第142話 土蛟2
千年前、大賢者率いる機神達が
それが超速再生能力だ。
首を落とせど止められない不死身に近いその異能は、大賢者達を大いに苦しめたという。
「(全く、面倒な能力だぜ)」
再生する蛇、と言うとかつて戦ったヒュドラを思い出す。
実はアイツの首も本来は再生可能だったのかもな。あの時は回復阻害持ちの槍を使ったから分かんなかったけど。
なお、今回はあの槍は使えねぇ。さすがに〖亡獣〗を相手取るには貧弱過ぎる。
人間の武器だから小せぇし、何より素材が〖豪獣〗だからな。
「(ま、回復阻害なんざなくても首を同時に落とせば死ぬだろうし、死ななくっても考える頭がなくなりゃサンドバッグだ。それに一応──うおっ、これは『制圧』か)」
互いの出方を窺いつつ作戦内容を反復していると、土蛟の〖制圏〗の重みが突如として増した。
恐らくは追加効果、『制圧』の力だ。
これまでは突然の開戦なこともあって追加効果をそのままにしてたんだろうが、オレを簡単には倒せねぇと踏んで本腰を入れたのだろう。
「(そいつをされると困っちまうんだよなぁ)」
空洞全体を包むオレの〖
それが今、グググ……と徐々に範囲を広げ始め、そしてすぐに拡大は止まった。
「「シャシャ……?」」
「(だから対策は練って来てるぜ)」
結界魔法の弱点は空間に対する干渉、即ち〖制圏〗だ。
〖エリアアイソレーション〗で隔離しているこの戦場だが、長時間土蛟の〖制圏〗に晒されれば効果を打ち消されちまう。
だから土蛟を〖煌廠〗の内側に抑えたまま勝つ必要があり、そのためにポーラには開戦前に〖エリアエディット・リーンフォース〗を掛けてもらった。
これは
お陰でオレは〖制圏〗勝負では圧倒的優位に立てている。
「「ギシャシャァッ」」
「(近付いて来てくれるんなら助かるぜ、〖
〖制圏〗じゃ勝ち目がないと判断してか、突如土蛟は駆け出した。
オレはそこへ無数の魔弾を発射。土蛟は今度も岩塊を飛ばして迎撃するが、これだけでは敵わねぇと学習しているのだろう。
一発目が着弾する直前でマナクリスタルの地面に潜った。
標的の急激な降下により先陣を切る魔弾達は狙いを外す。
後続は何とか軌道修正が間に合うも、水晶の海を縦横無尽に泳ぐ土蛟を捉え切れなかった。
「(隠す必要がなくなりゃ土透過も最大限使うよな、そりゃあ。逃走されなかっただけ上々だ)」
〖エリアアイソレーション〗は球状に張り巡らされているため地中からでも簡単には逃げられねぇが、〖制圏〗で
地面のマナクリスタルを収納せず残しているのはそういう理由だ。
オレは地中からの急襲を避けるかのように宙へと浮かび上がり、その様子を見た土蛟が地面付近まで上がって来る。
「「シィァァッ」」
「(おっと、用心深ぇな)」
だが直接飛び掛かっては来ず、水晶を砕いて何百もの礫に変え、先端を鋭く尖らせ、銃弾のように高速回転させ、疾風の速度で撃ち出して来た。
同時、重力が増す。
弾数を増やして収納に掛かる時間を伸ばしつつ、〖重石大蛇の邪視〗で駄目押しって策らしい。
「(しかもここまでは目眩まし、本命は尾の一撃と。そこそこ考えられてんな)」
襲い来る攻撃は無視して相手の動きを
水晶礫が体に当たるも掠り傷一つ付きはしねぇ。つるりと滑るようにして弾かれる。
そこへ振るわれるのは土蛟の長尾。尾の先には磨製石器のような刃が付いており、それでオレを真っ二つにするつもりだろう。
縦長な巨体の遠心力を最大限に活かした一撃。先端の速度は音速を優に超えている。
「「ジャァッッ!!」」
超重力の影響下でコイツを躱すのは少し疲れそうだ。反撃の準備もしねぇとだし、ここは敢えて受けておくか。
そう判断したオレを尾刃が捉え──、
「「シャぁ……っ?」」
──捉え切れず、つるっと表面を撫でるように滑って行った。
単純な理屈だ。真球に近いオレの肉体は極めて滑らかで、刃をきっかり垂直に当てねぇ限り滑って行っちまうのだ。
完全な球体って訳でも摩擦がゼロって訳でもないので衝突時に多少の衝撃は受けるが、その程度は〖タフネス〗でシャットアウト可能。
そして大技を空振りさせた土蛟は刹那、大きな隙を晒すことになる。
ここが絶好のチャンスだ。
「(起動──)」
オレが一度に扱える〖マナ〗を総動員し、体の一点、とあるアーティファクトに込めた。
それは水晶礫を浴びる傍ら、〖
「(──ブレードエクステンド、〖コンパクトスラスト〗!)」
光の柱が現れた。
柱は無防備に晒された土蛟の胴体に突き刺さる。
このアーティファクトの基本構造は、かつてタナシスに作ってもらった『伸びる剣』と大まかに同じ。
しかし刀身の形状は剣と言うより槍、もっと言うと
刃を無くし、切れ味を穂先に集中させた。
そこに〖嵐撃〗の補正が加われば、土蛟の岩鱗でさえも障子紙さながらに貫徹できる。
「「ギィ、シュアっ」」
「(〖超躍〗、〖瀬戸際〗、せいやっ)」
〖スキル〗によって空中で踏ん張り、全力で銛を振るった。耳障りな音を立てて水晶の地面が割れ、土蛟が持ち上がる。
銛の切先には返しも付いているので、途中ですっぽ抜ける心配はねぇ。
そのまま勢いをつけ、土蛟がオレと同じ高さまで来たところで銛を消す。
銛から解放された土蛟は慣性に従って宙を舞う。
ぐるんぐるんと回る視界ではオレを追い切れなかったのか、重力強化が解除された。
「(ようやくここまで持ってこれたか)」
土蛟を相手に学者達が見出した勝ち筋の一つが、空中戦。
これなら面倒な土透過を無視できるし、土蛟の機動力も大きく削げる。
最大の難関は大質量の〖亡獣〗をどう空中にぶち上げるかだったが……その課題を達成した以上、あとはアイツを仕留めるだけだ。
「(滞空してる間に倒すってのもなかなかの難題な気もするけど……やるっきゃねぇよな。〖レプリカントフォーム〗)」
〖
事前に鉱物複合のアーティファクトを用意できるなら、〖レプリカントフォーム〗で模倣した方が高性能になる。
そんな事情からオレが模倣したのは、目も醒める朱色のアーティファクト。
それを三対六枚、まるで熾天使の翼の如く左右に並べる。
「〖
切り札の一枚をオレは発動させたのだった。
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