第102話 翻地
“翻地”が座するとされる切り立った岩山。
トンガリ山と呼ぶことにしたその山の麓に、オレ達は辿り着いた。
『じゃあ行って来る。フィスも〖レベル60〗になったしそうそうやられはしねぇと思うが、気を付けて待っててくれ』
「ん、出来るだけ早く終わらせて来てね」
豪獣域である近くの山にフィスを置き、オレはトンガリ山へとへと駆けていく。
麓まで来ると〖マナ〗濃度は豪獣域とは桁違いに高まっていた。
これまで確証はなかったが、ここが“翻地”の住処と見て間違いなさそうだ。
「(頂上が見えねぇな……)」
雲を貫いて屹立するトンガリ山を見上げる。
そして斜面と言うより壁に近い山肌へ森鎖を刺し、全速力で駆け上っていく。
〖レベル200〗を突破したオレにとって、重力は最早
山を覆う雲が見る見る近付き、速度を落とさず突入。
〖透視〗のおかげで雲霞に惑わされることもなく、真っ直ぐに山頂目指してひた走る。
「(おっ、あれか?)」
雲の中を突き抜け、そこでようやく山頂らしき部分が見えて来た。
鋭く突き出した先端。そしてその付近にもいくつもの岩が棘のように突き出していた。
「(これは……“翻地”の〖制圏〗か!)」
滲む〖マナ〗の気配からそれらが自然にできた物ではないと悟る。
岩肌がささくれ立つようにして生まれた岩棘。それこそがこれから対峙する〖制圏〗の特色なのだと。
感じる〖制圏〗の強度は赤蜥蜴クラス。
ヒュドラや女王蟻とは比べ物にならねぇほど強固なテリトリーが築かれていた。
「(力試しには持って来いって訳だ。『収束』解除)」
範囲抑制の効果が解かれ、〖工廠〗が広がっていく。
それは頂上周辺の〖制圏〗と接触し、周囲に衝撃波を撒き散らした。
衝撃波はオレにも届いたが、この程度で足を止められたりはしねぇ。
へし折れた岩槍が降りしきる中を猛進する。
「(簡単には塗り潰せねぇ、か)」
〖制圏〗の感覚に集中する。
事前の印象通り相手も然る者。〖制圏〗勝負じゃ良くて互角と言ったところだろう。
「(赤蜥蜴と戦う前だったら、な)」
あの戦いを経て〖工廠〗は一段階成長した。
それにより四つに増設された追加効果枠には現在、切れ味アップの『鋭利』と〖ウェポンスキル〗強化の『技巧』。それから〖マナ〗を奪う『徴収』が付いている。
そして残る一枠には──、
「(──『制圧』付与!)」
新たに得た効果を付けた。
~制圏詳細~~~~~~~~~~~~~~~
あなたの〖制圏〗は〖
〖
追加効果:『鋭利』『技巧』『徴収』『制圧』
候補一覧
制圧(NEW) 〖制圏〗の支配力に補正。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
途端、拮抗していた〖制圏〗が一気に優勢になる。
まるで押し合っていた相手がいきなり力を抜いたかのような変化だった。
これこそが『制圧』の力。
支配力、つまり〖制圏〗の強度を引き上げることができるのだ。
「(よっし、この調子で魔獣本体もブッ倒してやるぜ!)」
ますます勢いづいて山肌を駆け上がる。
と、そこで〖凶獣〗が姿を現した。
オレより遥か上方の崖。山頂一歩手前のそこから飛び出したのは、年老いたように見えるガーゴイル。
手足は瘦せ細り、石の肌も風雨に侵食されたかのように萎びている。
「ゲググググゲ!」
「(うおっ)」
だが、その〖マナ〗は強大無比。
登場と同時に放たれた岩の矢の〖スキル〗は、〖豪獣〗以下とは威力も速度も手数も段違いだった。
岩棘を砕きながらも一切弾速は衰えないまま、二十本近い岩矢が飛来する。
「(〖空中跳躍〗を切るには早ぇか……〖土俵際〗!)」
命中の瞬間、踏ん張りの〖スキル〗を発動させる。
オレを撃ち落とさんと迫っていた岩矢を正面から三、四本受け止め、しかし一歩も後ろには下がらねぇ。
「(お返しだ、〖シュート〗!)」
攻撃を受けながら用意していた毒弓と爆発矢ですかさず反撃。
射線を遮っていた岩槍もつい今しがた、岩矢が破壊したところだった。
「ガガゲ」
超速で翔ける矢を見止め、老ガーゴイルは指先を軽く動かす。
すると手元の岩肌が捲れ上がり、射線を塞ぐようにして岩の巨塔が生まれた。
他の岩棘の優に五倍の厚みのあるそれは、爆発矢の直撃を受けて根元からへし折れる。が、老ガーゴイル自身は無傷。
粉塵を抜けてようやく老ガーゴイルの居た地点まで到達するも、既にその場に奴は居ねぇ。
「ギョガゲギョ!」
「(っ、拘束か、器用だな)」
老ガーゴイルは岩壁から数十メートル離れた位置に陣取っていた。即ち空中だ。
岩の塔が爆破されると同時、三対ある蝙蝠似の翼を動かして飛び立っていた。
そんな老ガーゴイルが使ったのは、そこかしこに生える岩棘を鎖へと変え、敵を拘束する〖スキル〗。
今のオレには何重にも鎖が絡みついている。
〖スキル〗の効果か、凶獣域の岩だからか、〖制圏〗の影響が染みついているのか、一本一本がやたらと硬ぇ。
〖凶獣〗の〖スタッツ〗をもってしても強引には抜け出せねぇだろう。
「(まあ、スライムに拘束なんざほぼほぼ無意味だけどな。……でも、せっかくの機会だ、新しい武器を試させてもらうか)」
老ガーゴイルの放った回転鋸が体表で弾かれるのを見つつ、今後の方針を決める。
トンガリ山に来るまでの道中、戦闘はほとんどフィスに任せっきりだったし、オレが出ることがあっても武器を模倣するまでもなく片が付いていた。
だからこれは、初めての実戦投入となる。
試作以来日の目を見なかった秘密兵器を思い浮かべし、逸る気持ちのままに〖スキル〗を行使。
「(さあ遠距離戦だ。〖レプリカントフォーム〗、十重発動!)」
ギョロリ、と。
オレの体の表面に十の眼球が浮かび上がった。
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