第103話 翻地2

 オレが赤蜥蜴から作製した武器は主に三つ。

 一つは赤鞭。常時高熱を纏う活用法の多い近~中距離武器だ。


 そして残る二つは遠距離武器。

 その片割れこそが何を隠そう、今オレの模倣した眼球である。


「(チャージ開始)」

「ギャゲグ」


 十個の眼球に込められて行く膨大な〖マナ〗を察知してか、老ガーゴイルが羽ばたいて後退する。

 けど、それはほとんど無意味だ。

 眼球へのチャージは一秒足らずで完了する。


「(熱線、発射!)」


 瞬間、幾条もの朱い閃光が空を引き裂いた。

 それらは概ね老ガーゴイルを狙っており、彼が咄嗟に造り出した鋼鉄の巨盾を見る見る溶断していく。


 老ガーゴイルは堪らず盾の後ろから飛び出した。オレはそれを追うようにして眼球を動かす。

 すると瞳孔から放たれる熱線も合わせて向きを変えた。


 枯れ木のような体に見合わぬ高速飛行で熱線を躱そうとした老ガーゴイルだったが、さすがに十本全てを避け切ることは出来ず、ついに片翼三枚を焼き切られて墜落していく。


「(チっ、時間切れか)」


 と、そこで熱線が途絶える。

 眼球を動かすのを止めて模倣を解除。また、体をグニョリと変形させて岩の鎖から抜け出した。


「(ふぅ、使い切りなのと持続時間が短ぇのが難点だな。素材もとからの特徴だから仕方ねぇっちゃ仕方ねぇが)」


 “翻地”を追ってトンガリ山から飛び降り、熱線眼球の元となった素材──赤蜥蜴の第三の目を思い出す。

 あれから放たれる熱線は非常に強力だったが、照射時間は短く連発も出来なさそうだった。


 その眼球を元にしたこの武器もまた、同様の特徴を受け継いぢまっている。

 〖マナ〗を大量に注ぐことで目線の先に高速・高威力の熱線を撃てるが、一度使うと一時間は再発動できねぇ。


「(まあ、再模倣すれば連射も出来るんだが、そうすると次は燃費がなぁ)」


 己の内に意識を向け、〖マナ〗残量を確認する。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

マナ  :1992/1978

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



 〖貯蓄〗分も合わせれば今のオレの〖マナ〗最大量は約四千。

 それが一気に二千以下にまで減っちまった。

 十個も並べて同時撃ち、なんて贅沢はそう何度もは出来やしねぇ。


「(マナクリスタルの在庫は多いが回復にはラグがあるしなぁ)」


 〖武具格納〗から取り出したマナクリスタル製武器を溶かす。

 保有〖マナ〗が急速に回復し始めたが、回復しきるまで十秒は掛かる。〖凶獣〗同士の戦いじゃあまり気軽には使えねぇ。


「(熱線眼球の使いどころは考えねぇとな)」


 などと考えている内に雲を抜ける。

 視界一杯に鉱山群が映り、その上では老ガーゴイルが再生させた翼を広げていた。

 滑空するようにして逃げようとしている。


「(逃がさねぇぞ、〖レプリカントフォーム〗!)」


 水色の肉体が色形を変え模ったのは五つの大砲。

 赤蜥蜴から作ったもう一つの遠距離武器だ。


 砲弾を詰める部分は無く、赤蜥蜴の生首と口から飛び出した砲身で構成されている。

 言ってしまえばそれだけの、至極単純な武器だった。


「(通電、頼むぜ〖多刀流〗と〖精密射撃』)」


 【ユニークスキル】によって強化を施し、その砲口を老ガーゴイルへと向ける。

 照準を補佐するような部品はなく、その辺りは直感と〖スキル〗の補正が頼りだ。


「(五発もあるんだから一個くらいは当たってくれよ……!)」


 そんな望みを託しながら〖マナ〗を注入。

 すると赤蜥蜴の首のコブがボコリと盛り上がり、高い熱量を発し、そして──、


「(発射!)」


 ──溶岩を纏った巨岩が噴石さながらに射出された。


 砲口から飛び出した五つの岩石弾は、砲身の特殊効果によって空気抵抗を軽減されている。

 弾速はオレの矢以上であり、〖土俵際〗で踏ん張らなければ反動で吹き飛ばされていたはずだ。


「ギャゲぅ」


 岩石弾の一つが老ガーゴイルに真っ直ぐ向かう。

 直撃の寸前で石の盾が出現するが、岩石弾の速度と質量を受け切るには至らず。

 石盾ごと老ガーゴイルは墜落して行ったのだった。


「(〖空中跳躍〗!)」


 敵を追ってオレも跳ぶ。

 瞬く間に地上が迫り、オレ達は隣の山の斜面に轟音を立てて着地した。

 〖墜撃〗はオフにしてたってのに地面は窪んぢまってる。


「ゲギュギュ……」

「(逃げるのは終わりか?)」


 老ガーゴイルは坂の上からオレをめ付けていた。

 オレもギッと睨み返し──目はないので気分の話だ──攻勢に出る。


「(噴石発射!)」

「ガギィグァッ!」


 噴石砲はそれなりに燃費がよく、また一度の模倣につき三発装弾されている。

 オレは先程同様、五つの砲口から岩石を発射した。


 だが向こうもこちらの武器のことを理解したらしい。

 大砲に〖マナ〗が込められるや、防御の〖スキル〗を発動させていた。


 老ガーゴイルの〖マナ〗が迸り、岩山の斜面が捲れ上がる。

 初めの一枚は難なく突破したが、二枚目、三枚目と続く岩の防壁に勢いを殺され、四枚目で受け止められた。


「(やたら硬ぇなっ、〖制圏〗の補正かッ?)」


 四枚目の岩壁の不自然な強度を分析しつつ、岩の壁の方へと〖猛進〗する。

 これで足止めしている間に逃げられることを危惧して……いたのだが、その心配は杞憂だったらしい。


「ギュゴゴゲゲ!」


 途方もねぇ量の〖マナ〗が爆ぜた。

 いや、実際に爆発したわけじゃねぇが、そう勘違いしちまう程の勢いで周囲に撒き散らされた。そして地中へと浸透し、山の斜面が波打ち出す。


「(おっと)」


 オレの足元が沈み込み、反対に周囲が隆起した。

 壺状になった岩壁の表面からはいくつもの棘が伸び、オレを貫かんとする。


「(ありがてぇ・・・・・な、〖転瞬〗ッ、〖空中跳躍〗!)」


 ざっとビル五階分くらいはある高低差を軽々と跳び越す。

 〖転瞬〗が働けばこのくらい朝飯前だ。


「ギャギッ!?」


 空中へ躍り出たオレへ驚愕の表情を向ける老ガーゴイル。

 だがそこは歴戦の〖凶獣〗。動揺とは無関係に的確な追撃を行って来る。


「(うげっ、爆発石かよ!)」


 老ガーゴイルの次の攻撃。それは地中より魔性鉱物を掘り出し、撃ち出すというのものだった。


 大地を操る〖スキル〗の応用か、原石は自ずと浮かび上がって来る。

 そうして現れた原石を手元に集わせ瞬時に精錬し、融合させ、砲弾に変えて射出。


 体を変形させて初弾を躱すが、砲弾は次々と生成・発射されている。

 全てを避け続けるのはなかなか骨が折れそうだ。


「(お返しだ、噴石発射! それと〖シュート〗!)」


 防御に回れば攻勢も緩むだろう、ということでこちらからも攻撃を加える。

 老ガーゴイルの正面の地面が捲れ上がり、防壁となって覆った。


「(かかったな!)」

「ギィギャっ」


 今回射ったのは爆発矢。

 目も覚めるような鮮紅の一矢は岩石弾の突き崩した防壁の隙間を通り抜け、老ガーゴイルの傍に着弾した。“翻地”が防壁の下から吹き飛ばされる。


「(よし、〖空中跳や、ぐっ、まだ制御を手放してなかったのか!)」


 追撃を仕掛けようとしたところで背後から爆発石の砲弾に撃たれて姿勢を崩す。


 老ガーゴイルは発射のためわざわざ手元に爆発石を集めていた。が、それはブラフだった。

 手元になくとも発射できるらしい。

 警戒していなかった方向からの爆発砲弾に虚を突かれた。


「(やるじゃねぇかッ。けどこんくらいじゃ効かねぇぜ、〖空中跳躍〗!)」


 虚を突かれた、と言っても被害はほぼ無し。

 オレはすかさず宙を蹴り、傷を癒す最中の老ガーゴイルへ肉迫する。


 あちらはまたも地面を操って防ごうとするも、その技は既に飽きるほど見ている。


「(〖穿孔〗付きの〖チャージスラスト〗だ!)」


 森亀のハルバードで易々と突破し、約十メートルの距離まで詰め寄った。

 さらなる防壁を築こうと、あるいは攻撃でオレを倒そうと〖マナ〗を放出する老ガーゴイルだったが、大地の動きは先程までより鈍い。


「(〖工廠〗に『堅固』と『指向』を追加した、もうさっきまでみてぇには操れねぇぞ)」


 やったことは単純で、地面の形を固定して操り辛くしただけだ。

 『堅固』で強度を上げ、『指向』で変形に抵抗するようにした。

 〖工廠〗に取り込まれた時点で万物は武器へと変じ始めるため、武器限定の補正でも無生物になら適用できる。


「(まっ、ここまでやっても多少鈍らせるのが関の山だが、この間合いなら充分だッ、〖ヘビースラッシュ〗!)」

「グギャっ!?」


 刹那の隙に空を翔ける。

 老ガーゴイルの足元から金属が這い上がり、全身鎧と化すコンマ一秒前。

 オレと“翻地”の影が交錯し、直後、奴の上半身が斜めにずり落ちたのだった。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>戦火いざなう兵器産み、不破勝鋼矢の〖魂積値レベル〗が212に上昇しました。

>>戦火いざなう兵器産み、不破勝鋼矢が〖スキル:弾道予測〗を獲得しました。

・・・

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