第136話 OBIA

 すみません、予約投稿の時間を間違えていました。

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 アーティファクトの作り方を教わった日の夜、オレとポーラは再び故郷の森へと来ていた。


「ふふっ、楽しかったねぇ、アーティファクト作製」

『フィスが意外に上手ぇんだよな、先生より緻密に組み上げてて』

「そうそう! それで──」


 日中の思い出話に花を咲かせているが、ここは危険な魔獣の出る森。

 声を聞けば魔獣もやって来る。

 ちらりとポーラが視線で示した先から、大きな鼠の魔獣達が駆けて来た。


『うっし、そんじゃ試運転と行くか。行け、オビア!』

「ワンワンッ!」


 オレは隣を歩いていた犬型疑似魔像機・・・・・・・へ、〖意思伝達〗で命令を飛ばす。

 するとそれは果敢に前に出、威嚇の鳴き声を発した。


「勇敢だねぇ」


 中型犬サイズでありながら、ライオンサイズの〖長獣〗達の前に立つオビアを見てポーラが呟く。

 オビアは今日・・、工房で作った疑似魔像機だ。一つだけ持ち帰っていいと言われたのでこれを選んだ。


「ワゥゥゥ、ワンッ!」

「「「ヂヂヂヂィ……」」」


 大鼠達が十メートルほど手前で止まり、威嚇するような唸り声を上げる。

 オビアの大きさは〖雑獣〗並だが、森では珍しい金属の質感を警戒してるのかもしれねぇ。

 あるいは、後ろに控えてるオレを見て逃亡を考えてるのか。空間拡張袋に半身を入れてる今でも〖豪獣〗程度はあるからな。


「ワンワンッ!」


 再度オビアが吠える。

 番犬としても使えるように咆哮機能を搭載しているのだ。結構な大音量なので相手を威嚇できるほか、周囲に異変を伝える役割もある。


「ワンワンッ!」


 三度みたび吠える。互いの位置はさっきから変化してねぇ。


「ワンワンッ!」


 そして四度目。そろそろお気づきだろうが、オビアにはこれしか出来ねぇ。

 オビアのコンセプトは兵器じゃなく『ペットみたいな疑似魔像機』である。初っ端から戦闘用を作るのはキツそうというのと、この国に類似品がなくて儲けられそう、って理由からそうなった。


 そういう訳で魔獣を相手に出来るのは吠えることだけであり、あちらさんもいい加減動き出すだろう。

 その前に倒しちまおう。


「(〖レプリカントフォーム〗)」


 模倣したのは赤い六角柱達。その根元には複雑な機構が付いている。

 マナクリスタルを〖激化する戦乱〗で加工したこれらは、オレが屋敷に戻った後で作った物である。

 先端を空に向け〖マナ〗を込める。するとそれぞれから一発ずつ、〖マナ〗のビームが放たれた。


「「「ヂュゥっ!?」」」


 見当違いの方向に放たれたビームを大鼠達は目で追いかけ、それらが軌道を変えて自分達に迫っていることに気付く。

 慌てて逃げようとするも時既に遅し。高速のビームに撃たれ爆発四散したのだった。


『弾道変化は大丈夫そうだな』


 “巨像”や街の砲撃がしていた曲がるビーム。あれは疑似魔像機にも使われている演算回路を用いたものだった。

 対象の位置を観測し、射角と弾速を自動で演算し、死角を突く弾道になるようオートで調整できるのだ。


「演算回路だっけ? 弾道設定の〖マナ〗の動きってかなり複雑だけど、それを全部自動で出来るなんて凄いよねぇ」

『ホントにな。何百メートル離れてても余裕で当てられっし便利だわ。ま、演算回路に〖マナ〗を取られて重量も増すってんで防人達は使ってねぇらしいけどな』


 何事も一長一短ということか。


「それにしてもこの子も偉かったよねぇ、自分より大きい相手に立ち向かってさ」


 戻って来たオビアの頭をポーラが撫でる。


『どうせなら戦えるようにもしてぇけどな』


 マナクリスタルには品質の低いせいで演算速度も出力も実戦レベルには程遠い。

 関節の稼働もぎこちねぇし、ボディの素材もより戦闘に適した物に替えるべきだろう。


「コウヤ君ならそのうち戦わせられるようにもなるよ。先生も驚くくらい覚えるの早いんだし」

『予習と〖激化する戦乱〗のおかげだな』

「〖激化する戦乱〗……? なんだっけ、最近どこかで見た気が……」


 武器の解析・改造を専門とした〖スキル〗である。しかも〖凶獣〗に〖進化〗して得たものなので性能も格別だ。

 これでアーティファクトを解析すれば、その構造や各所の役割といった情報を短時間で頭に叩き込めるのである。


 まあ、解析の情報だけじゃ分からねぇ部分もあるし、“巨像”の演算回路には解析が通じねぇからこれまで手をこまねいてたんだが……今日の作製体験のおかげで一気に理解が進んだ。


「……あ、そうだ! コウヤ君がくれた本に載ってたんだ!」

『ん? あぁ、魔獣教の奴か』


 オレを襲ったあの男が持ってたって分厚い本。大分損傷が激しかったが、何かの役に立つかもと一昨日ポーラに上げたのだ。

 ポーラは魔法学園に入るだけあって文字も読めるしな。


『なんだ、やっぱり解析系の魔法だったのか。他にはどんな情報が載ってんだ?』

「んーとね。コウヤ君のページは半分以上破れてるけど、見える範囲だと〖蓄積値レベル〗が二百四十八で──」


 ふむ、魔獣教の男が死んだ時点でのオレの情報が載ってるみてぇだな。

 〖スタッツ〗とか〖スキル〗はほとんど破れているが、最近手に入れた〖スキル〗は割と見えるらしい。


「じゃあこのページは消しちゃうね」

『個人情報だしな、頼む』

「りょーかい、〖エリアデリート〗」


 今後使うこともねぇだろうと、ポーラに魔法で完全削除してもらう。

 魔法が発動した途端、まるで初めからそんな物なかったかのようにそのページが消え去った。


 〖エリアデリート〗は〖エリアスラッシュ〗よりも広範囲に及ぶ攻撃魔法で、範囲内の空間を丸ごと消滅させちまう。

 大技なくせに範囲が狭ぇから実戦じゃ使えねぇらしいが、自在に使えるようになれば〖豪獣〗以下は敵じゃなくなるはずだ。


「それでさ、これは本当にアタシが使ったんでいいの? ページを破るとそこに描かれたモノが出てくる本なんて値が付けられないくらい貴重だけど……」

『構わねぇ。オレがそれに頼る場面はそんなにねぇだろうしな。それよか人間社会に詳しいポーラが持ってた方が安心だ。元の持ち主が胡散臭い魔獣教に入ってたから、人前では使わねぇ方がいいかもだけどな』

「分かった、覚えとく」

『そんじゃそろそろ今日の訓練始めっか』


 雑談を切り上げ、オレ達は〖結界〗の試行錯誤を開始するのだった。




 それからしばらくの時が経ち、そろそろ終わろうかというタイミングで魔獣の群れが顔を出した。

 ポーラは〖マナ〗を使い果たしていたので、手早く【雷鋒豊刈地ミノリノジンギ】の雷撃を浴びせる。


 うねる雷は見事に綺麗に魔獣を貫き、その全てを即死・・させた。

 途中で雷が掠った植物も見る間に生気を失い、枯れ果てている。


「昨日、実験に付き合ったけどやっぱりとんでもない能力だね、それ」

『だろ? バフにもなるし便利なんだぜ』

「【ユニークスキル】……だっけ。〖ステータス〗見てて思ったんだけど、そもそも【ユニークスキル】って何なの?」

『いや、それはオレもよく分かんねぇんだ。エルゴも知らなさそうだったしな』


 ポーラと一緒によく話をした、商家の次男のことを思い出しながら言った。

 オレがスライムに転生したことと関係があるかもと思っちゃいるが、その辺の事情を話すとややこしくなるので割愛する。


 それから一頻り首を傾げ合った後、オレ達は解散したのであった。

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