第84話 インベイド・アリノス
時折見つかる資材置き場から良質な鉱物を頂戴しつつ、鋼蟻の巣を八本脚で進む。
あれからも散発的な襲撃はあったが、まとまった群れには一度も襲われてねぇ。
あの仲間呼び〖スキル〗は何度か使われたのだが、最大でも十体くらいしか来なくなっていた。
多分、最初の時に周辺にいた鋼蟻のほとんどが集まったからだろうな。
「(おっ、また広くなってる)」
通路が合流し、横幅と縦幅が広くなる。
どうも奥に進むほど道は大きくなるらしく、少し前からオレはのびのびと歩行できていた。
「(んでもこれ、どこまで続くんだ……?)」
既に大分坂を下っている。
体感になるが、山の麓よりも低い位置まで来てるんじゃなかろうか。
つまり今居るのは地下だ。
蟻の巣らしいっちゃらしいが、いい加減終わりが来てほし──ガギンッ!
「(おわっ!?)」
考え事をしていたその時、体に振動が伝わって来た。
慌ててそちらを見てみれば、真っ黒な蟻が森鎖に齧りついているところだった。
「(こんにゃろ!)」
ブン、と森鎖を振るって黒蟻を叩き潰す。
〖豪獣〗クラスの魔獣に見えたが、姿を現すまで〖マナ〗を全く感じなか──ガギギギン!
「(っ!?)」
と、気付けば他の森鎖にも黒蟻が噛みついていた。
蟻の魔獣特有の異常に発達した顎がギチギチと森鎖を挟む。
「(何だこいつらっ)」
さっきまで何の予兆も無かったぞ!?
足音は聞こえなかったし、〖マナ〗も感じられなかった。スライムの全方位視界でも警戒していたはずなのに。
何が起きたのかさっぱり分からないながらも、取りあえず森鎖で殲滅する。
別に耐久力や回避力が高いわけじゃないらしく、通常の〖豪獣〗よりも容易く屠ることができた。
森鎖の模倣を一度解き、再び模倣。
そうして損耗をリセットする。
「(また新手が出てきたり、なんて事は……って、そこか!)」
倒した後も油断せず周囲を警戒していると、もう一体の蟻を見つけた。
そいつは壁とそっくりな色をしており、そろりそろりと歩み寄って来ている。即座に森鎖で貫いた。
「(後続は……ねぇみてぇだな)」
改めて周囲を見回してから〖激化する戦乱〗で解析を始める。
その死骸は先程まで岩と同じ色の甲殻をしていたが、死ぬと色が抜け落ち、他の死骸同様に黒い甲殻となっていた。
「(ほうほう、ふむふむ。この甲殻が保護色を作っていたのか)」
解析によって分かったのは甲殻の持つそんな性質。
黒蟻は鋼蟻の希少種だ。通常種の甲殻はただ強固なだけだが、黒蟻のそれは周囲の景色に合わせて変色するらしい。
昔、故郷の森で戦ったカメレオンの魔獣も似た性質を持ってたのかもな。
「(とりま盾にするか)」
〖豪獣〗だから空間拡張袋に仕舞うにはデカすぎた。
〖武具の造り手〗で黒蟻達を盾に加工し、〖武具格納〗に収納した。
攻略を再開する。
少し進むとまた下り道が見えて来た。
「(こっからは凶獣域って感じだな……)」
さらに〖マナ〗の濃度が増す。森亀の居た異常繁茂地帯を彷彿とさせる濃密さ。
恐らく、この巣の終点は近ぇ。
「(何も居ねぇな……)」
坂を下りてからもしばらく歩いたが鋼蟻は見つからねぇ。
代わりに見えて来た分岐点で、〖マナ〗の濃い方に進む。
既に飽きる程繰り返しているため歩調はほとんど緩めねぇ。
ていうか〖マナ〗が薄い道は全て上り坂なので、〖マナ〗感知抜きでもすぐ判断できる。
まあ、要因はもう一つあるのだが。
「(……やっぱ同じところを回らされてるな)」
十数分ほど進み続けたところで足を止める。
傍らには少し前に目印として付けた傷。
〖方向感覚〗で違和感に気付いたので試してみたら、案の定だった。
「(まさか行き止まりってことは……考えにくいか。あの黒蟻がボスってのも考えにくいしな)」
多分希少種だったんだと思うが、この規模の巣の長にしちゃ弱すぎる。
それに暗殺型ってのはあんまり巣のボスって感じじゃねぇ。
この凶獣域相当の区画がもぬけの殻なのも怪しい。
オレが来たから慌てて逃げたにしちゃあ整いすぎている。ここに来るまでそんな時間は掛かってねぇし、食料や卵等が一切見当たらねぇのは不自然だ。
「(うーん、考えられるのは……よし、確かめてみるか)」
既に撤収した後ではありませんように、と祈りつつ森亀のハルバードを二振り模倣。
それらを両脇の壁に突き刺し、刃を横にする。
「(〖猛進〗!)」
ドスドス地面を踏み鳴らして全速前進。耳障りな音を立て、岩壁がハルバードに斬り割られて行く。
〖猛進〗による脚力補正とハルバードの鋭利さが手伝い、オレは意外なほどスムーズに走れた。
そうして三つほど分岐点を経た先で、ふと片方のハルバードの手応えが軽くなる感触を覚える。
立ち止まり、軽くなった方のハルバードを鍵でも回すみたいにベギリ、と半回転させた。
それだけで充分だった。
岩壁にみるみる罅が入り、ガラガラと崩れ出したのだ。
刃を縦にしたハルバードを振り上げると崩落は加速し、やがて壁の向こうの道が見えて来た。
〖スキル〗で岩の蓋を作っていたのだろう。
遮蔽物が消えたことで、奥から溢れる強烈な〖マナ〗を感じ取れるようになる。
「(この先がボスの部屋ってことか)」
その通路を進む間、妨害は一切なかった。
普通の鋼蟻はもちろん、黒蟻も送られて来ねぇ。
少しして大きな空間が現れた。
野球グラウンドくらいはありそうな巨大空洞で。鋼蟻のボスと思しき個体が、多数の手下を従え立っている。
警戒を露わに〖マナ〗を張り詰めさせるそいつは、双頭の女王蟻の姿をしていた。
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