第132話 苔コッコーと三人目
地底の森を往くオレ達は……というかフィスは次々に魔獣を撃破していた。
だが、その快進撃も終わりに差し掛かる。
「〖マナ〗、無くなりそう」
「そうか……今日の戦闘で多少上がっただろうが、元が〖レベル1〗ではな」
キサントスが納得するように頷いた。
もちろん、無くなりそうってのは嘘だが。
〖ステータス〗を見れば〖マナ〗の絶対量が把握できるので、一般人を装うのは容易だ。
「これから引き返すとして、帰りの戦闘は……」
『オレだな』
「分かった、フィス殿とタナシス殿の護衛は任せてくれ」
〖武具格納〗からアーティファクトの武器達を取り出す。
基本的には近接武器だ。靴やビーム銃も貰っちゃいたが、そっちはまだ使わねぇ。
「(んー、やっぱぱっと見じゃ武器っぽくねぇな。もし地上と国交ができたら暗殺とか……オレが考えることじゃねぇか)」
掌から飛び出す大きさの十字架のアクセサリー、の形をした剣を見る。
十字架の短い方が柄で、長い方から刃が展開されるのだ。この国の近接武器はこういった形式の物が主流である。
『こっちのがビームより〖マナ〗効率がいいんだっけか』
「ですのう。刃を形成した後は維持するのみで良いので消費が少なく済むのです」
「んでも魔獣との戦闘は散発的っスし、刃作るのって結構〖マナ〗食うんであんま大きな差はねーんスけどね」
『ずっと出しっぱにはしねぇのか?』
「刃の維持も長時間やってると消費が嵩みますし、必要な時にだけ出した方が便利なんスよ」
そんな話を聞いていると、また魔獣が近付いて来た。
オレはのっそりと前に出、武器を構える。
「コケケケッコケッコォー!」
現れたのは茶色い羽毛とビリジアングリーンの鶏冠を持つニワトリだった。
ライケンチキンという名前で、野に放った家畜が森へ行き、地底の苔の影響を受けて〖進化〗したそうな。
「(ブレード、オン。アクセル、オン。そいやっ)」
〖マナ〗を込めると刃が生まれ、さらに込めると独りでに加速し始める。その加速度に後押しされるようにして一閃。
軽やかに宙を翔けた刃がライケンチキンの首を刎ねた。赤い血が周囲を染め上げる。
『いい切れ味……なのか? 正直〖雑獣〗じゃ分かんねぇな』
「ヤッバ……っ、全然見えなかったっスよ……!」
「やはり私と戦った時は全力では無かったのだな」
『あん時は穏便に話し合うつもりだったからなぁ』
この街に押し入った時のことを振り返りつつ、剣を視てみる。
赤いマナクリスタルが使われているだけあって、加速力はそれなりだった。
「む、新手だな」
解体のため苔鶏に近付いたキサントスが呟く。
少しして現れたのは蛙の魔獣達。毒々しい紫と黄緑の斑模様をした四体のトキシックフロッグ、先頭に立つ大きな個体は〖長獣〗だろう。
「(地底湖に隣接してっからこの森にも水棲系の魔獣が出るんだったか)」
そんな情報を思い返しながら、オレはアーティファクトへと〖マナ〗を込める。
さっきとは別の剣だ。防人の武器にはマイナーチェンジ版がいくつもある。
「(これの効果は……ああ、アレか)」
ささっと解析し、十字架の先端を向かって来る毒蛙へと向けた。
距離はまだ十数メートルある。が、そこはもうこいつの間合いだ。
「(〖マナ〗はこんくらいで……と、ブレードエクステンド、オン)」
十字架の先端に〖マナ〗が供給され、刃となって半物質化し、そして際限なく伸びて行く。
その伸長速度はオレが込めた〖マナ〗の量に比例する。即ち、超高速だ。
右端に居たトキシックフロッグは避けることも出来ず貫かれた。
「(ほいっと)」
そのまま刃を横に寝かせ、軽く薙ぐ。
それだけで毒蛙達は全滅した。〖雑獣〗も〖長獣〗も分け隔てなく斬り裂かれた。
『木も斬っちまったか、もうちょい練習しねぇとな』
オレと毒蛙達の間にある木はともかく、奥の木は〖マナ〗を加減すれば傷付けずに済んだ。
どの程度の〖マナ〗でどのくらい伸びるのか、の感覚も掴まねぇとな。
「どうですかな、エクステンドタイプのアーティファクトは」
『面白ぇよ。地上の武器はこんな風に伸びたりしなかった』
まあ、オレの場合はある程度の長さまでなら変形すれば再現は出来るんだが……本題はそこじゃねぇ。
この機能をアーティファクトに取り入れれば、他の効果と組み合わせて様々な応用が利くだろう。
「本来は間合いを見誤らせる物なのだがな、豪快な〖マナ〗の使い方だ」
『オレぁ〖マナ〗は有り余ってっからなぁ』
「遠距離攻撃なら、〖スラッシュウェーブ〗で、良かったのでは?」
フィスの言葉は聞かなかったことにして、毒蛙達の解体を行った。
〖長獣〗の方はレアらしく、夕飯はこれにしようとクリッサが喜んでいた。地味に彼女も屋敷で寝泊まりし始めたのだ。
毒はねぇのかと聞いてみたところ、毒抜きの調理方法は確立されてるそうだ。逞しいことである。
その後も出くわした魔獣でアーティファクトの試し切りをしつつ街へと戻って行った。
これまでに使った以外にも、浮遊する武器、先端からビームを撃てる武器、自在に形を変えられる武器などがあった。
そうして一通り試し終わり、屋敷へ帰り、一旦自室まで戻り……異変が起こったのはその時。
部屋の中で〖マナ〗が蠢きオレの横にぽっかりと孔が開いた。孔の向こうにはこことは別の部屋がある。
「聞いてよコウヤ君! せっかく魔法が、く……え?」
孔を潜って出て来た人物は、現在地が屋内であることを確認し、近くの窓から異国情緒に満ちた外の景色を覗き、それから振り返って訊ねた。
「えっと……ここはどこ……?」
『それは話すと長くなるんだが……ポーラこそ何でこんなところに……?』
突然の訪問して来た水色髪の友人に、オレはそう問い返すのであった。
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