第149話 北の地の〖亡獣〗
「オオオオォォ──」
「(【
「──ぉ…………」
命を刈り取り、それが自身に染み込む感覚。大質量の生物が倒れる音。
砕け散った氷片がキラキラと陽光を反射する中、オレは仕留めた〖凶獣〗の肉を喰らう。
「(二回目なら安定して成功するようになって来たな)」
先の戦闘を振り返りそう呟く。
全快状態の相手には未だ成功してねぇが、一度雷撃を当てて弱らせればかなりの確率で成功する。
「(使えそうな部位は〖武具格納〗、と。進むか)」
助走で勢いをつけ、朱翼によって飛び立つ。
最初に戦った地点でさえ凶獣域並みだった〖マナ〗濃度は、今では経験したことのねぇ濃さになっている。
まあそのおかげでマナクリスタルはカラッカラのスポンジ見たく〖マナ〗を急速吸収してるし、全力飛行を続けても消耗しねぇんだが。
「(そんでこのアホほど濃密な〖マナ〗が
進路上にあるのは北極には似つかわしくねぇ森林。
氷雪に塗れていながらも、どの木も枯れることなく氷に根を張っている。
〖制圏〗の気配もしねぇしこれは自然に存在する物だ。
これまでにも似たような光景はいくつも見ている。砂漠におけるオアシスみてぇなものか。
こういった場所には大抵弱い魔獣が集まっており、彼らを食らう魔獣から逃げたり、植物を齧ったりしているのを垣間見た。
無生物は〖マナ〗を吸うことでその力を増し、生物はそれらを摂食して強靭になる。
何度か戦ってみて分かったが、ここらの〖凶獣〗は〖スタッツ〗が高ぇ。日頃からいいモン食ってるからだろう。
そんな奴らを食うことはオレ自身の強化にも繋がる。
さすがに一朝一夕じゃそこまでの違いは出なさそうだけどな。
「(ん? この感覚は……)」
森を過ぎて吹雪の地帯に突入した頃、オレは〖制圏〗の気配をキャッチした。
進路は少し外れているためこれまでなら無視しただろうが、しかし今回の〖制圏〗はこれまでと少し違っていた。
「(ようやく〖亡獣〗のお出ましか)」
より堅く、重く、分厚いその感触は土蛟の〖制圏〗に近ぇ。
北極点付近に居るという“極王”に挑むためにも、ここらで〖亡獣〗とも戦っておこう。
「(『収束』解除)」
地面に降り立ち、〖煌廠〗を広げ相手の〖制圏〗にぶつける。
重い手応えが伝わって来た。支配力は互角なようだ。
相手もまた〖亡獣〗が居ると察知したのだろう。こちらへと向かって来ているようだった。
〖制圏〗は近づくほどに強固になるので、彼我の距離も朧気ながら把握できる。
水晶化した氷床を蹴ってオレも〖亡獣〗の元へ疾走。
〖亡獣〗になると〖制圏〗の範囲も数倍になるが、同じく〖亡獣〗の〖スピード〗ならすぐに踏破できる。、
「(〖透視〗……アイツが〖亡獣〗か?)」
視界を遮る吹雪を透過して目を光らせていたところ、異様な存在を発見した。
それは巨大な雪だるま。
単純なサイズではオレ以上なそいつは、短い脚をどすどすと動かして近付いて来ている。
「(まずは小手調べだな、〖レプリカントフォーム〗、〖
雪の体には効果抜群だろうと考え、二つの朱翼から高熱魔弾を放った。
左右に広がった魔弾は雪だるまに吸い寄せられるような軌道を描き、白い巨体を蜂の巣にする。
「(あ……?)」
そして、雪だるまの体はそれだけで溶け落ちてしまった。
肉体の大部分は
「(〖亡獣〗にしちゃ脆すぎる……それに〖制圏〗が消えてねぇ)」
警戒を続ける。けどタネは分からねぇ。
〖制圏〗の感じからして雪だるま(残骸)が本体で間違いねぇはずだが……もしかして完全消滅させねぇと復活するとかか?
そう考え、朱翼に〖マナ〗を再充填し始めたその時だった。
オレを囲うように複数の地点で膨大な〖マナ〗が弾ける。
「(なんだ……?)」
〖マナ〗の弾けた場所では氷が瞬く間に砕かれ、再構成され、真っ白な雪だるまへと変えられていた。
もちろんついさっき溶かした一体目の残骸も、だ。
「(そういうことか、クソ、〖マナ〗が濃すぎる……水晶化は無理か)」
〖煌廠〗なら氷をマナクリスタルに変えて妨害も出来るはずだが、北極の氷は〖マナ〗を多く吸っているため置換に時間が掛かる。
「(にしてもどんな〖スキル〗だ、雪だるまを生んでんのは。氷を元にした〖眷属〗みてぇなものか?)」
~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~
眷属 〖マナ〗を消費し、自身の性質を受け継いだ眷属を創造する。合意を得た他者に〖マナ〗を与え、自身の眷属とする。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〖眷属〗は〖亡獣〗が一律で覚える〖スキル〗だ。
まあ〖マナ〗消費も重ぇし、戦闘中に使うのはオレ並みに〖マナ〗が多くねぇと厳しいが。
今使われたのは雪だるま限定の亜種〖スキル〗とかだろう。
「スノ゛オ゛ォォォッ!」
雪だるま達の中で最初に動き出したのはオレの背後に居る個体。
オレに顔はねぇが、さっき攻撃を加えた方向が前だと仮定し、不意打ちを狙ったのかもしれねぇ。
あるいは単純に撹乱か。
〖制圏〗の中心に居る本体らしき雪だるまから注意を逸らすために……いやいや、それもブラフだって線もある。
もしかすっと〖制圏〗の発生地点を別所に移す手段もあるかもだ。
「(面倒くせぇし全部狙うか。雷撃、十重)」
十体の雪だるま達へと一遍に攻撃を放つ。
以前はこれほど並行しての攻撃はできなかったが、〖進化〗で得た〖スキル〗がそれを可能にさせた。
~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『並列遠距離攻撃時、情報処理能力に補正』
この十八文字中、十六文字を漢字が占めるという驚異の能力こそが並列射撃の要。
簡単に言うといくつも同時に遠距離攻撃をする時、頭の回転が速くなる効果だ。
これがあるからこそ追尾能力を無数の魔弾に適応したり、魔弾同士が衝突しない軌道を瞬時に決められたりする。
だからこそ雷撃を十発程度同時撃ちするなんて朝飯前である。
水晶化が効かねぇし即死も抵抗されるだろうが、十発も撃てばどいつか一体くらいは、
「キキキキィー!」
「(なっ!?)」
突如、オレの放った雷と入れ替わるようにして、白い影が一体目の雪だるまから飛び出した。
その姿をハッキリと捉えるより早くそいつはオレに肉迫し、駆け抜けざまに朱翼の片割れを切り裂く。
真っ二つにされた朱翼はドロリと壊死して凍り付いた。不思議と痛みはなかった。
「(なるほどな……)」
雷撃が雪だるま達を撃ち抜き、その空振るような感触で全てを察する。
これは即死させる対象が無かった時の……魂なき物に即死を使った時の感覚。
「(目立つデカ雪だるまはデコイって訳か)」
初めっから雪だるまは生きてなんていなかった。
ただコイツが陰で操っていただけなのだろう。
「(へへっ、面白ぇことするじゃねぇか。イタチじゃなくてタヌキに転生させてやるよ!)」
吹雪の〖制圏〗の中心で、いつでも動き出せる体勢で佇むその魔獣は。
〖亡獣〗としては小柄な、されど強大無比な存在感を放つ、初雪のように純白のイタチであった。
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