第150話 白イタチ
魔獣の体格は〖獣位〗が上がる程に大きくなる。
だが当然ながらそこには種族差や個体差がある。同じ〖雑獣〗でもネズミと象なら間違いなく後者の方がデケェ。
その点オレはどうかと言うと、これまで戦った魔獣とのサイズ比からして多分平均ちょっと下くらいだ。
土蛟にも負けてたしな。
そんなミニサイズのオレの、さらに半分ほどの矮躯。それが目前の白イタチの容姿だった。
けどそれは、何も力まで矮小である証にはならねぇ。
事実、そいつは後ろ脚に力を溜め──、
「(──来るっ)」
〖制圏〗によって引き起こされた吹雪によって敵の姿が霞んだその時、オレは直感に従い、壊されなかった方の朱翼の〖レプリカントフォーム〗を解いた。
ガキィィィンッ!
金属音にも似た甲高い大音量が鳴り渡る。
〖タフネス:20000〗のオレの肉体に白イタチの
そう、白イタチは鎌を装備していた。
いや、装備ってよりかは肉体の一部って言った方が近ぇか。両前脚の先に鉤爪みたく、透明な氷の刃が生えている。
最初の一撃にもこの鎌を使ったんだろう。
ダメージを受けた箇所が凍結してたのは、見た目に違わず攻撃対象を凍らせる効果でもあるのか。刃自体は体表で弾けてんのに若干
「(雷撃!)」
「キキッ」
「(まっ、躱すよな)」
すかさず反撃するも結果は予想通り。
風を置き去りにするような白イタチの敏捷にオレの攻撃は追いつけねぇ。
「(分かってたけど〖スタッツ〗差がキツイな)」
〖進化〗したてのオレの〖スタッツ〗はまだ〖亡獣〗としては低い。
土蛟の〖経験値〗で〖レジスト〗は二千を超え、一番低い〖パワー〗でもおよそ千八百になったが……それでも土蛟の〖スタッツ〗が平均二千だったことを思えば、まだまだ発展途上と言ったところ。
長年大魔境に身を置く〖亡獣〗には敵わねぇだろう。
「(にしてもこの速度差は異常だけどな。〖パワー〗が特別優れてるって感じでもねぇし〖スピード〗特化型か)」
そう分析しつつ周囲へと意識を向ける。
実は、先程から白イタチはオレの周りを駆け回っており、そして隙を見ては攻撃して即離脱というヒットアンドアウェイを繰り返していた。
圧倒的〖スピード〗によって〖転瞬〗補正込みの動体視力を振り切り、反応不可の斬撃を雨霰と浴びせて来る。
カウンターを合わせるなんて以っての外だ。
土蛟の重力魔眼が武器に出来ていれば、と思わずにはいられねぇ。
あの〖スキル〗の要は眼球じゃなく、視覚情報を解する脳だったので、特殊効果には出来なかったが。
「(でもやりようは幾らでもあるッ、〖
~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
横溢せんばかりの〖マナ〗が全ての方角を狙う魔弾となって放たれる。
この〖
むしろ〖マナ〗射出の効果は実戦では使ってねぇ。
〖
また〖マナ〗の収束精度もべらぼうに高く、ちょっとやそっとの距離じゃ威力はほとんど減衰しねぇ。
〖
「クク-ッ」
だがやはりと言うべきか、白イタチはその小さな体を躍動させ、目にも留まらぬ速さで魔弾の弾幕を掻い潜る。
それをオレが認識した次の瞬間にはもう氷鎌がオレに当たっていた。
この速度差じゃ普通に〖
「(〖レプリカントフォーム〗!)」
すぐさま森亀のハルバードを突き出すも当然回避される。
ばかりか避けざまにハルバードへ斬撃を二度も食らわせやがった。
白イタチが〖連撃系スキル〗を持ってるっぽいのもあり、ハルバードの柄がピシリと折れる。
後に残るのは凍った壊死細胞だけだ。不思議なことに痛みはなかったが、白イタチの〖スキル〗の効果だろうか。
「(〖レプリカントフォーム〗、六重!)」
一瞬で背後に回った白イタチに斬られながらも、オレは二種類の武器を模倣する。
一つは赤鞭。赤蜥蜴から作った鞭で、マグマみてぇな高温を放つ。
そしてもう一つは
土蛟から作った矛であり、穂には尻尾の巨刃を使っている。オレが持ってる中で一番デケェ魔獣武器だ。
それら二種を三つずつ模倣し攻撃に備える。
対する白イタチはオレ本体には近づかず、間合いギリギリから蛟矛の穂先へと攻撃し出した。
朱翼に続きハルバードを壊したことで模倣武器が弱点だと察したのだろう。
「(危ねぇ危ねぇ、いくら〖亡獣〗武器でも何度も斬られりゃ壊れちまうぜ)」
オレが蛟矛に意思を込めると、蛇が鎌首をもたげるように蛟矛が曲がり、オレの近くに控えた。
蛟矛は多節棍に似た構造をしており、念じるだけで自由に動かせる。
これで安全圏から殴られる状況は脱せたが、白イタチの攻勢は全く衰えを見せねぇ。
元よりあいつの速さに全く追い付けてなかったのだ。
ブンブンとガムシャラに武器を振り回しているが、当たる気配は微塵もねぇ。
触れた雪片を一瞬で蒸発させる赤鞭は様子見されてるが、蛟矛の方には着実にダメージが蓄積している。
壊れるのは時間の問題で……そして、その時が来るより先に、オレの仕込みが実る時間になった。
「(玄楯、起動!)」
オレが体内で模倣していたアーティファクトから、淡い光が広がった。
それは白イタチが「ヒット」を終え、「アウェイ」しようとした瞬間。オレから離れようとする白イタチを鈍足化の光が捕捉した。
「(〖レプリカントフォーム〗っ──)」
すぐさま森槌を模倣し、踏み込みつつ振り下ろす。
今の白イタチになら確実に当たる軌道だったが……相手も然る者。
オレとの間に氷の壁を作り、それを蹴ることでさらに加速。
森槌が落ちるより早く離脱し、遠くの地面へと降り立ち、
「(──〖クエイクスイング〗!)」
そのタイミングで森槌が氷床を揺らした。
この戦闘で初めて使う〖スキル〗だ。多少は動揺するし体勢も崩れる。
無論、それだけじゃ攻撃を当てられる程の隙は作れねぇだろうが……。
「キキっ!?」
「(〖爆進〗ッ、〖
目を剥いた白イタチが顔を向けたのは、頭上。
そこにあったのは、無数の流星。
〖制圏〗の生み出した吹雪を突き破り、魔弾の流星群が降って来ていた。
何てことはねぇ、簡単な小技だ。ちょっと前に放った魔弾の軌道を、空に上ってから落ちるよう設定していただけである。
軌道変更はイーサ王国じゃポピュラーなテクノロジーだった。
未来の白イタチの位置を予測するなんて芸当はオレには出来ねぇが、ある程度近けりゃ最後は〖
避け辛いよう速度重視に設定した魔弾は、白イタチの〖マナ〗感知範囲に入ってからコンマ数秒で着弾する。
コンマ数秒は白イタチにとっちゃ充分な回避時間だろうが、それは
加えて、魔弾の降下に驚き硬直した隙に、雷撃を当てた。
〖
「(〖コンパクトスラスト〗、〖コンパクトウィップ〗!)」
距離を詰めるオレと魔弾は、同時に白イタチへと到達したのだった。
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