第143話 土蛟3

~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

シュート 強力な射撃を放てる。

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 これまで弓矢でのみ使って来た〖シュート〗系の〖ウェポンスキル〗だが、武器種を弓に限定するような文言は「スキル詳細」には書かれてねぇ。

 だから射撃に類するならば別に弓矢じゃなくても使える。


「〖SスパークルU・アプルート〗、プラス、〖ヘビーシュート〗、六重!」


 六枚の朱翼に濁流みたく〖マナ〗が流れ込み、赫赫と辺りを照らし出す。

 そうして放たれるのは数えるのも馬鹿らしくなる程の紅蓮の魔弾。


 魔弾同士の衝突を避けるため一発一発の射角を少しずつ外側へずらしており、横に広がった魔弾達は遠くからは巨大な赤い花に見えるだろう。

 空を覆わんばかりの紅蓮魔弾は、〖LロックオンAIM・エイム〗に導かれ土蛟を飲み込まんと迫る。


「「ギギギギシュァァッ!!」」


 オレの斜め上に投げ出された土蛟もそれを黙って見ちゃいねぇ。

 出し惜しみは無しだ、と言わんばかりに大量の〖マナ〗を消費し、これまでで最大級の岩塊をのべつ幕なし生み出しては撃ち出す。


 またそれとは別に、鋼の外殻みてぇな物を〖スキル〗で作り全身に纏っていた。

 即席の鎧ってとこか。防具と本体は〖嵐撃〗だと別カウントだし、一応有効ではあるな。


 そうこうしている内に紅蓮魔弾の先頭が岩塊と衝突する。

 バランスボールサイズの魔弾は、それより一回りはデケェ岩塊に真正面からぶつかり、一瞬の拮抗も無く貫通した。


 ──ジュオッ


 赤熱した穴だけを残し、朱い閃光が空を翔ける。

 立ちはだかる岩塊は悉く焼き穿たれ、時には圧力に耐え切れず爆散することもあった。


 五個ほど岩塊を貫いたところで魔弾にも衰えが見え始め、そこから三つ目の岩塊に押し負け消滅してしまったが、直後、後続の魔弾がその岩塊を貫いた。

 量でも質でも魔弾が遥か上を行っている。


「(ま、あんだけ〖スキル〗重ねたんだしスペック差はデケェわな)」


 機神の焔朱雀翼バーニングウィングを参考にし、最上級マナクリスタルと数々の希少魔性鉱物を用いて作った高熱魔弾特化型アーティファクト、朱翼しゅよく

 出力を劇的に向上させられ、さらに高密度の〖マナ〗を精製・射出できる〖SスパークルU・アプルート〗。

 力を溜めることで渾身の射撃を繰り出せる〖ヘビーシュート〗。

 そして〖LロックオンAIM・エイム〗による並列射撃時の演算能力補正。


 土蛟の岩塊も機神達の通常魔弾と相打ちできるほど頑丈らしいが、今回は分が悪い。

 岩塊の防衛網を抜け、紅の弾幕が土蛟へと殺到する。


「「ギャシィ……っ」」


 急所を守るように蜷局とぐろを巻いた土蛟の身に、赤い斑点が生まれて行く。魔弾を受け鋼の鎧が融けたのだ。

 斑点は続々と増えて行き、同じ部分へと二発目の紅蓮魔弾が当たった時、土蛟が絶叫した。

 堅硬な岩の鱗を越え、生身に魔弾が届いたらしい。


 〖マナ〗の動きを見るに土蛟は必死に鎧を修復しているようだが、紅蓮魔弾の猛攻には全く追い付いてねぇ。

 直した端から再度融かされ、融けた箇所から体を焼かれる。

 鎧は赤熱してねぇ部分の方が少なくなり、撃たれる度に溶銑ようせんを血のように撒き散らしていた。


「(……耐え切ったか、タフだな)」


 全ての紅蓮魔弾が命中した後、そこにあったのは半身が炭化した土蛟。

 焦げた体は再生速度が鈍化するため、少なくとも戦闘が終わるまでは癒えねぇダメージを負った訳だが、それでも二つの首は守り切っていた。


 しかしながら、それで力を使い果たしたようだ。

 落下する姿はぐったりとしていて力なく、これなら落ちて来たところに切り札を──、


「シュロッ!」

「シャァァッ!」

「(チっ、ブラフか)」


 オレの皮算用を見抜いたかのようなタイミングで土蛟が急加速した。

 下で待ち伏せされているのなら、接近を早めて奇襲し一発逆転を狙おうというのだろう。

 空中に生み出した岩塊を八つの脚で蹴り、宙を駆けるように落下している


「(それだけじゃねぇな、この速さ……〖重石大蛇の邪視〗を自分に使ってんのか!)」


 片方の首が隣の首の方を向いている。それにより、自身の重力加速度を増加させているようだ。

 それは加速だけじゃなく、攻撃力の増大も見据えているのだろう。

 オレが首を潰した時と同じく、重量を活かした一撃を叩き込み起死回生を図る。そんな気概が感じられた。


 まあ、実際の狙いは分からねぇが。

 つい先程騙されたばっかだ。土透過で素通りして逃げ出す、みてぇな。意表を突かれる想定もしとくべきか。


「(いや、どっちにしろ関係ねぇか。一手遅ぇ)」


 土蛟の奇襲で惜しむらくは、紅蓮魔弾を防ぎ切るまでアクションを起こさなかったことだ。

 魔弾を受けながら突っ込んで来られたら危なかったかもしれねぇが、今じゃもう第二の切り札の発射準備は整っている。


「(起動、熱線眼)」


 球と三角錐を組み合わせたようなアーティファクトの発射口が、オレの体表に浮かび上がった。

 体内で〖マナ〗のチャージを終えたそれから、一条の眩い白光が伸びる。

 太陽の如く直視しがたい白光は反応不可の豪速で土蛟の元に達し、次の瞬間にはその首を貫いていた。


 熱線眼球改め、熱線魔眼。それがこのアーティファクトの名称だ。

 “炎海”の第三の目を加工した熱線眼球を、アーティファクトの作用で強化した。


 オレがこの武器の改良を始めたのは再生対策としてだったが、〖マナ〗を光熱に変換して照射する熱線眼球は、〖マナ〗の制御を行えるマナクリスタルと相性が良かった──否、良過ぎた。

 温度が過剰に高まった熱線は陽光のような色を帯び、発射機構は白光の熱に耐え切れず一度の使用で自壊する。


「(てて……やっぱ使う度ダメージ受けるのはキツイな)」


 だが、土蛟の負ったダメージはその比じゃねぇ。

 〖重石大蛇の邪視〗を使っていた方の首は溶断され、もう片方にも重篤な火傷が刻まれている。


「(〖レプリカントフォーム〗、玄楯げんじゅん起動)」


 痛打を与え攻撃を阻止しても土蛟が落ちて来てるのは変わらねぇ。

 逃亡されねぇためにも、オレはとあるアーティファクトを模倣した。


 それは機神の武装、止玄武楯グレーシャシールドを参考に作られた盾だ。

 あれと同じく盾の前方に燐光を敷き、範囲内の物の運動量を低減する。


 変形機構をオミットしリソースを燐光に全振りしたことで範囲、低減率共に飛躍的に向上した。

 それでも土蛟は止められなかったが、速度をこれだけ落とせたら充分だ。


「(〖レプリカントフォーム〗、〖捕縛〗)」


 森鎖と骸縄──魔獣教の骸骨の〖凶獣〗から作った縄だ──を何本も模倣し、突っ込んで来た土蛟を捕獲する。

 これらなら透過はできねぇだろう。


「ギぃ……シュアぁ……っ」


 土蛟が苦しげに藻掻く。

 傷が焦げてるから出血は少ねぇが、体力は大分削れているはず。そんな状態で拘束されたら詰みだ。

 どうにか尾刃をオレに突き入れるも、表面で滑ってまるで刺さらねぇ。


「(──そうか)」


 そして土蛟の尾が触れたその時、確信した。それこそ脳裏に電流が走ったが如く。

 今ならイケる、と。


「(安らかに眠り、オレの糧になってくれ。【雷鋒豊刈地ミノリノジンギ】)」


 ブレス攻撃を使おうとしている土蛟の額にそっと触れる。そしてその身体の奥深くまで一条の雷を流し込んだ。

 【ユニークスキル】が上位化し扱えるようになった、命を刈り取るいかずちを。


 〖亡獣〗の〖レジスト〗ならば確実に防げるはずの即死も、瀕死の重傷を負っていれば話は変わって来る。

 電気ショックを受けた患者のようにビクンッ、と拘束の中で体が跳ね──同時、命を刈り取る手応え。

 森鎖達から逃れようと暴れる感覚が消え、土蛟の眼から光が失われる。


 こうしてオレは、千年前の古代文明を滅ぼした“貪る地平”を打倒したのであった。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>遠き光輝の皓玉輪こうぎょくりん(?)、不破勝鋼矢の〖魂積値レベル〗が337に上昇しました。

>>遠き光輝の皓玉輪こうぎょくりん(?)、不破勝鋼矢が〖スキル:呪縛〗を獲得しました。〖捕縛〗が統合されます。

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