第128話 地底での武器作り

「じゃん」

『おぉ、似合ってんな』


 風呂上がりのフィスがオレに割り当てられた大部屋へとやって来た。

 服装はこの国の寝間着。

 貫頭衣っつーのか。上下が一体となっており、かなりゆったりとしている。久々に着替えられてフィスも心なしか嬉しそうだ。


『それでどうだ? 変な奴が潜んでたりしなかったか?』


 〖意思伝達〗の対象をフィスに絞って問いかける。

 この国にとってオレ達は異分子。排除しようする者も居るかもしれず、警戒するよう言っておいたのだ。


「ん、怪しい人は居なかった。罠も仕掛けられてなかったし、キサントスさんは普通に料理の準備してた」

『そうか。なら一安心だが、免疫強化と寝る前の聴覚強化を忘れるなよ』

「もちろん」


 寝間着を着てることから分かるように、今のフィスは鎧も斧も身につけてねぇ。

 素の身体能力だけでもそんじょそこらの奴には負けねぇだろうが、不意打ちで胸を一刺しされればそれで死ぬのが人間だ。

 用心はし過ぎるくらいでいいだろう。


「でも、コウヤも警戒、忘れないで」

『分かってる、狙われるとしたらまずオレだもんな』


 ただの少女に偽装してるフィスは、脅威度を低く見積もられているはずだ。

 だからオレ達を排除する場合、フィスを殺してオレの警戒心を高めるより、オレを殺してからフィスを仕留めた方が面倒が少ねぇ。となるのが道理だ。


 人質にするとかならその限りじゃねぇが……フィスなら生け捕り目的の相手に後れは取らないだろう。


『よし、備えはこんなところでいいか。食堂に向かおうぜ。皿並べるくらいなら手伝えるだろ』

「ん、この国の料理、楽しみ」




 意外にも──と言うと失礼かもしれねぇが──料理上手だったキサントス。

 彼の地底料理に舌鼓を打ち、しばらく雑談や打ち合わせをしてから自室に戻る。


「(ふぅ、今日は色々あったな……)」


 “巨像”との勝負に始まり、果ては地底の王国だ。忙しなく動いてきたが、ようやく一息つける。

 暗くなった窓の外を少し眺めた後、一度自身の〖ステータス〗を見てみた。


「(お、新しい〖スキル〗覚えてんな。どれどれ……)」



~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

騙す 他者を騙す時、信用度に補正。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ……何とも不名誉な〖スキル〗だ。まあ、散々嘘ついてるし然もありなん、って感じでもあるが……。


「(まあいい。そろそろ解析も終わるしそっちに集中だ)」


 ずっと使い続けていた〖スキル〗の方に意識を転換する。

 “巨像”の各パーツ及び武装。それらの解析も終盤に差し掛かっていた。


「(マナクリスタルの加工物……アーティファクトっつーんだったか。改めて視てみるとあり得ねぇくらい緻密だな)」


 解析した情報を見返しながら呟く。

 マナクリスタル自体はこれまでいくつも解析して来たし、性質も充分に把握してるつもりだった。だが性質を知るだけでは足りなかったことに気付かされる。


 火薬を解析してもダイナマイトの設計図は浮かばねぇように、素材をどのように加工するかは発動者の手腕に委ねられる。

 そしてオレはマナクリスタルの〖マナ〗を吸収する性質ばかりに気を取られ、〖マナ〗伝達の速度だったり、〖マナ〗自体の性質に干渉したりできることを軽視していた。


「(まあそもそも、天然のマナクリスタルじゃそういう性質は微弱過ぎて話にならねぇんだが──)」


 ──“巨像”を手本にマナクリスタルを接合・加工すれば、それらの効力を最大限に引き出せる。


「(〖武具格納〗のマナクリスタルを取り出して……〖武装の造り手〗)」


 “巨像”に組み込まれたアーティファクトは立派な武器だ。当然、オレの〖スキル〗で類似品を作製できる。

 赤いマナクリスタルはまるで生きているみたく蠢き、膨らんだり縮んだり捩じれたりし、やがて一つの形を取る。


「(っし、こんなもんか)」


 そうして作り上げたのは“巨像”の腕……に仕込まれていた機構の一部だ。

 さすがに腕や武装を丸ごと作るのは素材的にも、技術的にもまだ厳しい。

 マナクリスタルの加工にはこれまでに無いくらい繊細な操作が求められるのだ。


「(えーと、〖マナ〗を注ぐのはここからで……そんで発生座標は〖マナ〗の注ぎ方で制御して……よし、シールド起動!)」


 平たい棒のような自作アーティファクトは、送り込まれた〖マナ〗を変換し、前方へ半透明な膜を生み出した。

 “巨像”が使っていた〖マナ〗の盾である。


「スラッ、スラ!(うっし、成功!)」


 心の中で拳を突き上げる。

 解析してみたところ思い通りに行かなかった部分もあるが、初めてにしちゃ上出来だ。

 この調子でどんどん作っていこう。


「(と、言いてぇところだが)」


 ここは借家の中である。あまり危険な兵器の開発をするのは気が引ける。いつ暴発しないとも言い切れねぇしな。

 シールド発生装置から作ったのはそういう事情だ。


「(一応、朱い翼とか黒い盾とかは攻撃以外の機能もあるんだが……)」


 しかし、それらには自作できない理由があった。

 端的に言うと素材不足である。


 機神が使っていた四つの追加武装は全て、凶獣域でも滅多に見つからねぇくらい貴重な魔性鉱物がじゃぶじゃぶと使われていた。

 どうやら相互作用によって既存の効果を高めたり、新たな効果を発生させたりしているようである。


「(武装が作れなくても補助的なパーツにはマナクリスタル単体の物もあるし、まずはこっちからだな)」


 各種センサー。〖マナ〗を直接ビームへと変換もできるメインタンク。

 メインタンクから各パーツへ〖マナ〗を送るための経路。

 そして、命令を全身に送るための神経に相当する部分。


 これらを作ることもマナクリスタルへの理解を深め、技術を向上させるのには有意義だろう。


「(あぁ、こういうのも楽しいな)」


 未知のテクノロジーに浮足立っているのを自覚する。

 合体した機神の雄姿は今も目に焼き付いているし、あんなモノを自作できればきっととんでもなく嬉しいだろう。


「(それに、これも一つの『強さ』の形だろうしな)」


 魔獣を殺し、武器へと加工する。

 そうしてこれまで強くなって来たが、それ以外の道筋があってもいいはずだ。


「(手付かずの〖凶獣〗素材もまだまだ残ってっからな。気合入れて加工してくぜ!)」


 そのようにして作業を続け、一通りの武器を作り終わった頃、オレは眠りについたのだった。

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