第141話 開戦の号砲

 カツンカツンカツン。

 隣を歩く少女が段を一段降りる度、甲高い靴音が鳴る。

 狭い螺旋階段には音が良く響いた。オレは宙を移動してる・・・・・・・から音しねぇけど。


「結局、フィスちゃんには許してもらえたの?」

『まあ、なんとかな』

「早く打ち明けないからだよ」


 数日前、オレが魔獣だってバラしてからフィスは大層ご立腹だった。

 ポーラとの魔法特訓のことにも気付かれていたらしく、それを黙ってたのもマズかったらしい。しばらくギクシャクしていた。


 とはいえどうにか和解できたので、今隣にポーラしかいねぇのは仲違いをしたからじゃなく、単にそういう役割分担ってだけだ。

 フィスやキサントスはオレが敗北した時に備え街で待機している。


『少し寄り道するぜ、ロック解除』


 螺旋の内側の壁。否、壁に見えるよう巧妙に偽装された扉型アーティファクトへと〖マナ〗で干渉し、鍵を開ける。

 スライド式に開いた扉の向こうには無数のモニターや機具と一人の人間……ではなく、疑似魔像機が一体。


「早く上がらないと一緒に転移できませんよ」

「余計なお世話です。今おこなっているのは最終チェック、時間が来れば移動するつもりでした」


 賢人、と。そう呼ばれていた者がそこに居た。

 正確には初対面の日も本体はこの場に居て、オレ達が会ったのは端末機影武者だったそうだが。


『……本当に本体も疑似魔像機なんだな』

「勝手に解析しないでください、マナー違反ですよ」

『いや解析したんじゃねぇ、〖スキル〗でアーティファクトの位置は勝手に分かっちまうんだよ。てか解析されたらされたって分かるだろ』


 汎用型凶級疑似魔像機。それが不老の賢人の正体だ。

 魂すら宿す程に高度な演算回路を持ち、千年間人間だと偽ってイーサ王国を統治していた。


『改めて、大賢者ってのは凄ぇ人だったんだな。ここまで精巧に人間を模すたぁな』

「そうです、マスターは古今独歩の知者でした。そしてそんな御方の為した偉業を貴方はこれよりふいにするのです。失敗は許されませんよ」

『あぁ、覚悟はしてる。しみったれた祭りは終わらせてやっから、アンタは祝勝祭の準備でもしててくれ』

「……ならば私から言う事はありません。貴方の戦力評価はクラスF、土蛟つちみずちと同等です。勝てない戦いではないでしょう。……勝利を祈っています」


 用事は済んだのか、賢人は椅子から立ち上がり隠し部屋を後にした。

 オレ達は彼女に背を向けまた階段を降り始める。それからしばしして終点が見えて来た。


 賢人塔の地下一階より続く遠大な螺旋階段は、踊り場の手前にて終わりを告げた。

 固く閉ざされた扉を開けた先には漠々たる空洞。

 大空洞ほどじゃねぇが、サッカーコートが十個はすっぽり収まりそうな空間。


『ふぅ、やーっと体を伸ばせるぜぇ』


 〖進化〗により校舎サイズの巨体になったことで、空間拡張袋の中がかなり窮屈になっちまったのだ。

 空間拡張袋から這い出て一つ伸びをする。


 そうして現れたオレの全身は、水晶玉のような球形をしていた。

 その流麗な曲面には些かの歪みもなく、泉に雷光を溶かし込んだみたいな体色を有す。


 透き通った黄金色の球体。それが端的に表したオレの姿だった。


『封印装置に変わりはねぇな』


 空洞の中心にはぽつんと封印維持のアーティファクトが置かれていた。

 しかしその大きさは規格外。一軒家に相当する大型アーティファクトである。


「それで、あの中に土蛟が居るんだね」


 ポーラの視線が上へ向く。

 封印装置の上空には水晶柱をいくつもくっ付けたようないびつな物体が浮かんでいた。


 アーティファクトを指して封印装置と言っていたが、正確にはアーティファクト自体が封印してる訳じゃねぇ。

 こいつの正式名称は捧魂魔炉デビルケトル

 発動者の魂を代償に魔法を超強化し、追加の魂を捧げることで魔法の持続時間を延長できるアーティファクトだ。


 そんな封印維持装置の元へオレは一人、宙を移動して近付いて行く。


『じゃあ、始めるぜ』

『うん』

『〖縄張り〗、発動』


 手始めに周囲の空間を己の支配下に置く。

 〖煌廠こうしょう〗へと変化したオレの〖制圏〗は、範囲内の全ての物をマナクリスタルへと変えちまう。


 だが『識別』を付けてっから封印装置を巻き込みはしねぇ。ポーラは元々範囲外だ。

 より深く、より色濃く、〖制圏〗が空洞中に沁み込むよう意識しながらポーラの準備が整うのを待つ。


『こっちも準備完了。やっちゃっていいかな?』

『いいぜ』


 〖念話〗の射程ならば数百メートル超の距離でも意思疎通を図れる。

 そしてオレが許可を出したことで、ポーラは手元のアーティファクトに手を乗せ魔法を発動させた。


『──行くよ、〖エリアシンク〗、〖エリアエディット・リーンフォース〗……〖エリアアイソレーション〗!』


 〖煌廠こうしょう〗の外縁に沿うようにしてポーラの魔法は発動した。

 〖亡獣〗になってより鋭敏になった空間に対する知覚が、空洞の壁が格段に遠のいたことを知らせる。


 〖エリアアイソレーション〗は空間を隔てる魔法。

 すぐそこにあるように見える物でも、この魔法で隔てられれば何百メートル……下手すりゃ何千メートルと移動しねぇと手が届かねぇ。


 〖亡獣〗同士の戦いによる余波を防ぐためにこの魔法が必要だった。

 本来、こんな規模で発動すればあっという間に〖マナ〗が枯渇するが、ポーラは太陽石の欠片を基点に魔法を使っている。

 〖マナ〗消費を物質に押し付ける高等技術を、彼女はこの数日で習得したのだ。


「(つっても浪費できるほど余裕たっぷりって訳でもねぇし早いとこ始めねぇとな、通電)」


 【ユニークスキル】でバフを掛け、封印装置に意識を向ける。

 土蛟は物理的に水晶内に閉じ込められてる訳じゃねぇ。もっと概念的な封印を施されている。だから千年何も食ってなくても餓死とかはしてねぇらしい。


 そして概念的封印であるが故に、封印維持装置及び水晶が消失すれば、その瞬間に土蛟は解き放たれる。


「(〖WWW盈虚の智徳〗)」


 〖進化〗で得た新〖スキル〗を発動。

 アーティファクトやマナクリスタルを異空間に収納できるこの〖スキル〗で、水晶と封印装置を消し去る。


 直後、絶大な存在感が発生した。〖制圏〗を押し返される感覚からして〖凶獣〗以上なのは間違いねぇ。

 〖制圏〗同士の衝突により強烈な衝撃波が発生し、


「「ギシュォ──」」

「(〖SスパークルU・アプルート〗)」


 その瞬間、オレは用意していた攻撃〖スキル〗を最大出力でぶっ放した。

 魔石学的に理想とされながら、現行技術では再現不可能とされた完璧な球形。

 そこから出力されるのは完全出力の〖マナ〗ビーム。そんな代物が水平より上、全方位に向け無数に射出された。


「「ギュ──」」

「(〖LロックオンAIM・エイム〗)」


 まず、正面から放たれたビームが土蛟を直撃。

 次に側面からの、最後に背面からのビームが波状攻撃を仕掛けた。


 明後日の方向に向かう攻撃であっても相手に当たるよう軌道を修正する。

 それが〖LロックオンAIM・エイム〗の力だ。


「「ギシャアアァぁっ」」


 首が二股に別れた蛇のような龍のような魔獣、土蛟。

 そいつはビームの雨に晒されながらも、八本ある脚を素早く動かし迅速に距離を取った。


 が、逃げるつもりは更々ねぇらしく、強い眼光でこちらを睨み〖制圏〗を押し付けて来る。


「「ギシシシシ……ッ!」」

「(寝起きで悪ぃが〖経験値〗になってもらうぜ)」



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:遠き光輝の皓玉輪こうぎょくりん(?)(NEW)

獣位:亡獣

魂積値レベル:264


 スタッツ

ライフ :6325/2530

マナ  :776496/315343

パワー :1482

タフネス:19886

レジスト:1641

スピード:1610


 スキル

カバー 登攀 ブロック 逃走本能

ウィップ コンパクトウィップ 愚行

スラッシュ コンパクトスラッシュ ジェスチャー

ウェポンボディ 遁走 転瞬 クロスカウンター

挑戦 集中 貯蓄 輸送

武具格納 レプリカントフォーム 蠱惑の煌めき

スラスト 抗体 コンパクトスラスト シュート

分解液 チャージスラスト チャージスラッシュ コンパクトシュート 隠形

軟体動物 一擲 受け流し 噛み千切り

ウェーブスラッシュ ウェーブスラスト 捕縛

ヘビースラッシュ ヘビースラスト ヘビーシュート

精密射撃 毒手 高速再生

武装の造り手 激化する戦乱 多刀流

千刃爆誕 縄張り パリィ

スイング コンパクトスイング ヘビースイング

チャージスイング クエイクスイング 舞闘

暗殺 嵐撃 土俵際

怒涛の妙技 潜水 透視

逆行 穿孔 絞殺 超躍 神の杖

爆進 地形把握 擬態

念話 弾道予見 WWW盈虚の智徳(NEW)

SスパークルU・アプルート(NEW) LロックオンAIM・エイム(NEW) Uアップデート(NEW)

COM完璧たる玉体(NEW) リペア・ムーンライト(NEW) 眷属(NEW)


ユニークスキル:雷鋒豊刈地ミノリノジンギ

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

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