第122話 宝石モグラ
眼下の〖凶獣〗はモグラとアリクイを足し合わせたような姿をしていた。
食事の最中らしくボリボリと顎を動かしている。
奴の最大の特徴は何と言っても異様に細長い爪だろう。
レイピアみたく尖っており、そこら中に生える宝石を寒天みたく易々切り取っている。切れ味は疑いようもねぇ。
そうして切り取った宝石をサクリと刺し、口に運ぶ。それを噛み砕く顎も強靭。
零れ落ちた宝石片を長い舌で舐め取り、また次の宝石を口に運ぶ。
そんな食性であるためか、そいつの毛皮は煌びやかな宝石に彩られていた。
元ジュエルスライムなのにマリンブルー一色なオレとしては少し敗北感を覚える。
「(──って、そんなことはどうでもいいか)」
意識を戦闘に切り替えた。
そして〖凶獣〗三連戦で上位化を果たした〖スキル〗、その一つ目を行使する。
「(〖超躍〗!)」
~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~
超躍 跳躍時、跳躍力に補正。空中で跳躍することができる。限界を超える力で跳躍できる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それは〖一擲〗に類似する効果だった。過剰に体力を注ぎ込み性能を引き上げられる。
ただ、燃費は〖超躍〗の方が格段に上。それに小回りも利く。〖超躍〗はどのくらい体力を使うか任意に決められるのだ。
「(つっても今回は関係ねぇか、全力全開だッ!)」
ググググ……! と普段以上の力を込めて宙を蹴り飛ばす。
費やした体力はいつもの二倍。跳躍力も大体二倍。
上位化したばかりだから今はこれが限界だが、習熟すれば段々最大出力も上がるだろう。
そうして踏み切る刹那、オレはもう一つの新〖スキル〗を発動していた。
「〖爆進〗!」
~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~
爆進 突進時、脚力に補正。突進時、突進の威力に補正。爆発的に発進できる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『爆発的に発進できる』。説明文はびっくりするくらい簡素なものの、効果はかなり強力だ。
何せこの〖スキル〗があれば、一歩目から加速し切った時と同等の速度を出せるのだから。
これからは助走の取れねぇ近接戦でも強烈な突進をぶちかませる。
そして〖超躍〗と合わせれば瞬時に間合いを詰められる、今回のように。
輝く宝石が光芒となって上に流れて行く。
宝石モグラの〖制圏〗に入ったことで衝撃波が生じるも、次の瞬間にはそれを振り切っていた。
標的まで百メートルを切り、そこで模倣した森槌を振るう。今のオレの速度ならこんくらいでジャストだろう。
〖ウェポンスキル〗は使わねぇ……タイミングを合わせやすくするためってのもあるが、それ以前に必要がねぇ。
最後のこの〖スキル〗があればな。
「(〖神の杖〗ッ!)」
~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~
神の杖 自重を利用して直接攻撃を行った時、威力に補正。落下速度を上昇させられる。着地時、自身の受ける衝撃を衝突物に転嫁できる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
直後、世界が静止した。
高速で流れていた景色が停まり、代わりに森槌に打たれた宝石土竜が勢い良く地面にめり込む。
衝撃の反転。それこそが〖神の杖〗の力。
本来掛かるはずの反作用が敵へ向き、単純計算で倍の威力を叩き出せる。
いかなる原理かオレの落下は止まるためどこまでも落ち続ける、みてぇな真似は出来ねぇが落下攻撃の威力が倍加するだけでもその脅威は推して知るべし。
上半身を拉げさせ、クレーターの中心で血の花を咲かせた宝石モグラを見ればより想像しやすいだろう。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>戦火
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「(ふぅ、いっちょ上が──)」
そして地面が崩落した。
「(またかよォっ!?)」
デジャヴを感じる事態に絶叫する。ここよりまだ下があるたぁ驚きだ。
しかしながらついさっき同じ目に遭ったばかりなので対応は速かった。近くの壁まで〖超躍〗し、森鎖を刺してぶら下がる。
この辺り穴だらけ過ぎるだろと呆れつつ、崩落して行く宝石モグラの姿を見ていると、ふと光が差し込んだ。
「(ん?)」
光は亀裂の隙間から漏れていた。そこらに生えている宝石よりも強い光だ。
この下にはもっと強い発光宝石があるのか、と崩れ行く地面に注目していると、
「(は?)」
一瞬、思考に空白が生まれる光景を目にした。
幻覚か何かかと視界に意識を集中させるが、景色に変化は起こらねぇ。
穴が広がるにつれ、視覚の情報量が増えて行く。
縦穴の底を打ち抜いた先にあった、広漠たる大空間。草原があり、丘があり、地底湖があり、謎の光が降り注ぐその中心には──巨大な街があった。
「(よっ、と)」
縦穴の下に現れた大空間に降り立つ。
穴から地面まではビル数個分の距離があったが、ロック鳥の素材から作った浮遊剣を体内に十個ほど模倣し、たっぷり〖マナ〗を与え、浮力を発生させてゆっくりと下降した。
「草原……?」
『……だな、信じ難いことに。土どころか川までありやがる』
連れて来たフィスの呟きに答える。
穴の直下には背の低い草が一面に広がっており、近くには地底湖から流れ出る川が通っていた。
そして空──洞窟の天井には、太陽のような物が燦々と輝いている。
「地面の中にも、太陽あったんだ……! 知らなかった……っ!」
『オレも知らなかったな……』
感激するフィスの横で、落下していた宝石モグラの遺体を回収する。
ミンチみてぇな惨状になっちゃいたが、堅硬な手足の爪は原型を留めていた。これもいずれきちんとした武器にしよう。
加工待ちの素材でそろそろ渋滞が起きそうだけどな。
「コウヤ、どうする? 次、どこに行く!?」
興奮気味に訊ねられた。
普段の平坦な調子とは異なり、年相応な印象を受ける。
『そうだなぁ──』
微笑ましい感情を抱きながら答えようとした、その時。
太陽(?)の下にある、小山に被せるようにして築かれた街。
そこから〖マナ〗の砲撃が放たれたのであった。
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