第113話 一対多3

 ガシャガシャと森鎖を動かし〖凶獣〗達との距離を詰める。


 途中、武器の構成も変えた。

 効果が薄いと判明したヒュドラ武器の模倣を解き、森亀のハルバードと森槌のセットを左右に模倣する。

 また、毒鞭も赤鞭へと変えた。


「キケク」


 間合いに入るより先、右端に立つ黒影が動いた。つっても、したのは攻撃じゃなくて回復だが。

 結構な〖マナ〗を消費し、斬り飛ばされた足を再生させた。オレの〖身体修復〗みてぇな〖スキル〗か?

 傷は治されちまったが、〖マナリソース〗は削れたのだし良しとしよう。


「グゥゥオオオォォッ!」


 次に左端のドラゴンが一吠え。

 腹の底まで震わせるような咆哮を境に、ドラゴンの鱗が変色していく。

 重厚さを感じさせる濃緑から、朝焼けの如き黄金へと。


「(そっちも全力って訳か)」


 威圧感が増大した。何かしらの強化〖スキル〗を使ったのだろう。

 ただ、これまで使ってなかったってことは何かしら使わなかった理由があるはずだ。


 時間制限か、回数制限か、発動条件か……あるいは代償コストか。

 いずれにせよ、重いってことは強力ということでもある。警戒は必須だろう。


「(まあ最初に片付けるのは骸骨だけどな、〖チャージスラッシュ〗!)」


 不意を突くようにして一気に踏み込み、両のハルバードで同時斬撃。

 中央に立つ骸骨は無数の腕で受け止めようとするが、それらを悉く断ち切り骨の露出した両肩に刃が到達する。


「(〖コンパクトスイング〗!)」


 直後、森槌を突き出した。

 負傷も気にせず反撃しようとしていた骸骨は、その打撃で十メートルほど後退する。


「(〖パリィ〗……ッ)」


 追撃──の前にハルバードで防御。

 予想した通り・・・・・・黒影は動かなかったが、左側のドラゴンは普通に攻撃して来る。


 これまで散々見せつけられた凄まじい〖スピード〗で竜爪一閃。

 それを森鎚の柄で〖受け流し〗つつ、爪撃の勢いを利用して骸骨の方へと移動。


「(〖スイング〗もう一発!)」


 体を回転させるようにして森槌で殴打。

 腕を潰しつつさらに吹き飛ばす。砕けた肋骨が宙を舞った。


 後を追いつつ背後に意識を向ける。

 振り返ったドラゴンが駆け出し、一拍遅れて黒影も動き出した。


「(追いつかれたら困るからなァ、雷撃、〖遁走〗発動!)」


 雷を複数、柵のように放射して足止めしつつ、彼らから逃げることで大幅加速。

 骸骨が体勢を立て直す前に肉迫し、無防備な頭蓋へ森槌を振り下ろす。


「(〖チャージスイング〗!)」

「コフョッ!?」


 骸骨の頭部が半分潰れ、勢いよく倒れ込む。


「(〖コンパクトスラッシュ〗!)」


 右のハルバードで首を刎ね、左のハルバードで片腕を斬り落とす。

 〖嵐撃〗を重ねに重ねた一撃は、〖凶獣〗の堅牢な肉体さえいとも容易く斬り裂いた。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>戦火いざなう兵器産み、不破勝鋼矢の〖魂積値レベル〗が237に上昇しました。

・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 〖レベル〗アップにより体が軽くなる感覚。

 念のため片腕を斬り落としておいたが、頭部が弱点で合ってたみてぇだ。

 ストックされてた〖ライフ〗も使い切ったようで骸骨は動かなくなった。


「(まず一体……ッ)」


 直後、ドラゴンが追いつく。

 背後からの爪撃を森鎖で受け、跳んで衝撃を逃がした。


 ドラゴンはすぐさま追撃に出る。

 オレも振り向いて迎え撃つ。


「グルルォォォッ!」

「(〖パリィ〗、〖ブロック〗、〖パリィ〗っ)」


 鋭利な爪の一撃を右のハルバードで往なす。

 すぐさまもう一方の腕が振るわれるが、そちらは左のハルバードで対応。


 爪撃、噛みつき、突進、爪撃、爪撃、尾の薙ぎ払い。

 息つく間もない連撃を模倣した武器でひたすら捌いて行く。


 往なした爪が地に当たり、揺れと共に深い裂け目を刻んだ。

 埒外の剛力。黄金化で底上げされた〖パワー〗は、通常の武器捌きだけじゃ力任せに押し切られるだろう。


「〖パリィ〗!」


 だから防御系の〖ウェポンスキル〗を連発する。

 普通は連続では使い辛いのだが、オレには〖怒涛の妙技〗がある。些かのブレもなくドラゴンの猛攻を凌げていた。


「(──ああ、そろそろか)」


 そうしてしばしの攻防の後、嚙みつきを紙一重で躱したところでドラゴンが吐血。

 別に攻撃を加えた訳じゃねぇ。ドラゴンが黄金化して以来、ずっと防御に徹していた。


「(やっと〖毒〗が回って来たみてぇだな)」


 だからこれはその前に、黄金化される前に仕込んだタネだった。

 あれだけ何度もヒュドラ武器を食らわせれば、〖凶獣〗同士の高速戦闘中であっても目に見えて効果が現れる。


「(初めっから黄金化されてたら厄介だったかもしれねぇが──)」


 そもそも、これまで毒の片鱗は見えていた。

 その一つが動きの鈍さ。

 ドラゴンの俊敏性は黄金化前と後で特に変化は無かったが、それこそがおかしかった。


 黄金化が虚仮威こけおどしの〖スキル〗でないなら、何かしら強化されるはず。

 それが見られないっつーことは、強化が〖毒〗の弱体化に相殺されてたってことだろう。


「(──使うのが一手遅かったな)」


 ドラゴンの〖スピード〗は〖凶獣〗随一だったし、〖毒〗に蝕まれる前に黄金化されてたらもうちょい苦戦したはずだ。

 が、殺し合いでタラレバを語っても仕方ねぇ。


「グラァッ!」

「(その動きにはもう慣れた)」


 血を吐きながらも敢行された高速咬撃。

 それをオレはリング状になって躱し、即座に収縮。首の周りに纏わり付き、ぞろりと多数の刃物を模倣し、〖噛み千切り〗。

 黄金の鱗──緑だった頃より硬くなっていた──に噛み付き、〖絞殺〗の補正と合わせて首を噛み切ったのだった。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>戦火いざなう兵器産み、不破勝鋼矢の〖魂積値レベル〗が244に上昇しました。

・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「(二体目、と、〖空中跳躍〗)」


 直後、地面から立ち上った影を避けるようにして横へ跳ぶ。

 爆風が巻き起こり、近くにあったドラゴンの死体が何メートルか吹き飛んだ。


「(相変わらず凄ぇ〖パワー〗だな!)」


 ただの余波が範囲攻撃となる拳圧に感嘆する。

 思えば純粋な攻撃力で〖タフネス〗を破られかねねぇのは、〖雑獣〗の頃に〖凶獣〗同士の戦闘に巻き込まれたとき以来だ。


「ケッ、クケッ、クカケケケッ!」

「(よっ、ほっ、〖跳躍〗っ。こんにゃろう、仲間が居なくなった途端やる気出しやがってっ)」


 超高〖パワー〗による連続の拳撃。

 掠めるだけでもかなりの細胞が壊死しそうである。


 これまでの消極的な態度とは正反対だが、理由は予測できていた。『同士討ち禁止』みてぇな命令がされてたんだろう。

 それでこれまでは仲間を巻き込まねぇよう手を出せなかった、と。

 さっき骸骨を殴り飛ばしドラゴンと黒影に挟まれたときも、こいつは攻撃する素振りも見せなかったしな。


「(やっぱドラゴンを瀕死で生かして盾にした方が……いや、その場合は黒影は距離を取ってただろうし、手負いのドラゴンに思わぬ反撃をもらってたかもだしな。よしっ、切り替え切り替え! コイツの弱点も見えてるし、後はブッ飛ばすだけだ!)」


 大気を捩じ切る拳を避けつつ、相手の様子を観察する。隙を見て赤鞭を当てるのも忘れねぇ。

 反撃を危惧して即応できる距離から攻めて行く。


「カケケッ」

「(うおっ!?)」


 黒影の正拳突きを躱し、後退。そうして射程を外れたその瞬間。黒影の腕が再度振るわれた。

 腕は鞭のように細長く変形していてオレまで届く。


「(〖跳や──ぐえっ)」


 回避行動が強制的に止められた。一瞬だがまるで金縛りに遭ったみてぇに。骸骨に纏わりつかれてる時にも同じ症状になったが、これも黒影の〖スキル〗だったらしい。

 金縛りはすぐに解けるも、今からじゃ影鞭を避けられねぇ。


「(いや、むしろ好都合ッ、〖ブロック〗!)」


 見立て・・・の真偽を確かめるいい機会だ、攻撃を受けよう。

 森鎖六本及び赤鞭二本をその場に突き刺し、横合いからの打撃に備える。


 ──ゴオオオォォォンンッッ!!


 それは、未だかつてない程の衝撃だった。

 轟音が響き渡り、〖ブロック〗で硬化したはずの肉体が一撃で二割近くも壊死した。


 〖土俵際〗による踏ん張り効果すら振り切り、鎖が地面に轍を刻む。

 距離にして二十メートル以上。一瞬にして吹き飛ばされた。


「(痛ってぇっ)」


 〖ライフ〗を確認してみれば五百も削られていた。

 〖貯蓄〗のおかげで身体的外傷はねぇが、過去最高のダメージを食らっちまった。


「(まあ、それはあっちも同じみてぇだけどな)」

「クケケ……」


 黒影の鞭化した腕。それは半ばから弾け飛んでいた。

 硬い物を素手で殴れば怪我をする。当然の理屈。


「(普通はちょっと皮が擦り剥けるくれぇなんだろうが……コイツ、やっぱアンバランスだな)」


 攻撃が普通に効いてたから予想は付いてたが、黒影の〖タフネス〗は〖パワー〗と比べれば非常に低い値らしい。

 そしてオレの〖タフネス〗を超えようとすると必然、自身の耐えられる限度も越えちまう訳だ。


「(難儀だな、〖ウェーブスラッシュ〗)」

「カカッ!」


 片腕を再生させた黒影へ斬撃を飛ばすも、奴は影化によって回避。

 そのまま近付いて来る。


「(〖クエイクスイング〗……震動は効果なし、と)」


 森槌で周囲を揺らすも、地面に張り付く影法師は何食わぬ顔──表情は見えねぇけど──で動き続ける。

 肉体を削るにはあの影を直接叩かねぇと駄目なんだろう。


「(広がれ〖制圏〗)」


 黒影襲来に備え、周囲を〖工廠〗の支配下に置く。

 『制圧』を付与したので簡単に塗り替えられた。立ち込めていた薄闇が瞬く間に晴れて行く。


「(っと、影分身か、やるじゃねぇか)」


 当然、黒影もただ愚直に向かってくるわけじゃねぇ。

 途中、ダミーの影を四つ生み出してオレを撹乱して来る。


 ……いや、力を分けた分体や、最悪どれも本物と同じ力を持ってるって線もあり得るな。

 決めつけは禁物だ。散開される前に対処しちまおう。


「(〖コンパクトシュート〗!)」


 〖制圏〗を弄る傍ら、用意していた爆発矢を射る。

 矢はどの影にも当たらなかったが、爆発は全ての影を呑み込んだ。地面にクレーターを穿ち、多くの影を呑み込み、消し去る。


「ク、ケケケッ!」


 生き延びた影は一つ。本体と思われるものだ。

 それは影化を解いており、爆発のせいか体は随分ボロボロだった。


 だが、鞭に変化した右腕は健在。

 遂に射程に捉えたオレを打つべく、それを水平に振り被る。


「(〖武装の造り手〗!)」


 振るわれる寸前、地面から盾が伸び上がった。

 いや、伸び上がったというよりは組み上がったと言った方がいい。

 この盾はその辺の岩を捏ねて作った物なのだから。


 〖武装の造り手〗は素材の形を好きに変え、思い通りの武器を作る〖スキル〗。

 それにより、広場の岩を盾にしたのだ。

 ゴロノムア山地で山ほど魔性鉱物を武器にして来たことで、今のオレは成形だけなら瞬時に出来る。


 しかも今回は〖制圏〗の追加効果に『量産』と『名匠』を付けている。

 これにより、短時間かつ高品質な岩盾を作り出せた。

 盾は地面に半ば埋まる形で存在しており、見方によっちゃ壁とも呼べるかもしれねぇ。


「ケカッ!?」


 そんな岩壁が出来上がった直後、鞭が襲来した。

 新築の岩壁は一瞬で粉砕され、反動で影鞭も弾け飛ぶ。


「(〖ウィップ〗、ダブル!)」


 そして相手の鞭が届く距離ということは、オレの鞭も届くということ。

 二本の赤鞭を左右から振るい、黒影の膝と首を打つ。

 黒影は腕の爆ぜた痛みに気を取られ、防御も回避も出来なかった。


「(〖猛進〗、雷撃)」


 だがそれで終わりじゃねぇ。

 少し前、黒影の首を〖絞殺〗しようとしたのだが、あの時は妙な感触があった。

 まるで芯がねぇような……骨が通ってねぇような感じだった。


 それに、黒影は腕を変形させている。

 形こそ人型だが、スライムみたく不定形の種族なのかもしれねぇ。


「(〖チャージスイング〗、ダブル!)」


 なればこその追撃。

 突進の勢いそのままに、森槌で黒影の肉体を強かに打ち付ける。


「ケッ……か……」


 反応は劇的だった。

 体のくの字に曲げ──どころか腹の部分で真っ二つになり、黒影の上半身と下半身が木の葉みてぇに宙に舞う。

 そしてそのまま風に吹かれるように、全身が消えて行った。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>戦火いざなう兵器産み、不破勝鋼矢の〖魂積値レベル〗が248に上昇しました。

・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「(三体全部、討伐完了っと。あー、楽しかった!)」


 快哉を叫ぶ。

 どいつも一筋縄では行かない難敵だったが、だからこそ勝てた喜びは一入。強敵相手に自分で組み立てた戦術が上手くハマる快感は如何とも形容しがたいものだ。


「(と、こうしちゃいられねぇ。早くフィスを助け、に──)」


 瞬間、全身を強烈な悪寒が襲った。

 バッと振り向き気配の発生源を睨む。


 それはフィスの戦っていた場所。

 広場の縁の岩山から、巨大な樹の根が空へと伸びていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る