第107話 機神
降臨したのは一機の機神。
その威容は“巨像”とは別格の存在感を放っていた。
これまで戦って来た〖凶獣〗とは別系統の異形。
頭部には兜のスリットみてぇな十字の切れ目があり、そこに浮かぶ二つの赤い光が双眸のようにオレを睨む。
〈──
「(と、やべぇっ)」
地に降り立ち役目を終えたかに見えた朱い翼。
そこから十何発ものレーザービームが放たれた。
それらは上空へと飛んで行ったが、すぐに曲線を描き、山なりにオレへと狙いを定める。
ちょっと移動してみたが、すぐに狙いは修正された。
「(追尾機能付きか。けどそれなら……ッ)」
着弾の寸前、〖舞闘〗を利用して躍るようなステップでビームの雨を躱す。
充分に引き付けていたことでビームは地面に衝突し、立ち消えた。
ビームの当たった箇所は赤く融けている。
さっきまでのビームには弾かれるような衝撃はあっても熱はなかった。熱も追尾と同じく朱い翼の能力だろう。
〈──
「(なっ!?)」
ビームを躱し切り機神へと意識を引き戻した時、奴はオレのすぐ傍に迫っていた。
上からのビームに注意しつつも、オレは機神への警戒も欠かしてなかった。ほんの数瞬前までアイツは着地した地点から動いちゃいなかったってのに……っ。
──ガキンッ。
防御は間に合わなかった。
純白の脚部から繰り出されるのは怒涛の蹴撃。足先には鋭利な鉤爪が付いており、この速度で蹴り付けられれば〖凶獣〗と言えど掠り傷じゃ済まないだろう。
「(オレは無傷なんだけど、なッ)」
蹴り足を森鎖で絡め取ろうとするも、機神は素早く反応して飛び上がった。
反応速度じゃ敵わなさそうだ。
「(〖コンパクトシュート〗!)」
唐突な合体に気を取られ、すっかり射るタイミングを失っていた爆発矢二本を射る。
機神は宙を飛んでヒラリと避けて見せた。
〖マナ〗の
あの二つのパーツは攻撃に使えると共に、移動補助も行うらしい。
「(そんで残るは二つか)」
右腕になった黒い亀甲型の盾。
左腕になった青い龍の装飾。
盾の方はともかく、龍の装飾はどんな効果があるかさっぱりだ。
あれも武器みてぇなもんだし〖激化する戦乱〗なら解析できるだろうが、さすがに戦闘中じゃ時間が足りねぇし気も散る。
「(それに、んな事するまでもなく性能は見られそうだしな)」
〈──
龍の腕への〖マナ〗の収束。それは機神が蹴りかかって来た時から始まっていた。
龍の装飾の先端、手の代わりに付いた龍の口から眩い光が漏れ出ている。
「(まあ順当に大技だよなぁ、〖シュート〗!)」
様子見の一射。掠りもしなかった。
反応速度だけじゃねぇ。空中だってのに嫌になるほど高ぇ機動力だ。
しかもこいつ、龍腕のチャージや回避を行う間もずっとビームを撃って来てやがる。
一度敢えて受けたところ、威力自体は〖凶獣〗の通常攻撃より若干低いくらいだった。
けど、それをこんなに連発されたんじゃ普通は押し負けちまう。
「(来るか)」
爆発矢を躱した機神はちょうどオレの真上に来た。そこで龍腕の〖マナ〗増大が止まる。
異常、なんて言葉じゃ片付けられねぇ密度の〖マナ〗が集まっている。
「(〖レプリカントフォーム〗、〖ブロック〗!)」
ここだ、というタイミングで森盾を模倣し、防御の〖ウェポンスキル〗を発動。
直後、その判断の正しさを証明するかのように、〖透視〗して視える龍の口から大水が噴出した。
それは中空で泡立ち、放射状に広がりながら押し寄せ、あ、と思った次の瞬間にはオレは呑み込まれていた。
液体の激流って点じゃ蟻槍の酸液レーザーと同じだが、規模はまさしく桁違い。
地上に届く頃には半径十メートル以上の水柱となっており、こちらの動きに合わせて射角を変えられることを思えば、走って逃げても攻撃範囲から逃れられるかは怪しい。
「(しかも威力はこれまで受けて来た中で断トツだ……!)」
必死に森盾を構えてその場で踏ん張る。最初に〖墜撃〗した時とは真逆の構図だな、とふと思う。
今度はオレが下で、地面にめり込まねぇよう必死に耐えている。〖土俵際〗があって尚、地面の陥没は進んでいた。
瀑布の威力は言うまでもなく絶大。
異常な水勢に加え、水流内に〖マナ〗の結晶化した粒子が混じってやがる。その粒子が超高速で当たることで森盾の損耗が加速していた。
森盾表面の木々は初めの一秒で消滅し、今は甲羅部分が粒子入り瀑布に耐えている。
〖ブロック〗で保護したはずの甲羅も徐々に徐々に削られており、模倣が解けるのも時間の問題と思われた。
「(……けど、〖タフネス〗無視じゃあないみてぇだな)」
体の端をそっと瀑布に晒してみたが、とんでもなく強い衝撃を感じるだけで痛みはねぇ。〖マナ〗粒子だってオレにダメージは通せてねぇ。
これならいいか。
「(〖レプリカントフォーム〗、解除)」
模倣が維持できなくなる前に自分で解いた。
滝行でもしてるみてぇな圧はあるが、体の方は全くの無傷。
「(よし、瀑布がこっちの動きを隠してる内に反撃だッ、ふんぬぬゥ……!)」
体の形を変えて行く。〖レプリカントフォーム〗は使わず、スライム本来の能力でだ。
水の流れと平行に、細く長く肉体を伸ばしていく。
瀑布に晒される面積が縮小したことで掛かる圧力も減った。
やがてオレは箸を立てたような形状となる。
とんでもなく縦長くなってるが、機神のとこまではあと数メートル足りねぇ。
これ以上体を伸ばすのは無理だし、〖跳躍〗しようにも水圧に押し返されるのがオチだ。
「(〖逆行〗が無ければ、な)」
~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~
逆行 逆行時、空気や水の抵抗を軽減。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
河での移動中に取得したこの〖スキル〗があれば水から受ける圧を軽くできる。
〖マナ〗粒子の影響は免れねぇが、そっち用の対策も考えてある。
「(〖レプリカントフォーム〗)」
箸の頂点に模倣したのは“翻地”の円盾。フィスともそろそろお別れだし、餞別として渡そうと思っていた物だ。
前面に触れた〖マナ〗を強制的に霧散させる強力な効果を持つものの、人間サイズなためオレが使うには小さ過ぎる……が、だからこそ今はちょうどいい。
水の抵抗を最小限に粒子の抵抗を減らせる。
「(〖跳躍〗!)」
万全の態勢で地を蹴る。
高い感知力を持つはずの機神は、過大な〖マナ〗を発する瀑布と〖隠形〗の効果でオレの接近に気付けてねぇ。
〖透視〗で相手の位置を確認しつつ〖空中跳躍〗。
この追加ジャンプで遂に機神へ手が届く。
「(〖捕縛〗!)」
シュルリと体の一部を滝から飛び出させ龍腕へと巻き付けた。
瞬間、ガクンと機神の体勢が傾く。
元々、瀑布を放つ反動を背の翼で相殺して高度を保っていた。
そこへオレの体重が──しかも瀑布に押されている──加わり、均衡が一息に崩されたのだ。
機神は慌てて放水を止めるが、既にオレは次の攻撃に入っている。
「(〖墜撃〗、〖猛進〗、〖空中跳躍〗……)」
直下へ跳んで機神の体勢をさらに乱し、
「(〖一擲〗ッ)」
そして投げつける!
体力を一定割合消費して放つ〖一擲〗は、ただの〖投擲〗の何倍も強烈。これなら一溜まりも──、
「(──うっは、マジかよッ)」
機神は素早く空中姿勢を正し、足から着地した。
翼による逆噴射もあったのだろうが、それでもあの落下速度で着地に成功するとは。
投げたのは軽率だったかと自問し、あれは最善手だったと自答する。
無傷で凌がれたのは結果論だ。あの時点じゃ充分なダメージは見込めたし、何より腕だけ拘束していても合体前みたく切り離されていたはず。
「(〖空中跳躍〗、〖チャージスイング〗!)」
思考しながらも体は自ずと動く。
森槌を模倣しつつ垂直降下。
けれど機神は足のスラスターを利用して迅速に回避してしまった。
空に逃がしてなるものか、と弓矢を構えつつ〖千刃爆誕〗の準備に入るが、機神は十歩かそこらの距離を取っただけで飛び上がろうとはしなかった。
まだ近接戦闘を継続するようだ。
「(あんな大技でも殺せねぇって分かったんだし、普通なら逃げるはずなんだが)」
そうしねぇってことは何か理由があるんだろうな。
〈──戦闘記録より敵性体の〖ステータス〗を演算。敵性体は異常な耐久性を有すと推定──〉
パッと思いつく理由は二つ。
どうしてもここを離れられねぇワケがあるか、
〈──対岩盤兵装により対処します。
もしくは、〖タフネス〗を貫通する手段があるか、だ。
機神の左腕──龍の装飾が、逆さまになった。
手の部分に円錐状の尻尾が来、それが高速回転し始める。
どうやらアレで接近戦をするつもりらしい。
「(上等だッ、スクラップにしてやるよ!)」
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