第131話 街の賑わい
地底王国にやって来て三日目。
キサントスやクリッサに付き添われ街に繰り出したオレ達を、喧騒が取り囲んでいた。
『めっちゃ目立ってんな』
「コウヤ、大きいから」
若干居心地悪く思いながら通りを歩く。
なお、市民達は遠巻きに見守るばかりで寄って来ない……どころかオレの進行方向に入らないようにしているので、スムーズに移動出来ていた。申し訳なさが募る。
今のオレは空間拡張袋を利用して小型化してると言っても小象サイズはあるので、そりゃあ避けるというものだ。
「それだけじゃねーっスよ。皆、外から来た人なんて初めてだから必要以上に怯えちゃってるんス」
深緑の髪の少女がヘヘヘッ、と意図のよく分からねぇ笑みを浮かべながら言った。
あの後何度かぎこちないやり取りを交わし、結局クリッサの態度はこんな感じに落ち着いたのだ。
『まあ道空けてるくれんのはありがてぇ、取りあえずクリッサのオススメのとこに連れてってくれ』
「了解っス!」
張り切った様子の彼女に導かれるまま、オレ達はイーサ王国の街並みを見て回る。
初めて異世界人の街を見るオレはもちろん、フィスも異国情緒あふれる建築物に興味津々のようだった。
彼女が暮らしてた地域もここ同様石造りが基本だったそうだが、材質や建築様式が違うらしい。
特に、この国では太陽が中天から動かねぇから、それに合わせた特異な構造になってるしな。
加えて、この街の基盤にはアーティファクトがある。
畑を耕すのは部活で使うトンボの先を自動回転刄に替えた物で、家畜の監視をするのは埴輪型の雑級疑似魔像機。
老人は自走する椅子のような物で移動している。
空に浮かぶ太陽石もアーティファクトだ。
〖マナ〗を増幅させる炉の役割も担っているようで、発光しない夜間に内部で蓄えた〖マナ〗を街の各所にある〖マナ〗貯蔵施設に送り、それらを供給することで街にある大規模なアーティファクトは稼働しているのだとか。
「──とまあ、〖マナ〗を空から送る仕組みは以上になりますぞ」
『へぇー、そんな方法があったのか。よく考えられてんなぁ』
「俺も初耳だわ。そんな風になってたのかー」
なお、アーティファクトの説明係としてタナシスも同行してくれている。
地底人だからってアーティファクトのことを知り尽くしてる訳じゃないのだ。
「ふむふむ、地上にはアーティファクトはないとのことですし当然ですのう。時に、地上ではどのようにして──」
まあ、頻繁に地上のことを聞かれるのだけが玉に瑕だが、こっちが彼にとっての本懐だろうし仕方ねぇ。
上手い具合にフィスにパスしながら、答えられるところだけ答えていく。
『いやー、にしても活気で一杯っつーか、街の皆が忙しそうだな。この国じゃこれが平常運転なのか?』
「……今月の末に祭りがあるのです。五年に一度の地神祭が。皆、準備や期待で浮足立っておりますのう」
「…………」
「神、ヤな響き……」
『こらこら、魔獣教の件があったし気持ちは分かるがそういうのは口にしちゃ駄目だぞ』
信仰対象を愚弄されたと怒られないかヒヤヒヤしながらそう注意する。幸い、誰も気にする様子はなかったが。
とまあ、こんな感じで街を巡り、謎の甘いお菓子──この国特有の作物から作ったらしい──を食べたり。
昼食──カエルの丸焼きセット。意外に美味しかった──を食べたり。
薄いが歯応えのあるお菓子──地底湖で採れる魚介から作ったらしい──を食べたりして過ごしたのだった。
『本当に森があるんだな……』
「ん、変な感じ、地下なのに」
『太陽石は偉大ってこったな』
四日目、オレ達は街の外へとやって来ていた。
オレ達が落ちた草原とは反対側にあるこの森は地底有数の魔獣生息地であり、防人が日々魔獣を間引いているらしい。
「そうですな、この森は当初は存在しなかったそうですぞ。アーティファクトによる開拓や植樹により自然豊かな森となったそうです」
『へぇー、じゃあ草原も同じ感じで作られたのか?』
「ええ、あちらは主に放牧を目的として開拓されたのだとか」
タナシスが豆知識を教えてくれた。思い返してみりゃ、オレが落ちて来た時も小粒な魔獣が何体か居た。
ちなみに、キサントスとクリッサは前後に別れて魔獣の警戒に当たっている。
『なるほどな。でも何で魔獣がこんなに繁殖するまで放っといたんだ? ある日突然増えた訳でもねぇだろうし……』
「〖レベル〗上げの場を作るためと、高位の魔獣素材を生み出すためだそうですぞ。〖進化〗を経た魔獣の素材は特殊な効能を秘めていることが多いですからのう」
「──魔獣だ」
先頭を往くキサントスが片手を挙げた。
一行にピリッとした緊張が走る。
「この羽音は恐らく〖雑獣〗のケイブバット。数は三、およそ二十秒後に接触する」
魔獣の出る場所に行きたい、と提案した時にこの辺に出没する魔獣については一通り教えられた。
ケイブバットは蝙蝠の魔獣だ、音に関する〖スキル〗を持っている。
「ん、了解」
「……本当にフィス殿が戦うんだな?」
「問題ない」
そう言って進み出たフィスは、普段とは違う装いをしていた。
防人の使う機動性重視の軽鎧にアーティファクトである籠手。
右手の籠手は先端に六角柱の付いた砲兵用の物だ。
「「「キィキィッ」」」
疎らに生えた木の合間を縫い、三匹のケイブバットが向かって来た。
普通の蝙蝠より一回り大きな彼らは、長めの牙をギラつかせている。
「起動、シュート」
フィスが〖マナ〗を込めると右手の砲より〖マナ〗の光弾が放たれた。
それは矢もかくやという速度で飛んで行くも、俊敏に飛び回るケイブバットには当たらねぇ。続けざまに放った二射目、三射目も躱される。
「訓練は熟してもらったが、回避に秀でたケイブバットが相手では──」
「──もう慣れた」
そして四射目、五射目、六射目で立て続けにケイブバットを撃墜したのだった。
この場に沈黙が訪れる。
「……ヤバすぎでしょ」
「……試射の時も思ったが、フィス殿の射撃の才は末恐ろしいな」
「武器が良かっただけ。ほとんど〖マナ〗込めてないのに、凄い威力」
右手の籠手──赤いマナクリスタルの使われた魔砲をさすりながら言った。
「高位のマナクリスタルを使えば〖マナ〗放出の出力も上がりますからのう。本来ならば防人長クラスにしか携帯を許されない武器ですが……そこはコウヤ殿のおかげですな。寄付していただいた我々も頭が上がりませぬ」
『あの鉱脈見つけたのはフィスも一緒だったし、それに死蔵してても仕方ねぇからな。それより色々動いてくれてこっちこそありがとうな』
“翻地”と戦う前に見つけた高品質マナクリスタルの洞窟。
そこで拾ったマナクリスタルの一部をこの国に寄付するから、オレ達用のアーティファクトを作ってくれと頼んでいたのだ。
アーティファクトの作製は賢人様──〖不老属性〗の国王で大賢者の弟子らしい──が取り仕切っているらしく、その人から許可を得るためタナシスは奔走してくれた。
アーティファクト製作まで熟してくれた彼には感謝してもし切れねぇ。
「蝙蝠の解体が終わった」
『お、サンキュー。そんじゃ早速次の獲物探そうぜ』
「おー」
オレ達の森の探索は続く。
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