第133話 ポーラ来訪
「──てことがあったんだ」
『そいつは……災難だったな』
空間拡張袋の異空間を介して現れたポーラから、別れた後の経緯を聞いた。
オレが森を出た後も魔法の修練に励んだ彼女は魔法学園の試験に合格……したまでは良かったものの、初日にトラブルに巻き込まれる。
そこで貴族の〖政圏〗のコントロールを奪ったところ、大変顰蹙を買ったらしい。
貴族達のあまりの剣幕に思わず転移で一時退却し、物陰から様子を窺っている内に事態はエスカレート。
学園長がかなり血統主義に偏っていたこともあり、あれよあれよと戻れる雰囲気ではなくなっていったという。それでいいのか魔法学園。
しばらくは友達だという貴族の少女の部屋に隠れていたものの、事態が一向に収束しそうにないためしばらく雲隠れすることを決意。
実家に戻っては迷惑を掛けるかもしれない、ということで世俗とは一切関わりのない生活を送っているオレを頼って来たとのことだ。
「いやー、あはは、参っちゃうよね」
と彼女は明るげに笑っていたが、それが空元気であろうことは察せる。
とはいえ過剰に哀れむのも違うような気がするし、取りあえず頼ってくれていい旨を伝えることにした。
『まあ、なんだ、オレにできることがあったら協力するぜ。何でも言ってくれ』
「うん、そのつもりだったんだけど……どうして街に居るの? もしかしてここってスライムの街だったりする?」
『いや、スライムが街を作ったって話は聞いたことねぇな……。話すと長くなるんだが、オレがここに来たのは──』
それからオレもこれまでの出来事を掻い摘んで説明した。
ポーラは相槌を打ったり質問をしたりしながら話を聞き、そして話が終わると一つ、深く頷いた。
「地面の下の国……かぁ。俄かには信じられないけど、外の景色的に本当なんだよね」
岩盤に覆われた空を見てポーラが言う。
『ああ、オレもこんなのがあるとか“巨像”と戦ってた時は微塵も思わなかったぜ……と、そのことは置いといて。ポーラはどうすんだ、これから。この街で過ごすのか?』
「そうしたいけど大丈夫そうかな? いきなり知らない人が現れて屋敷の人達ビックリしない?」
『まあ驚きはするだろうが、追い出されるってことはねぇと思うぞ。何せいきなり現れたオレとフィス……友達を泊めてくれてる人達だからな』
それはただ親切なだけじゃなく、オレへの恐怖も多分に含まれた対応なんだろうが……まあでも、善意だってゼロパーセントじゃねぇだろう。
「そっか。……ところでフィスってのは話に出て来た鉱山で会ったって子?」
『そうだぜ』
「人間だって騙してるっていう?」
『人聞きが悪ぃな、その通りだけど』
「別に大丈夫だと思うけどなぁ、それだけ信頼関係築けてるならさ。対話できるなら言葉の違いなんて些細なものだと思うよ?」
『まあ、実際はなんてことねぇのかもしんねぇけどさ……いざ話そうってなるとビビっちまうんだ。もし拒絶されたらショックだし』
「ふうん、まあ秘密を明かすのって怖いもんね。ところでその子、もしかすると部屋の前まで来てるかもよ」
『……え?』
聞き返したその時、扉の開く音がした。
「コウヤ、キサントスが呼んで………………誰?」
立ち尽くしたフィスがぱちくりと瞬きをした。
「──とまあ、こんな感じのことが出来る魔法です。距離が離れると〖マナ〗消費が増えるので無限に転移とかはできませんが」
一階リビング。屋敷で最も広いその部屋に、住人達が集まっていた。
〖空間〗改め〖結界属性〗の魔法を実演して見せたポーラが、集まった面々の反応を窺う。
なお、異空間を利用すれば無制限に転移できることは秘密にするらしい。
相談する暇はなかったが、話している最中にアイコンタクトを送られた。
「むう……障害物を無視した長距離移動とは、恐るべき〖属性〗だな。……いや、コウヤ殿の友人と言うのであれば、心配はないが」
一瞬、キサントスの瞳に剣吞な光が宿った。
まあ、転移の危険性は治安組織の長たる彼にとっては当然見過ごせないだろう。
「スゲェ便利そうな魔法だな、背中掻きたい時とか便利そーじゃん!」
娘のクリッサは逆に転移の有用性に目を付けた。例えはちょっと小規模すぎるかもしれねぇが。
なお、彼女もこの屋敷で暮らしている。実家に一人だと暇なのだそうだ。
「ん、コウヤの知り合いなだけはある。凄い魔法」
「えへへ、ありがとう」
ポーラが照れたように頬を掻いた。
偉大な魔法使いを目指してたんだし、魔法を褒められるのは嬉しいんだろうな。
それからキサントスが口を開く。
「しばらくここに居たいということだったな。コウヤ殿達が良いのなら私は構わない。好きな部屋を使ってくれ」
それから彼は立ち上がり、少し出かけて来ると言って屋敷を離れた。
恐らくポーラのことを報告に行ったんだろう。普段付けている通信用アーティファクトじゃ、送信は出来ても受信は出来ねぇ。
細かい話をするには面と向かう必要がある。
「んじゃさ、早速部屋決めしよーぜ! フィスの部屋はあそこで、俺が居るのはあっち、親父のはその隣だな」
「コウヤ君の部屋がそこだから、うーん……」
「中、見てからの方が良い。日当たりとか、広さとか、結構バラバラ」
そんな風にしてポーラもこの屋敷で暮らすこととなった。
同年代であることもあってか、フィスやクリッサともすぐに打ち解けた。
部屋を決めたり、家の中を見て回ったり、アーティファクトに感心したり、夕食の毒蛙に驚いたりしてその日は暮れて行った。
そして夜。
自室でうとうととしていたオレは、自室で〖マナ〗の揺らぎを感じ取った。
『これは……〖スペースホール〗か』
「うん。寝てるとこごめんね」
『気にすんな。まだ寝てなかったしオレにはほとんど睡眠は要らねぇから』
それよりどうしたのか、と用件を尋ねる。
「それなんだけど……結界魔法の練習、させてもらえないかな? コウヤ君の〖制圏〗でさ」
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