第四章

第120話 〖進化先〗

「スラぁぁぁぁあああああっ!?」


 落ちる。落ちる。落ちる。

 ただ、何もない暗闇の中を落ちて行く。


「(──っとと……)」


 トレントの混沌種を仕留めた直後、度重なる戦闘の負荷に耐えかね地面が崩落した。

 地下深くには大きな空洞があったらしく、しばらく落下したのち、オレは積み重なった落石の上に着地する。


「(うへぇ、結構落ちちまったな……)」


 戦闘が終わって少し気が抜けてたとは言え不覚だった。崩れ始めるまで崩落に気付けなかった。

 今後は足元にも注意を払わねぇとな。


「(さて、とっととトレントの死体を回収して……あ!?)」


 見れば、トレントの死体は洞窟の坂を滑り落ちていた。

 坂は緩やかなカーブを描いており、ちょうど曲がり角の向こうへ消えて行ったところだ。


「(待ちやがれ!)」


 せっかくの素材を逃がすまいと追いかけ、捕まえる。〖凶獣〗の〖スピード〗なら造作もねぇことだ。


「(いや、〖凶獣〗なのも今日までか)」


 トレントの混沌種との戦いで、オレは遂に次の〖進化〗の権利を手にした。

 エルゴの話によると〖凶獣〗の上に位置するのは〖亡獣〗。百年に一度現れるかどうかという大災害の根源。


 前回の出現は八十年ほど前らしく、その時は大公を中心に地方全体が一丸となって動き、それでも甚大な被害が出たのだとか。

 大陸統一前の文献によると、〖亡獣〗一体で複数の国が滅んだこともざらにあったそう。

 天災に等しき怪物だ。


 そんな存在に〖進化〗できるというのは心が躍るが、〖進化先〗を見る前に〖ステータス〗を確認しておこう。

 〖凶獣〗五体との連戦でかなり変化があったみてぇだしな。



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種族:戦火いざなう兵器産み(?)

獣位:凶獣

魂積値レベル:262


 スタッツ

ライフ :2906/1973

マナ  :3274/2381

パワー :1209

タフネス:14412

レジスト:1359

スピード:1060


 スキル

方向感覚 カバー 登攀

ブロック 完璧の守勢 逃走本能

ウィップ コンパクトウィップ 愚行 意思理解

スラッシュ コンパクトスラッシュ ジェスチャー

意思伝達 ウェポンボディ 身体修復

遁走 転瞬 クロスカウンター

挑戦 集中 貯蓄 輸送

武具格納 レプリカントフォーム 蠱惑の煌めき

スラスト 抗体 コンパクトスラスト シュート

分解液 チャージスラスト チャージスラッシュ コンパクトシュート 隠形

軟体動物 一擲 受け流し 噛み千切り

ウェーブスラッシュ ウェーブスラスト 捕縛

ヘビースラッシュ ヘビースラスト ヘビーシュート

精密射撃 毒手 高速再生

武装の造り手 激化する戦乱 多刀流

千刃爆誕 縄張り パリィ

スイング コンパクトスイング ヘビースイング

チャージスイング クエイクスイング 舞闘

暗殺 嵐撃 土俵際

怒涛の妙技 潜水 透視

逆行 穿孔 絞殺

弾道予測 超躍(NEW) 神の杖(NEW)

爆進(NEW)


ユニークスキル:雷鋒豊刈地ミノリノジンギ(NEW)

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 自身の内側に意識をやると、頭の中に情報が浮かび上がって来た。

 ……うん、結構成長してるな。


 まず〖レベル〗。いつの間にか二百六十台になっている。

 今日だけでおよそ五十もアップするとは、“巨像”に挑む前には考えもしなかった。


 次に〖スキル〗、こちらは三つほど上位化している。

 それぞれ〖空中跳躍〗、〖墜撃〗、〖猛進〗が上位化したらしい。どれも使用頻度の高い〖スキル〗だ。

 詳細は……後でいいか。


「(……と、【ユニークスキル】も上位化してんのか)」


 【ユニークスキル】の上位化は一回で打ち止めなんじゃねぇかと危惧してたが、杞憂だったらしい。

 オレ以外は持ってないらしくて、エルゴに訊いても分からなかったんだよなぁ。


、転生したことと何か関係あるかもな、とは思うも考えたところで答えは出ねぇ。

 上位化に必要なのが途方もない習熟なのか、他の特殊条件なのかも分からねぇ。

 感覚で使い方が分かるのと、〖ステータス〗で効果を見られるのだけが救いだな。



~ユニークスキル詳細~~~~~~~~~~

雷鋒豊刈地ミノリノジンギ

・収穫量を最大にします。

・大地を強化する、もしくは生命を収穫する雷を扱えます。(NEW)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 二つ目の能力がパワーアップを果たしていた。

 たしか以前は『大地を強化する雷を扱えます』だったか。


 またまた不明瞭な説明文だが、より攻撃性に富んだ能力になったってことでいいのか?

 次、手頃な魔獣に遭った時にでも確かめるか。


 ……さて、これで〖ステータス〗の確認は一通り終わった。次は〖進化先〗だ。

 期待感を胸に念じてみる。



~進化先~~~~~~~~~~~~~~~~

絶世宝剣(?) 獣位:亡獣

宝器ちりばむ千変砦(?) 獣位:亡獣

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ……こいつら、生き物で合ってるんだよな……?

 いつにも増して無生物感の強い種族名だ。


 ていうかなんだ、この末尾のクエスチョンマーク。

 これまでは付いてなかったはずなのに、急にどうして……。


「(……あっ、今の種族にも付いてるじゃねぇか!)」


 疑問符を浮かべていると、〖ステータス〗の現在の種族欄が目に留まる。

 さっきは読み飛ばしていたが、そこにもクエスチョンが付いていた。

 つっても、それが分かっても理由は不明のままなんだが……。


「(それに二個だけかぁ……)」


 〖進化先〗の少なさに溜息を漏らす。多すぎるのも考えものだが、二個しかないと物足りねぇ。

 まあ初めて〖進化〗した時も二択だったんだが。あの時は不足感なんて覚えなかったし、あんま贅沢言っても仕方ねぇか。


「(よし、どうにもならねぇことは置いといて種族説明を見てやるぜ)」



~進化先~~~~~~~~~~~~~~~~

絶世宝剣(?) 獣位:亡獣

※本種族は未解明です。現在は類似種族の解析結果を表示しています。

・一閃。ただそれのみを研ぎ澄ました果てに在るジュエルスライムの統一種。

・世界さえ絶つ無上の刃で遍く妨碍ぼうげを斬り伏せる。

の〖制圏〗の内に在りて、斬れぬモノは存在しない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 〖凶獣〗の時もそうだったが、説明文がさらに抽象的になったな。

 米印の後の文はクエスチョンマークが付いてるから、だろうか? まあ、方向性が百八十度違うとかじゃなければいいか。


「(多分斬撃系の種族だよなぁ)」


 説明文を素直に受け取ればそうなる。

 オレは斬撃にそこまで傾倒してる訳じゃねぇが、種族は斬撃推しらしい。

 戦闘力は高そうだし候補としちゃあ悪くねぇ。


 もう一つも見てみよう。



~進化先~~~~~~~~~~~~~~~~

宝器ちりばむ千変砦(?) 獣位:亡獣

※本種族は未解明です。現在は類似種族の解析結果を表示しています。

・眩く煌めく無数の武装と、砦と見紛う巨躯を備えしジュエルスライムの統一種。

・変幻自在に手を替え、武器を換え、間合いを変えて愚かな敵対者を翻弄する。

の〖制圏〗の内に在りて、あらゆる武器はこぼれない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ふむふむ、比較的今の種族に似てる、って考えていいんだろうか?

 説明文を読むに手札が多いような印象だし、様々な武器を作り、使い、敵の弱点を突く今の戦法に似てそうだ。


 目新しいものはねぇが、安定した択だな。

 これも候補として申し分ねぇ。


「(さて、どちらを選ぶか)」


 二択とは言え悩ましい。

 〖亡獣〗の上はエルゴでも知らなかった。もし存在したとしても、〖進化〗するのに尋常でない〖経験値〗が必要なのは想像に難くねぇ。


 これが最後の〖進化〗になるって可能性も充分にあるんだ。

 どれだけ慎重に選んでも慎重すぎるってことはねぇ。


「(どっちにすべきか……)」

「見つけた」


 そうして悩んでいたところ、背後から声を掛けられたのだった。

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