第116話 混沌種2
トレントの混沌種が伐り倒されて行く。
トレントは光弾や枝や根を振るって足搔くが、オレは二度三度と〖跳躍〗して射程を脱した。放っておいても死ぬだろうって判断だったのだが、
「(……嘘だろ? ここから持ち直すのかよ)」
改めて見たトレントは体の傾きを止めていた。
地平線と鋭角を結ぶくらいに傾いてるってのに、それ以上身を落とす様子はなく、どころか徐々に傷が塞がり体も戻り始めている。
見れば、地面に刺さった枝や根から過去一番の速度で枯死範囲が広がっている。
あれで強引に体を癒しているのか。
「(ならもっかい崩すだけだ、〖ヘビーシュート〗)」
迅速に矢を射る。
爆発矢は枝と根の僅かな間隙を抜けて幹に到達、塞がり始めていた切り傷を抉るように爆破する。
「ギギギギっ」
今度こそトレントの肉体は真っ二つになった。
鋼鉄よりもなお頑丈な枝は倒木に巻き込まれても折れず、トレントの体は若干斜めに倒れている。
これで終わりだと気を抜きかけて、ふと違和感を覚えた。
いつまでも〖レベル〗の上がる感覚が来ない。
〖経験値〗が足りなかった? いや、そんなはずはねぇ。
〖凶獣〗になって以降、〖レベル〗アップに必要な〖経験値〗の量はほぼ横ばいだった。さすがに最近は〖凶獣〗を倒しても急激には上がらなくなってたが、それでも一つも変化なしってのはおかしい。
これはつまり──、
「(まだ死んでねェなっ)」
咄嗟に倒木へ弓を引き、しかし直後、〖マナ〗感知で敵はそちらではないと悟る。
混沌種特有の気味の悪ぃ〖マナ〗は、切り株の方から発せられていた。
倒木と切り株の断面をよく見てみれば、年輪の中心には虫食いみてぇな空洞があり、そこを混沌種の根が通ってのが見える。
それから思い至ったのは伐採の途中、ある時期を境に黒い根の攻撃がピタリと止んだこと。
「(クソッたれ! 口はブラフかっ、〖コンパクトシュート〗!)」
トレントの全身を這う根は全て、口から飛び出していた。
だからそこに種子本体もあるはずだって考えてたが、早計だったか。
すかさず放った爆発矢が着弾するより早く、切り株は跳び上がった。
白い根を引き抜き、足のようにして跳躍したのだ。切り株だけになってもトレントの体は動かせるらしい。
「(んなのアリかよっ、雷撃!)」
立て続けに五発、雷を飛ばすも切り株は全身──切り株の断面から白い根っこの先端まで──を使い空中で踊るように重心を入れ替え、全弾回避を成し遂げた。
「(んなのアリかよ……)」
呆気に取られつつ次の攻め手を用意する。
多少体勢をズラせようとも空中移動はできねぇみたいだ。なら範囲攻撃を仕掛ければ確実に当てられる。
「(〖レプリカントフォーム〗)」
切り株は小せぇ。狙いの付けられねぇ〖千刃爆誕〗だと万一ってこともあり得る。
模倣するのは二張目の毒弓だ。
それから噴石砲も二つ模る。こちらは追撃用。
予測着地点へと狙いを定め、発射のタイミングを窺っていたオレが見たのは、トレントの白い根が伸長し倒木に突き刺さる光景だった。
「(根で跳ねるつもりかっ)」
爆発矢と噴石弾を同時に放つ。
矢で根の刺さった箇所を、噴石で切り株そのものをそれぞれ狙った。が、それらは全て防がれた。突然動き出した倒木によって。
「(んなっ!?)」
動き出した、というのは文字通りの意味だ。
揚げたての魚みたく幹を反らし矢弾を受け止めて見せた。
「(切り離された肉体も再接続すれば動かせるってことか?)」
スライムの場合は切り離されると細胞が壊死しちまうが、トレントは違うのだろうか。
「(……いや、でも断面を繋ぎ合わせる様子はねぇな)」
現在のトレントは倒木の樹冠を下方に向けて足代わりとし、本体と思しき切り株は倒木の中間辺り──ちょうどトレントの口の横だ──にくっついている。
そんな逆立ちみてぇな状態のトレントだが、斬られた部分を癒着させようとはしねぇ。
「(〖激化する戦乱〗)」
試しに一瞬だけ解析してみる。
生きてるものには弾かれるこの〖スキル〗だが、トレントの倒木には問題なく通った。
「(確定だな、倒木は完全に死んでやがる──これは死体を操る〖スキル〗か)」
トレントは最初、殺した魔獣達を嗾けて来た。
その時も白い根の切れ端を刺していたし、ここまで合致しているならそういうことだろう。
さっきみたく遠隔操作するつもりは無いのか、切り株はずっとくっ付いたままだが。
「(今回は死体を破壊し尽くすのは骨だな……隙があれば切り株狙うか)」
と、そこまで考えたところで睨み合っていたトレントが走り出した。オレとは真反対の方向に。
「(逃げる気……違ェこいつの狙いはっ)」
もし逃げられた時フィスが巻き込まれたりしねぇよう、オレはできるだけ山の上側に陣取るようにしていた。
今だってそうだ。オレの背後には山頂があり、反対にトレントの背後には広場があり、つまりはオレが倒した〖凶獣〗達の死体がある。
黒影の死体は倒すと同時に消えちまったが、残りは回収する暇がなく放置していた。
もしもあれらが〖スキル〗で操られたら……。
「(冗談じゃねぇぞっ、〖猛進〗!)」
全速力で追いかける。
当然それだけで済ますはずもなく、妨害手段も用意。
「(〖レプリカントフォーム〗、雷撃!)」
雷撃を飛ばし、噴石砲を放ち、爆発矢を射り、熱線で薙ぐ。遠距離攻撃を乱射した。
けれどトレントは左右に揺れるような動きでほとんどの攻撃を躱し、熱線すらジャンプで対処した。
後ろにも目ぇ付いてんのかって躱しぶりだ。
実際、トレントの視界は全方位なのかもしれねぇが。
「(まっ、
【ユニークスキル】で強化したのは取り出したばかりの爆発矢。
それを投げつける……のではなくへし折った。自身の後ろで。
瞬間、爆風に押し出され一気に加速する。
「(〖跳躍〗!)」
そして空中へ躍り出る。
このまま直進すれば先に死体に辿り着けるだろう。けど両方を武器化して〖武具格納〗に仕舞うだけの時間はねぇ。
だからここで一発ドカンと時間を稼ぐ。
トレントの弱点。それは空中での身動きに制限があることだ。
空を翔けるオレを根や枝で迎撃して来たが、二度の〖空中跳躍〗で躱し切り、赤鞭と森鎖を倒木へと巻き付けた。
「(〖一擲〗!)」
そして全身全霊の投擲。
〖空中跳躍〗と〖土俵際〗があるため宙であっても踏ん張りは利く。
倒木はその巨大さとは不釣り合いな速度で横方向へ飛んで行ったのだった。
「(……
無論、その間も切り株からは注意を逸らしてねぇ。
もし倒木を捨てて死体に飛びつくようなら集中攻撃して一気に仕留める算段だったんだが……コイツもそこまで短絡的じゃなかったらしい。
「(ハァ、ハァ、〖武装の造り手〗)」
その後、本日二度目の〖一擲〗に息を切らしながらもドラゴンと骸骨を適当に加工。全身で包み込み、格納した。
それからこちらへ向かって来るトレントに向き直る。
「(そんじゃ最終ラウンドだ)」
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