第112話 一対多2

 オレがこの鉱山に来た目的の半分は〖凶獣〗討伐だが、もう半分は魔性鉱物の収集である。

 時間をかけた甲斐はあり、マナクリスタルや高純度の爆発石を始め、多くの有用な鉱物を獲得できた。


 だがしかし、大量の鉱物を集めて行く中で問題も発生した。〖武具格納〗の容量圧迫だ。

 山のような魔性鉱物はもちろんのこと、〖凶獣〗の素材も相当のキャパシティを食っている。

 ポーラにもらった空間拡張袋を合わせても、限界は見え始めていた。


 そのため“翻地”の討伐後、オレは〖武具格納〗の整理をした。

 そして下位互換とも言うべき雑獣域や長獣域で手に入れた鉱物を仕分けたのだが、しかし、ただで捨ててしまうのはもったいなく思える。


 はてさて何か活用法はないだろうかと考え、閃いたのが〖千刃爆誕〗の弾に加工することだ。

 使わないであろう魔性鉱物をまとめて圧縮して何本もの金属棍を作製した。


 〖武具格納〗の容量は収納物の体積に応じて消費される。質量じゃねぇ。

 だから限界まで圧縮した金属棍は以前よりもスペースを取らなくなった。


 まあそうやって空けた容量も、さっきの機神の残骸でまた埋まりかけてるんだが……今はそれは良い。


「(〖千刃爆誕〗!)」


 収納前に〖千刃爆誕〗の発動寸前まで〖マナ〗を込めていた金属棍。それへ、最後の一滴となる〖マナ〗を注いだ。

 直後、色も質感も様々な金属刃が四方八方へばら撒かれた。


 いや、それは『ばら撒かれた』なんて生温い現象じゃねぇ。

 風船が破裂するような。爆弾が炸裂するような。火山が噴火するような。

 “爆誕”の名に違わぬ急激かつ強烈な飛散だった。


「(けど、どいつも防御技くらい持ってるか。そうこなくっちゃなァ)」


 大きな墓石を生やして盾とした骸骨。骸骨の元に転がり込み墓石の盾を共有した黒影。単純に炎の息吹で迎撃したドラゴン。

 三者三様に身を守っていて、しかしそれでも無傷とはいかなかったみてぇだ。


 墓石は脆くも破壊され、後ろの骸骨と黒影は体を切り裂かれた。

 ドラゴンのブレスも全ての金属刃を跳ね除けるには至らず、手足の先に傷を負っている。


「(弾を金属製にした甲斐があったぜ!)」


 〖千刃爆誕〗で飛散する刃の速度は、素材の重量に左右されねぇ。

 だから重く硬い素材ほどこの〖スキル〗の威力は高くなる。


 木を使ってた頃から〖凶獣〗にも痛打となり得る速度と鋭さだった。

 それが金属に変わったとなればその威力は推して知るべしだ。


「(致命傷には程遠いが、それなら追撃するだけだッ、〖千刃爆誕〗!)」


 すかさず用意していた次弾を爆発させる。

 一発目で防御を剝がれていた〖凶獣〗達は翼や腕を前に出して耐えようとするも、〖嵐撃〗により大幅強化された金属刃は先程よりも深々と傷を刻んだ。


 〖凶獣〗達の体勢が崩れる。

 彼らの緩やかな連携に僅かな綻びが生じた。


「(〖空中跳躍〗! まずはドラゴン、お前からだ!)」


 骸骨と黒影は一ヶ所に固まっていてドラゴンは孤立気味。

 救援に来られる前に有効打を与えちまおう。


「(模倣解除、〖レプリカントフォーム〗!)」


 ドラゴンと戦うのに適した武器を模倣する。

 前方の森鎖二本を毒鞭に。

 左側面の武器を毒剣と森亀のハルバードに、右側面を毒槍と二振り目の毒剣に変更。


「グラァァッ!」

「(〖ウィップ〗、ダブル!)」


 ドラゴンが爪から放った斬撃波を体形変化で躱し、射程の長い毒鞭を振るう。

 毒鞭が空を裂く破裂音が響き、先端のヒュドラの牙がドラゴンの腕に鱗を抉った。


 痛みに一吠えした巨竜は怒りをぶつけるように一歩踏み出し、負傷したのとは逆の腕を斜めに振り上げる。


「ギャウルァッ!」

「(遅ェ! 〖空中跳躍〗ッ、〖墜撃〗ッ、〖コンパクトスラッシュ〗ッ、ダブル!)」


 宙を蹴り真下に向かって回避。

 回避行動であるため当然〖転瞬〗も発動し、向かって来た腕を毒剣二つで斬り付けた。

 〖クロスカウンター〗が乗ったため、鞭打ちよりも傷は深ぇ。


「(〖レプリカントフォーム〗、噴石発射!)」


 体の前面に噴石砲を四台模倣し、即座に〖マナ〗を込めて発射。

 しかし、噴石に押されながらもドラゴンは前進し牙を剥く。

 オレは敢えて一歩下り、


「(雷撃!)」

「ギュゥぉ!?」


 雷撃を放った。

 鱗に守られていない口内を電撃に晒され、ドラゴンは目を白黒させる。


 雷撃は矢や噴石砲より低威力だが、その分即応性はピカイチだ。通電を使い込み【ユニークスキル】自体の練度が増した成果である。

 土系統の魔獣以外になら牽制としてこれ以上なく働いてくれるだろう。


「(〖猛進〗、〖チャージスラスト〗、四重クアドラプル!)」

「グォォォっ!?」


 そうして怯んだ瞬間、吶喊。四つの武器全てを突き刺した。

 あまり助走の距離を取れず速度を上げ切れなかったが、いくつもの〖スキル〗が働き威力は十二分。四つの武器が鱗を貫き肉を食い破った。


「グ、るぁ……っ」


 血を吐きつつ呻くドラゴン。

 すかさず模倣を解いて武器を引き抜き、横へ跳ぶ。


「(タイムアップか)」

「ヒュコォォォ!」


 直後、さっきまでオレの立っていた場所へ夥しい数の腕が殺到した。

 〖凶獣〗の握力により荒地が削り取られる。


「(〖コンパクトシュート〗っと)」

「ヒョゥッ!」


 毒弓から吸魔の矢を射った。

 弓に〖マナ〗を込め、矢に〖毒〗を付与するのも忘れねぇ。これまで使う機会はなかったが、毒弓にはこういう効果もある。


 そうして放たれた吸魔の矢を骸骨は腕を交差させて受け止めた。

 矢が〖マナ〗を吸収し始めたが、すぐに引き抜いて捨てられる。


「(こっちには〖毒〗は通じねぇか)」


 苦しむ素振りを見せねぇ骸骨に、そう判断を下す。

 腕には肉があるとはいえ、体の大部分は白骨だ。〖毒〗が作用しなくても不思議じゃねぇ。


 その情報を頭に入れ、オレは向かって来るもう一体の〖凶獣〗に意識を向ける。

 ドラゴンの救援に向かわず、後方で様子見していた黒影が駆けて来ていた。


「ケカカカカッ」

「(お前の打撃だけはぜってー受けたくねぇなァ、雷撃、〖ウィップ〗!)」


 後退しながら黒影の右足目掛けて雷を放ち、進路を誘導。そこへ鞭を打つ。

 毒鞭は影法師の脇腹を捉え、影の肉片が飛び散った。


 散った肉片は空気に溶けるように消えて行く。

 特に怯んだ様子はねぇが、ダメージはしっかり入っているらしい。

 黒影は腕を振りかぶりながらも、注意をもう一本の毒鞭に向けている。二撃目を躱す、あるいは怪力で打ち砕くためだろう。


 まっ、ホントに気を付けるべきは今、振り切った方の毒鞭なんだけどな。


「(〖絞殺〗!)」

「クキェ……ッ」


 肉体を抉り速度の失せた毒鞭。それが突如、獰猛な蛇を思わせる勢いで黒影の首へと巻き付いた。

 そして即座に〖転瞬〗。機敏な動きで黒影の脇を通り抜ける。


 黒影の〖スピード〗は並なため、オレの高速回避に反応できず足を止められていない。

 すると必然、首を絞める毒鞭から後ろ方向への力が加わる。

 黒影は毒鞭を千切ろうと腕を伸ばすが間に合わず、首を引かれ体勢を崩してしまった。


「(〖投擲〗!)」


 そこで宙に浮いた黒影を思いっきり地面に叩きつける。

 首が締まるのと合わさり、相当に苦しいはずの一撃。だが黒影は地面へと溶け込み被害を抑えた。


 そうだ、黒影には自身を影にする〖スキル〗があるんだった。

 完全に無傷なのか、多少はダメージが入ったのかは外からじゃ分からねぇが。


「(〖コンパクトスラッシュ〗ッ……おっ、当たるのか)」


 影が骸骨達の元へ戻ろうと移動を始めたのを見、逃がすまいとハルバードと右側の毒剣を振るった。

 正直、駄目元の一撃だったが毒剣の方が右太腿を切断。


 斬り離された部分はその場で動きを止め、影化が解けて実体化した。かと思えば溶けるようにして消えて行ってしまった。


「(ふうん、影化も無敵の〖スキル〗って訳じゃねぇんだな)」


 骸骨とドラゴンの横で実体化した黒影の、その右脚が途中から切断されている。

 毒剣で斬ったからで間違いねぇだろう。


 まあ、奴にも〖毒〗の方は効いてなさそうだが。

 毒剣だけなら影化のせいって線もあったが、毒鞭で締めた時にも先端を首筋に刺しておいた。

 これで効果がねぇんなら、そもそも効かない体質だって思った方が良さそうだ。


「(結局〖毒〗が通じたのはドラゴンだけか、さすが〖凶獣〗だぜ)」


 再び三体勢揃いした〖凶獣〗達を眺めて思う。

 余程オレを警戒しているのか、三体で固まったまま動こうとはしねぇ。ドラゴンが〖毒〗を受けてる以上、時間はオレの味方なんだが──。


「(──フィスの方も心配だしな。〖嵐撃〗は溜まったし、勝ち筋も見えた。全速力で狩ってやる!)」


 決意を新たに、オレは彼らへと走り出した。

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