第105話 巨像区画

 “翻地”を倒してから数日が過ぎ。

 オレ達はトンガリ山を後にした。


『いやぁ、さっすが凶獣域、どれも質が良かったな』

「ん、こっちの感覚がおかしくなるくらい〖マナ〗、強かった」


 この数日間は採掘を行っていた。

 ゴロノムア山地屈指の〖マナ〗濃度だから、採れる魔性鉱物も他のとこよりグレードが高ぇ。


 気が引けたため掘り尽くしはしなかったが、それでもトンガリ山の鉱物埋蔵量は驚異的で、〖武具格納〗の容量のおよそ一割を満たすこととなった。

 おかげでフィスの鎧を始め、いくつかの金属武器を改良できた。


「(まあ結局、単品で一番強ぇのは〖凶獣〗素材なんだが)」


 そうして増えた魔性鉱物やそれを使った武器の在庫だが、実戦で使う機会は早々ないだろう。

 強度、切れ味と言った基本性能じゃ〖凶獣〗素材の方が上だからだ。


 まあ、元より魔性鉱物に単一での性能は求めちゃいねぇ。例外はマナクリスタルと爆発石くらいだ。

 普通の魔性鉱物は噴石砲の時みたく個別の特性を活かし、補助的に用いるのが適している。


「魔獣が居る」

『どこだ?』

「上」


 鉱山から鉱山へと移動していると、フィスが魔獣を発見した。

 促されるまま上に意識を向けると、全身が岩石で覆われた航空力学完全無視の鳥が飛んでいた。


『あれか、遠いのによく見つけたな』

「雲眺めてたら偶々たまたま。目も良くなってるし」


 〖属性〗が〖鉄人〗になって以来、魔法の性能は飛躍的に向上したそうだ。

 以前は聴覚に絞っていた〖フィジカルキーン〗も、〖マスターキーン〗になった今なら視覚と聴覚で常時発動できる。


『体もデケェし多分〖豪獣〗だな。時間も良いし昼飯にするか、〖レプリカントフォーム〗」


 上空の敵を倒すべく模倣したのはヒュドラの毒弓。

 そこへ改良した吸魔の矢を番え、キリキリと弦を引き絞る。


 すると鏃の先からオレにしか見えない光の線が伸びた。

 〖弾道予測〗の効果だ。風向きや落下速度込みの攻撃の軌跡がこうして視えるのだ。



~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

弾道予測 遠距離攻撃を行う時、環境条件を加味した攻撃の軌道が分かる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 噴石砲がキッカケとなって覚えたと思われるこの〖スキル〗だが、弓や熱線眼球にも適用できた。

 何度か使ってみたが長距離攻撃をするならかなり便利だ。


「(微調整して……よし)」


 光の線をロック鳥──と呼ぶことにした、綴りが違う気もするけど──の進路上に置いた。

 そしてロック鳥と矢の速度を鑑み、最良のタイミングを見極め、矢羽を解き放つ。


「(〖シュート〗!)」


 〖精密射撃〗の補正も手伝い、矢は一切ブレずに飛んで行った。

 風を切り裂く灰色の矢はオレの思い描いた通り、ロック鳥の腹に突き刺さる。


「──っ」


 遠すぎて声は聞こえねぇが、きっと悲鳴を上げたんだろう。

 ジタバタと暴れるロック鳥が落ちて来るのを見ながら落下予測地点へ移動し、模倣した武器でキャッチアンドキル。

 無事に昼食を手に入れられたのだった。


「(矢は折れてねぇか、凶獣域のだけあって堅ぇな)」


 腹に刺さった矢を引き抜き、吸った〖マナ〗を取り除いてから収納する。

 凶獣域で見つけた第一等級を超えるマナクリスタル、それを加工したのがこの改良型吸魔の矢だ。


 マナクリスタルは等級が高いほど〖マナ〗吸収力が強くなる。

 〖凶獣〗との戦いじゃ相変わらず気を散らす程度の役割だが、〖豪獣〗相手ならかなりの痛手になるはずだ。


『ちょっと待ってろ、解析終わったら調理するから』




 その後ロック鳥を解析したところ、面白い性質を持ってると分かった。

 それは浮力の発生。

 微量の〖マナ〗で重みを消し去り、それどころか浮力まで発生させられるのだ。まあそもそもの話、浮力が発生するから軽くなるんだろうが。


 この素材を使えば気球みたく空を飛んで移動することも出来る。

 強度が微妙だから戦闘じゃおいそれと使えねぇが、様々な応用法を思いつく性能だ。


「(ごちそうさまでした)」


 さっぱりとした味わいのロック鳥の肉に舌鼓を打ち、それから移動を再開する。

 目指すはゴロノムア山地の南部、巨像区画。

 そこに居ると言われるゴーレムの〖凶獣〗、“巨像”を倒すのが目的である。


『やっぱ〖マナ〗は段々薄くなってんなぁ』


 ただ、この“巨像”はかなりの変わり者らしく、大して〖マナ〗の濃くない地域に居るのだとか。

 だからトンガリ山を発って以来、〖マナ〗濃度は徐々に下がって来ている。


「魔獣も弱くなってるね。良いこと」


 フィスの言葉通り〖豪獣〗の出現頻度も減少していた。

 これからは目的地に近付くほど敵の強さは下がるだろう。


 フィスのレベリングはしにくくなるが……既に彼女の〖レベル〗は八十。

 今の〖レベル〗で満足しているらしいし敵の弱体化を嘆く必要はねぇ。


「あ、ゴーレム」


 また、巨像区画が近付くに連れてゴーレムが現れ出した。

 今も〖長獣〗サイズのゴーレムが四体、仲良く歩いている。


 そんな彼らの脇をオレ達は高速で通り過ぎた。

 〖レベル〗上げをしねぇなら、素材価値の無い魔獣に構う必要はねぇ。


 そのように『逃げる』コマンドを連打して進み、やがて巨像区画に入った。

 特段強い魔獣も居ねぇが、面積は他の区画同様に広大。〖マナ〗濃度も指標にはならねぇし、“巨像”の探索には骨が折れるかに思われた。


 西の辺りに居るらしい、というフィスの情報を頼りにその辺りを探索をすること二日。


「あれが“巨像”……」


 早くもオレ達はゴロノムア山地最後の〖凶獣〗を発見したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る