第100話 〖昇華〗した〖属性〗
がぶりがぶりと骨付きの肉に噛み付く白髪の少女。
そうして皿の上から肉が消え去り、フィスは片手を三度振るう。
「ごちそうさまでした」
あれがこの世界における食後の作法らしい、というのは彼女を鍛え始めて知った。
どういう意味があるのかはフィス自身よく知らないそうだが。
『それで、そろそろ教えてくれ。フィスの新しい〖属性〗って奴を』
「うん、今見せる」
立ち上がったフィスは大岩の前に移動し、拳を引く。
『あ、おいッ、籠手忘れてんぞ!』
何をするか察したオレは、慌てて〖意思伝達〗を使用。
食事中はフォークを持ち辛ぇから鎧の籠手を外していたのだ。
〖レベル〗が上がったとはいえ大岩も豪獣域の〖マナ〗を吸って強靭になっている。素手で殴ったら逆に怪我しちまう。
「平気」
だがフィスは短く断りを入れると、全身に〖マナ〗を漲らせた。
そしてそれが消費された時、フィスから感じる圧が数段増す。
「──〖マスターブースト〗、やぁッ!」
拳が振り抜かれ、轟音が鳴り渡った。
大岩は陥没し、幾筋もの亀裂が走り、細かな破片となって瓦解する。
「……ちょっと痛かった」
その言葉の通り、大岩を砕いたフィスの拳は少し赤くなっていた。
けど、それは血の滲んだ赤じゃない。
思いっきり拍手したときなどの腫れるような赤だ。
あれだけの攻撃をしたってのに、皮膚には傷一つ付いていない。
『滅茶苦茶強くなってんな……』
〖豪獣〗討伐で〖レベル49〗になったことを差し引いても、拳打の威力も肉体の強固さも驚異的だった。
以前ならこうは行かなかったはず。
『それが、〖第三典〗の力か』
「そう、これは〖鉄人属性〗。〖身体〗を自身の強化へと偏重させた高位〖属性〗」
昨日より明らかに〖マナ〗の増えたフィスが言う。
〖マナ〗総量の増加も〖典位〗上昇の恩恵だ。
『〖鉄人〗になったことで新しく出来るようになったことはあるか?』
「……特にはなさそう。強化の力は強まったけど、外への干渉が出来ないのは前のままだし」
『そうか……強化に特化したからこそ、あんだけ強くなったのかもな』
フィスの素の〖パワー〗は二百弱。
そして大岩の堅さや損傷具合を鑑みるに、強化後は三百以上になっている。これは標準的な〖豪獣〗に並ぶ値だ。
それだけでも凄ぇのに、フィスはまだ全体強化しかしていない。
腕や足を集中強化すればより高威力の打撃を放てるだろう。
『じゃあ次の獲物を狩りに行くか?』
「うん」
〖凶獣〗の居る巨山へ向かって移動を始めた。
『にしても、まさかフィスがこんなに速く成長するとはなぁ。〖凶獣〗を全部倒してもまだまだ時間が足りない、くらいは覚悟してたんだが』
「こんなに強い武器を作ってくれたおかげ。魔法のことも一緒に考えてくれたし」
『オレがしたのはそんくらいで、戦闘はほぼほぼフィス一人でやってたけどな。だからこそ短期間で目標に届きそうなんだし』
フィスとの約束は上級冒険者相当になるまで鍛える、ってものだ。
〖第三典〗になったので、あとは〖レベル〗を五十以上まで上げれば目標達成である。
「そう言えば、上級冒険者の〖レベル〗は五十以上なんだっけ」
『ああ。この調子なら“翻地”を倒したら一旦街の方に向かうことになるかもな』
いくらフィスが強くなったとはいえ、険しい鉱山を一人で抜けるのは難しい。
オレは森鎖と〖空中跳躍〗でどうにでもなるが、険峻と断崖に溢れ、魔獣まで出るのだから。
「……それなんだけど、街に連れてってくれるのは〖凶獣〗を全部倒した後で大丈夫。その方がコウヤも楽でしょ?」
鉱山ですることが終わったら、オレは北東に向かう予定だ。
灼熱区画の向こうには未開の地があり、そこからまた川に入って移動する。
たしかにそのためには一旦街に戻るより、〖凶獣〗を狩り尽くしてから街のある北に向かった方が効率はいいが……。
『オレは助かるけど、まだ結構かかると思うぞ? フィスもずっとこんなとこに居たくねぇだろ?』
「たしかに早く帰りたい……けど、それは私の事情。これまでたくさん助けてもらったし、街で待ってる人が居る訳でもない」
……そういやフィスは天涯孤独だったな。
『じゃあお言葉に甘えさせてもらおうか』
「うん。〖凶獣〗三体を倒した後で構わない」
『おう! ……おう?』
あれ? 数が合わなくないか?
鉱山の〖凶獣〗は四体で、既に赤蜥蜴と女王蟻を倒したんだから……って、あ!?
「(女王蟻を倒したこと言ってなかったっ)」
しばらく一緒に居たから言った気になっちまってたぜ。
初対面のときはどうせすぐ街に帰すからと秘密にしてたが……もう“炎海”を倒したって知られてる以上今更だ。
別に修行中も力を隠したりなんてしてねぇし……よし。
『あー、フィス、実は何だが……』
「?」
『女王蟻……“鋼城”だっけ? その〖凶獣〗はもう倒しちまった』
「どういう、こと……?」
『フィスが崩落に巻き込まれたあの日、オレは“鋼城”と戦ってたってことだ』
豪獣域で穴を掘ってたらたまたま女王蟻の居る巣を見つけた、とあの日の経緯を掻い摘んで話していく。
「そう、ならあの崩落も」
『……すまねぇ、十中八九オレの戦闘のせいだな』
「ううん、ありがとう。アレがなかったらきっと魔獣に追いつかれて殺されてた」
気を遣ってくれたのだろうか、と彼女の方に意識を向けるも相変わらずの無表情でその真意は分からない。
そんな風にしてオレ達は豪獣域を進んで行くのだった。
『あ、それとフィスが使ってる斧の素材は“鋼城”のだぜ』
「え」
ふと切り出したそんな言葉でフィスのポーカーフェイスが崩れたのはまた別の話。
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