていた時の半分程度になっていた。

 『凍結』の情報収集のためである。


 これまで『凍結』を使われたのは十メートルと少しくらいまで接近した時だった。

 そこらが射程限界なのか、それとも別の要因があるのか探っている。

 距離が離れると加速度的に〖マナ〗消費が増えるので使ってこない、みてぇな可能性もあるわけだしな。


 まだまだ検証は不十分だが、取りあえずこの距離では使えねぇと仮定しよう。


「(まあ、この距離で戦うのは結構キツイけどなっ)」


 距離が半分ってことは着弾までの時間が半分ってことだ。

 オレの場合は〖弾道予見〗があるから少しは余裕があるが、それでも何度か掠りかけている。

 つーかこっちの攻撃は依然届いてねぇし、何かしら状況を変えなきゃならねぇ。


「(やっぱ吶喊して……いや待て待て、焦るなよオレ。もうちょい試してからでも遅くねぇ)」


 安易な手段に頼りかけるのを自制する。


 『凍結』はかなり〖マナ〗消費が重めだ。三十回も使えばクリオネの〖マナ〗でも尽きるだろう。

 しかし馬鹿の一つ覚えみたく『凍結』を使い続けるはずがねぇ。


 今は遊んでるからまだいいが、本気で殺す気なら至近距離で『凍結』を連打しつつ強力な攻撃を繰り出すだろう。

 またクリオネの〖マナ〗回復速度だと、仮に枯渇させても少しの時間稼ぎでリカバリーされちまう。


 何か、打開策が必要だ。


「(とりま動かなきゃ始まんねぇよな! 〖コンパクトシュート〗、〖SスパークルU・アプルート〗!)」


 隙を見て全方位砲撃。〖ウェポンスキル〗でのブーストも忘れねぇ。

 但し追尾は今は・・させねぇが。


 その後も何度か全身から魔弾をブっ放し、回数が五回を超えたところで準備完了。

 クリオネが何かに気付いたように一瞬硬直し、そのタイミングで仕掛ける。


「(〖ヘビーシュート〗ッ、〖SスパークルU・アプルート〗! 〖LロックオンAIM・エイム〗!)」


 六度目の全身からの砲撃。だが今回はどの魔弾も余さずクリオネへ向かって行く。

 クリオネは二つの氷塊を細かく砕き、氷剣化して正面からの魔弾を防いだ。そして残る二つの氷塊は上空に回す。


 白イタチの時と同じだ。事前に放った魔弾達が、時間差で空から降って来ているのである。

 白イタチよりも〖マナ〗感知に秀でた“極王”なので早期に気付かれちまったが、おかげで『本命』とタイミングを合わせられた。


「(ギリ間に合うかっ)」


 光弾を横に飛んで回避しながら、二種類のアーティファクトに〖マナ〗を込めて行く。魔弾を撃つ傍ら、密かに模倣していた物たちだ。

 片方は朱翼。いつぞやと同じように三対六枚用意している。


 他方は一個だけ模倣した。コレを二つも使うと〖マナ〗供給が間に合わなさそうなため一つに絞った。

 必要な〖マナ〗量が多いってのもあり、先に朱翼の準備が整う。


「(〖シュート〗ッ、〖LロックオンAIM・エイム〗!)」


 熾火の色の翼から〖ウェポンスキル〗で押し出したのは、夕焼けを凝縮したが如き砲弾の群れ。

 オレにまだ策があるのは分かっていたらしく、クリオネは即座に防御〖スキル〗を発動した。


「(ララル♪)」


 理科の実験で顕微鏡越しに見るような六角板の氷晶。

 それが、クリオネの全身を隠せる程の大きさで三枚、出現した。


 氷晶盾は紅蓮魔弾を受け止め、しかしあっという間に罅割れる。

 熱攻撃との相性の悪さ故だろう。


「ルルっ!?」


 クリオネが驚いたような声を上げる。

 だがちょうど時間差魔弾が降り注いでおり、氷剣の操作に意識を取られていた。反応が僅かに遅れる。


 それでも追加で三枚も氷晶盾を出せる辺り、さすが〖王獣〗ってとこか。

 最後の氷晶盾が紅蓮魔弾を防ぎ切り、そして──、


「(『本命』はこっちだぜ! 熱線魔眼、起動!)」


 ──目も眩む程の白光に薄紙みたく焼き切られた。


「ルルレァっ」


 白光はクリオネの体の中心を捉え、膜のような皮膚を焼き穿つ。

 堪らず苦悶の声を上げ、その場から逃れようと藻掻く。

 これまでの遅さが嘘みてぇな速度。オレの照準技術では追い切れなかったが、白光の持続時間はもう終わるし問題はねぇ。


「(ようやく一発か、全く先が思いやられるぜ! 雷撃!)

「ルルルゥ……!」


 高揚した気分に押され雷撃を放つも、それは当然のように氷晶盾で防御される。

 躊躇いなく防御〖スキル〗を使う様からは心情の変化が窺えた。


 “極王”の放つ威圧感が一段、強まる。

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