第141話 土蛟
〖進化先〗は自身の経験や所持〖スキル〗によって変化する。
ウェポンスライムに〖進化〗した頃から何となく察しは付いていた。
だからこの国に来て少し経った頃、〖進化先〗にこの種族が加わっているのを見た時も、別段驚きはなかった。
が、その説明文には驚いた。
なにせ全身が最上級マナクリスタルと同様の性質を帯びているというのだ。
〖進化〗して分かった〖マナ〗保有量は、『〖亡獣〗の括りに
これまで不動の一位であった〖タフネス〗すらも凌駕している。
「(まぁ、この種族の本懐はそこじゃねぇけどな)」
「「シュロロロロッ!」」
一度距離を取っていた土蛟が再度接近して来る。
その姿は蛇と東洋の龍を掛け合わせたようだった。
トンネルのように太く長い胴体は岩肌のようにゴツゴツとした鱗に守られている。
八本ある脚の先には鋭い鉤爪。
首の辺りの鱗は赤黒い色をしており、変色し始めた辺りで首は二つに分岐。二つの頭部に繋がっている。
頭部も全体的には蛇のようだが、ぞろりと生え揃った凶悪な牙や側頭部から生えた捩じれ角などは龍のよう。
口の上あたりには細長いヒゲも生えていた。
「(初撃以外の傷は無し、と。やっぱ封印中でも傷や〖マナ〗は回復すんだな)」
前情報との擦り合わせが済んだところで攻撃の準備も終わった。
中空へと浮かび上がり、横溢せんばかりの〖マナ〗を力強く押し出す。
「(〖
全身より花火さながらに半透明な魔弾を撒き散らした。
ある物は一直線に、またある物は放物線を描いて土蛟へと迫る。
「「シャシャァッ」」
「(ま、対応するよな)」
無数の〖マナ〗ビームに対し土蛟が取ったのは、いくつもの岩塊を撃ち出す〖スキル〗による迎撃。
ビームの大半が岩塊にぶつかりオレ達の中間地点で爆発し、それを免れた少数のビームは土蛟の軌道も緩急も自在な動きで避けられ地に落ちた。
最大まで〖マナ〗を込めた魔弾は一発一発が大地を揺らす威力を秘める。
だが、そんな揺れじゃ土蛟は止まらねぇ。
「(だったらこっちも手を変えねぇとな、〖
新〖スキル〗を行使する。
その効能によりオレの身体が改変される──改造される。
しかしそれらの変化は一瞬、すかさず次の攻撃を放つ。
「(そらもう一丁、〖
先程同様に見える〖マナ〗のビーム。
土蛟も同じように岩塊で迎え撃つが、結果はもちろんさっきとは異なる。
「「ギシャぁっ!?」」
今度の魔弾は岩塊に当たっても爆発せず貫き、奥に居た土蛟を撃ち抜いた。
ついでにいくつかの魔弾は横に回り込むことで岩塊との衝突を避け、本体をダイレクトに穿つ。
魔弾の餌食となった土蛟は身を悶えさせ、慣性に従って地の上を──いや、水晶の上を転がった。
大地は既に一面マナクリスタルへと変貌している。
「(〖嵐撃〗込みにしちゃ傷が浅ぇ……爆発オミットは過剰だったか?)」
オレが〖
この体はマナクリスタルの塊であると同時にアーティファクトの集合体でもある。浮遊移動もこの体質を利用していた。
〖マナ〗砲撃もまた然り。
そして、その魔弾はダメージを増やすため炸裂する構成をしているのだが、それが逆効果になったのが前回のこと。
ならばとそれを取っ払い、貫通力にリソースを全振りしてみたのが今回だ。
殺傷力そのものは落ちちまってるが、充分な被害は与えられた。
土蛟は転がり、オレの真下まで来て無防備な姿を──、
「(──いや、違ぇな、これは)」
「ギシュアッ!」
頭の片割れが一鳴きすると、宙に居るオレを途轍もない重圧が襲った。
ガクンと高度が落ち、こちらを見上げる土蛟が迫る。
「(こいつが例の〖
視界内の対象に掛かる重力を劇的に増加させる〖スキル〗の存在を思い出しつつ、対処の用意をする。
土蛟は〖スキル〗で地上の水晶を操り、尖塔のように巨大な槍を三本形成して突き上げて来ていた。
〖凶獣〗であろうとまともに食らえば致命傷となるクラスの攻撃だ。
「(オレには悪手だけどな。満ちろ、〖
オレに届く寸前で巨槍は忽然と姿を消す。異空間へ収納されたためだ。
〖武具格納〗と異なり、〖
「(〖超躍〗、〖爆進〗、〖レプリカントフォーム〗)」
突然の消失で土蛟の意識に空白が生まれた刹那、全速力で飛び出した。
激増した重力は、下に跳ぶ分にはむしろ追い風となる。
距離がゼロになるまで、瞬きすらも要さねぇ。
「(〖神の杖〗、〖コンパクトスイング〗)」
模倣したのは防御無視の森槌。
〖神の杖〗による落下ダメージ反転により、二倍の威力となった衝撃が土蛟の頭の片割れを襲う。
絶大な一撃に片割れは地面へと頭を叩き付けられ、その衝撃で水晶に放射状の亀裂が入った。
角は折れ、頭蓋は砕け、血と脳漿が混ざり合った液体が飛び散っている。ほとんどの者が即死と断定する有様だ。
「(模倣解除、〖捕縛〗)」
素早く追撃に入る。
潰れた方の首に絡みついて逃亡を封じ、さらに首へとオレの肉体を食い込ませた。
遠き光輝の皓玉輪の体はマナクリスタルと同等の性質を持つ。
故に当然、周囲の〖マナ〗を吸収する性質も有している。
頭が潰れようと同じ肉体。この首からでも〖マナ〗強奪は可能だ。
「(〖レプリカントフォーム〗、〖ウィップ〗!)」
けどそれも不要になるかもしれねぇが。
拘束を施す傍ら、オレは竜鋸を模倣してもう片方の首へと刃を走らせていた。
鞭みてぇな挙動のこの武器は、〖スラッシュ〗より〖ウィップ〗の方が速度が出る。
これまでの一連の出来事に困惑していた土蛟の首を刎ね──られない。
それより早く奴は動いた。
全身の筋肉を総動員して首を後ろへ逸らし、海老反りみてぇな状態で見事斬撃を躱し切った。
「(だったらもっかい)」
斬りつければいい、という考えは即座に覆された。
ぬるり、と。
土蛟がオレの拘束から脱したのだ。
それは関節の柔らかさだとか、鱗の滑らかさだとか、そういった身体的特徴を駆使した芸当じゃねぇ。
〖スキル〗による超常の現象であり、その証拠に奴は地面の水晶の下へと潜っていた。まるでそこが水中であるかのように。
「(〖挑戦〗、〖蠱惑の煌めき〗。あー、クソ、欲掻いちまった)」
土をすり抜ける〖スキル:
それが生物まで対象に取れるかは未知数だったが、出来るかもしれねぇって前提を立ててもいた。
にも関わらず拘束にまで意識を割いちまったのは明らかな失態だ。
あそこはなりふり構わずもう片方を潰しに行くべきだった。
「(そうしてりゃ
挑発系〖スキル〗に釣られ地面から浮き上がって来た土蛟には、こちらを苛立たし気に睨む、さっき潰したはずの頭があった。
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