第126話 地底王国の歴史
「おおおォォォォッ! 黄金の装甲! ドラゴンを模した頭部! 何から何まで文献通りッ! 間違いありませんッ、これこそ凶級疑似魔像機が一、千年前に失われし我らの守護神!!」
そんなことを叫びながら賢人塔の学者、タナシスは“巨像”に飛びついた。
それを見たオレはキサントスに訊ねる。
『凶級疑似魔像機……よく分かんねぇけど凄ぇもんなのか?』
「そうだな……続きは私から話そう」
続きと言うほど話を聞いた覚えはなかったが、取りあえず先を促す。
「疑似魔像機とはつまるところ動く石像だ。アーティファクトの一種だな。コウヤ殿を襲撃していた物達、と言えば伝わるだろうか」
『分かるぜ。似てるなーとは思ってたが、やっぱり“巨像”とあの
「似ている……か。種別としては同じ括りなのだが……」
何だか歯切れが悪ぃな。
「だが性能には別物と呼べる程の開きがある、という話だ。私は見ていないが、コウヤ殿の戦った“巨像”は〖凶獣〗を凌ぐ力を持っていたのだろう?」
『まあ、そうだな。武装も色々あったし並みの〖凶獣〗じゃ歯が立たねぇはずだ』
「伝承の通りか。〖凶獣〗と同等以上の力を持つが故に、その疑似魔像機は凶級の称号を与えられたそうだ」
〖凶獣〗クラスだから凶級、分かりやすい名づけだな。
「しかしそのような神話の存在を建造できたのは王国が地底に沈む千年前まで。以降は環境変化への対処や資源問題に追われ、今では豪級疑似魔像機を数体揃えるのがやっとという有様だ」
「ん? 地底に沈んだ?」
フィスが疑問の声を上げる。オレも同じことを思った。
“巨像”が地上に居るんだから何かしら関係してんだろうなと思っちゃいたが、沈んだってのは一体どういう意味だ?
「言葉通りだ。この
「……っ」
『嘘だろ……?』
街一つが地中に埋まるとか、俄かには信じられねぇ。
『原因とかも伝わってんのか? 他国との戦争とか、アーティファクトの暴走とか……』
「無論だ。この国では子供でも知っている。千年前この国を沈没させたのは──一体の魔獣だ」
『……昔は人口十人くらいの村だったのか?』
「いや、今よりもずっと栄えていたと聞く」
オレは隅々までこの街を見て回った訳じゃねぇが、侵入してからこの広場に来るまでにある程度の規模感は掴めた。
少なくとも一万人はこの街で暮らしている。
それよりも多い数の人間を地の底に埋めるなど──殺し尽くすならともかく──〖凶獣〗であるオレの能力でも不可能だ。
『……当時は凶級疑似魔像機を持ってたんだろ?』
「そのはずだ」
『その戦力でも防げなかったってことは……〖凶獣〗以上の敵に襲われたのか?』
キサントスは無言でこくりと頷いた。
「最も有名な神話だ。賢人塔よりなお大きく恐ろしい〖亡獣〗と、大賢者様の建造した六体の凶級疑似魔像機。空の色すら褪せる程の激闘が繰り広げられた。凄絶な闘いの果てに疑似魔像機は数を減らされ、残るは最後の一機のみとなったところで大賢者様の命を賭した魔法により、〖亡獣〗は封印されたという」
しかしそれで
絵本の読み聞かせみたいな話し方だな、と微かに思い、話に集中しなくてはと注意を戻す。
「封印の間際、〖亡獣〗は渾身の力で〖スキル〗を発動した。それにより街は山ごと大地に飲み込まれ、地下深くにあるこの大空洞へと辿り着いたらしい。このとき〖亡獣〗に敗れた五機の疑似魔像機は共に沈んだのだが……残る一機だけは行方不明となっていたのだ」
『なるほど、それが地上に取り残されてた“巨像”だったのか』
「ああ。恐らく防衛目標のイーサ王国を見失い、待機状態になっていたのだと思われる」
ふむふむ。そんな神話の遺物なら研究者があれほど喜ぶのにも納得だ。
そう思っている隣でフィスが口を開く。
「疑問。他の五機がこの街にあるなら、あの人は何を調べてるの?」
『そういやそうだな』
真贋鑑定にしたって時間が掛かり過ぎだ。
アーティファクトの内部構造はかなり複雑なようだし、偽造自体が不可能に近ぇ。一体何を調べているのだろうか。
「この街にある、というのは誤解だな。たしかに五機の残骸は沈んだが、それを修復する余裕は当時のイーサ王国にはなかった。差し当たり周辺に〖凶獣〗クラスの外敵が居ないことを確認し、五機の残骸は生活環境を整えるためのアーティファクトへ流用したのだ」
まあたしかに。いきなり地底に閉じ込められちゃ明日生きるのに必死にもなるか。
むしろよく滅ばず千年間も存続できたものだ。
『そういやあの空で光ってる奴もアーティファクトなのか?』
「よく気付かれた。あれこそが凶級疑似魔像機の残骸から作られたアーティファクト、太陽石だ。たしか地上では太陽……? と呼ばれている物の代わりとなる」
「凄すぎ……」
人の手で太陽を作った、ということにフィスは絶句しているようだ。
太陽っつっても地上数百メートルの低い高度にあるし、本物とは似ても似つかねぇくらいの熱量なんだろうが、それでもこの空間全体を光で満たせるのは凄まじい出力だ。
「──失敬失敬、興奮のあまり我を忘れておりました」
と、そこでタナシスが戻って来た。
満足げな表情でキサントスの隣に座る。
「ではでは、地上のお話をお聞かせ──」
「それは後にしていただけないか」
命令口調でお願いされ、タナシスはバツが悪そうに口を噤む。
「重要度の高い事案ゆえ、より的確な判断を下すため知恵者のタナシス殿にもお越し願った」
「そういえばそのようなことを言っておったのう」
てっきり“巨像”の検分に彼は呼ばれたのだと思っていたが、本命は別にあるらしい。
「話し合いたいのはコウヤ殿達の待遇についてだ。イーサ王国に永住するつもりなのか、そうでないならどのくらい滞在するつもりなのか」
『まあ、ここに来ちまったのは偶然だしその内出て行こうと思ってるぜ。な?』
「ん、同感。でもせっかくだし観光もしたい。一先ず……一ヶ月くらい居る?」
『そんくらいにしとくか』
オレ達の会話を聞いたキサントスは近くの防人達に二、三指示を出し、それからこちらに向き直り口を開く。
「うむ、それでは次だ。──相応の謝礼を用意する。だから凶級疑似魔像機を譲渡、ないしは貸与していただけないだろうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます