第117話 混沌種3
「ギギギギ」
追い詰められたトレントの混沌種がまず初めにしたのは……倒木を元の向き戻すことだった。
これまでは枝を足みてぇにして動いていたが、今度は切り株の断面を地面に付け、その場にどっしりと構える。
そして大量の〖マナ〗が消費され、切り札らしき〖スキル〗は発動した。
「(〖猛進〗……っ、クソ、間に合わねぇか)」
〖マナ〗の動きを察知した瞬間に走り出したが、トレントの動きの方が早ぇ。
阻止は諦め、対処のために効果を観察する。
「(倒木が再生してる……? いや、どっちかっつーと成長か)」
まるでタイムラプスを早回しするみてぇに倒木の枝と幹が伸び始めていた。
同時に傷も癒えて行っているが、新しい根が生えて来る様子はねぇ。
理屈は分からねぇが、あの能力で治癒できるのは幹と枝だけらしい。
「速ェな」
根は生えないが、幹と枝の伸長速度は驚異の一言。瞬く間に空を覆うと枝垂れるようにして降り注ぐ。
莫大な消費〖マナ〗に見合った異常なスケールの攻撃。
速度的にも物量的にも回避は難しい。トレントの元に着くより攻撃が届くのが先だな、これは。
「(つっても妨害しなけりゃの話だけどな、熱線発射)」
牽制用にと用意していた熱線を四本、一度に解き放つ。
熱線の速度はオレの目でも追えねぇ程。一瞬にしてトレントに到達すると、まるで熱したナイフでバターを切るが如く樹枝を焼き切って行く。
枝は無数にあるが、その分一本一本は細い。幹とは比べるべくもない。
あっという間にオレを襲うはずだったほとんどの枝が切断されてしまった。
支えを失くした枝達がバラバラと落下を始め、それが落ち切るより早くトレントに肉迫。
「(〖チャージスラッシュ〗!)」
「ギギギギ」
突進からの斬撃。トレントはそれを生やし直した枝達で受け止める。
文字通り小枝を手折るように枝の防壁を突破するも、ハルバードは僅かに倒木の樹皮を掠めただけだった。
向こうが後退したからである。
「(根は斬り落としたはず──そういうことか)」
トレントは枝を十本ほど地に刺し、オレと同じく多脚移動をしていた。
ぎこちねぇが速さだけは〖凶獣〗のものだ。
しかしトレントに逃走の意思はないらしく、一歩引いたかと思えばたちまち反転し〖突進〗して来た。
数多の枝の洗礼にオレは真正面から立ち向かう。
「(〖コンパクトスラスト〗! 〖コンパクトスラッシュ〗、ダブル! 〖コンパクトスイング〗!)」
隙も溜めも短いコンパクト系〖ウェポンスキル〗の連打。
本来ならいくら何でも無理のある荒業を、いくつかの〖スキル〗の力で強引に成立させた。
「(……にしても、逃げねぇんだな)」
切り株を守るように伸びる枝と斬り結びながら思う。
通常の魔獣は勝てないと悟ると逃走を始めるのだが、こいつにはそんな素振りはねぇ。攻撃からは逃げつつも攻め手も緩めない。
思えばスラ太──オレの元仲間が混沌種に憑かれた時もそうだった。理性を失くしたようにただ愚直に攻めるばかりだった。
今回のトレントも同じらしい。
多少の駆け引きは出来るが、根本的なところで意思が捻じ曲げられている。
「(……終わらせるか)」
そうと分かっちまえば同じ方法で対処可能。
膠着した攻防に見切りをつけ、天高く〖跳躍〗し、〖空中跳躍〗でさらに上へ。
充分に高度が稼げれば、今度は一転、下に向かって跳びはねる。
「(〖空中跳躍〗、〖猛進〗、〖墜撃〗、通電、〖チャージスラスト〗!)」
ハルバードを正面に構え、いつもの〖スキル〗群を発動させ、機神のドリルをイメージして回転を加えた。
そうして十全に強化が乗ったハルバードを突き出す。
トレントは逃げも隠れもせず枝の物量で押し返そうとして来たが、〖墜撃〗を持つオレをそんなもので止められるはずがなかった。
何本もの枝の折れる音が響き、幹を突き割る異音が轟き、そして倒木から離脱しようとしていた切り株を側面に模倣した森槌で叩く。
枝の陰で立ち位置を変えていたが、〖透視〗で見ていたので丸分かりだった。
地面まで叩き落し、そのまま叩き潰し、爆音が鳴り渡る。
「(今度こそ、終わりだ)」
森槌の作ったクレーターの底。そこには粉砕された切り株と、拉げた謎の種子があった。
種子から伸びる根が茶色く萎んで行くのを見、オレは戦闘の決着を悟る。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>侵されし黄泉路阻みし
>>戦火
>>名無し(混沌の種子)が死亡しました。
>>■を■■壟■■■混弄■、■オ■の〖スキル:カオスシフト・ソウル〗により、名無し(混沌の種子)の〖
>>戦火
>>名無し(混沌の種子)の〖
>>戦火
>>〖
>>〖進化〗が可能になりました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
>>戦火
>>〖スキル:神の杖〗を獲得しました。〖スキル:墜撃〗が統合されました。
>>〖スキル:爆進〗を獲得しました。〖スキル:猛進〗が統合されました。
>>【ユニークスキル】の身体親和度が閾値を超過しました。
>>【ユニークスキル】が共鳴しました。
>>【身化】が発生しました。
>>【
>>解析を開始します。……………………完了しました。
>>解析結果に従い、名称を【
>>解析結果を〖ステータス〗に追加しました。
>>【ユニークスキル】による種族の不正な変質を検知しました。
不具合は確認できませんでした。介入を中止します。
>>種族の簡易解析結果を〖ステータス〗に追加しました。
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この感覚……〖レベル〗が一気に上がったか。
それと、遂に〖進化〗にも手が届いたようだ。跳びはねて喜ぶ気分にはなれなかったが、嬉しいことは嬉しい。
「(……帰るか)」
フィスの逃げた方角に森鎖を向け、地面に突き刺し、
「(ん?)」
不意に浮遊感に包まれた。
──思えば、随分とこの場で戦っていた。
巨像に始まりその後の機神、〖凶獣〗三体、そしてこの混沌種。
〖凶獣〗同士の戦闘は天地を震わす程に凄烈で、つまり地盤にもダメージが入っている。オレも何度か〖墜撃〗を使ったしな。
そんな状態でギリギリ保っていた地盤だが、今のオレの一歩で限界に達したらしい。
「(あ……?)」
地面の崩落に巻き込まれながら、オレはそんな間抜けな声を漏らすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます