第82話 通電/雷撃
「(通電、〖チャージスラッシュ〗!)」
「「「……ぎっ!?」」」
斜面を森鎖で蹴り飛ばし、疾風の──否、紫電の速度で駆け抜ける。
すれ違い様の一太刀で進路上に居た魔獣達は上下に切断された。
ガガガガッ、と岩山の坂を削って停止する。
模倣していた毒剣を元の肉体に戻し、背後の死体を吸収した。
「(ふぅ、ざっとこんなもんか)」
オレが【ユニークスキル】の真価に気付いてから約一ヵ月。
採掘と並行して能力解明も続けており、性質は概ね把握できていた。
まず効果時間。これは生物に使う場合、五分ほどだって分かってる。武器が対象だともうちょい長ぇが。
ただ、これだと果樹園が異常な豊作になってた理由が説明できねぇ。五分や十分だけ地面が強化されたところで収穫量がそう変わるとも思えねぇ。
地面に対しては効果時間がさらに伸びるのか、『収穫量最大化』の効果が適用されていたのか。
はたまた全く別の理由か……まあ、今考えても仕方ねぇことだ。
「(おっと、効果が切れたか)」
鉱山を歩いて上っていると効果時間が終わったようだ。体が重くなる。
〖パワー〗が下がったからだな。
通電すれば〖レジスト〗も含めた全ての〖スタッツ〗が強化される。
一割か二割か……正確な値は分からねぇが、上がり幅はそれくらいだ。
なお、物に使った場合は強度や切れ味が上がる他、特殊効果も強化される。
「(──と、また鋼蟻か)」
新たな魔獣達が現れたのを見て心の中で愚痴る。
今回の敵は鋼の甲殻を持つ蟻だ。
豪獣域に入ってから頻繁に見かけるようになった魔獣で、さっき倒したのもこいつらだな。
大集団で行動するイメージのある普通の蟻とは異なり、五体前後の小さな群れで鉱山を徘徊し、〖マナ〗を多く含んだ岩石などを探している。
「(近くに巣でもあんのか……?)」
そんな疑問を抱きつつも戦闘に意識を傾ける。
蟻達は彼我の体格差にも怯まず向かって来ていた。〖豪獣〗にしてはなかなかの速さだ。
彼らを見て僅かに悩み、今回は雷撃で戦おうと決めた。
この数とスピードなら動く敵に当てる訓練にもなるだろう。
「(ふぅ、集中、集中……限定化──)」
話は変わるが、通電のことに気付いて一つ残念に思ったことがある。
それは土系の〖凶獣〗に対して使用制限が出来たことだ。
元から威力が物足りないってことで〖凶獣〗には使ってなかったが、しないのと出来ないのとじゃ気持ちの面に大きな差がある。
戦闘中は何があるか分からねぇし、普通に攻撃手段としても使えた方が有利だ。
てことでオレはその方法も模索した。そうして見つけたのが『限定化』。
ヒントとなったのは〖制圏〗の操作だ。
〖制圏〗の効果範囲を『限定』するように、効果の対象を絞る。
土系統を強化する雷撃ではなく、何も強化しない雷撃へと効果を偏重させることに成功した。
「(──雷撃・六重!)」
同時に六つの雷撃を放つ。
雷撃は六体いる鋼蟻にそれぞれ向かい、狙い違わずその身を撃ち抜いた。
ここのところ毎日使い込んだことで【ユニークスキル】の弾速はいや増している。
〖豪獣〗に回避できるような速度ではないのだ。
「「「ギぢぃ……」」」
鋼の甲殻は鉄と同様の性質を持ち、電気伝導性も高い。が、そんなことはお構いなしに雷撃は彼らの体を抉る。
雷撃は雷に酷似してるが、完璧に同じって訳じゃねぇ。そうじゃなきゃ前に向かって飛んだりせず、地面に一直線だからな。
かなり強力な指向性と、〖豪獣〗の装甲を破るほどの物理的破壊力を持ち合わせている。
「「ガチガチっ」」
「(あ、制御ミスったか)」
六体の内四体は瀕死に追いやれた。けど残る二体が雷に焼かれてもなお動いている。無傷の時を凌ぐスピードで。
どう見ても通電が作用していた。
「(やっぱ複数になると限定化の成功率が下がっちまうな。威力もちょい落ちてたし)」
後は鋼の甲殻に多少軽減されたのも一因か。いくら指向性があってもさすがに影響をゼロにはできねぇ。
まだまだ雷撃の操作には成長の余地アリだな。
「「ガヂヂィッ」」
駆け寄って来る蟻達は浮遊する鉄盾を展開した。何度か使われたことがあるが、そこそこ固くていい〖スキル〗だと思う。
使用者の視界が塞がれるものの、敵からの視線も切れるのは考えようによっちゃメリットだ。
「(ま、今回は相手が悪ぃけどな。雷撃・変則軌道)」
オレは二条の雷撃を上方に打ち上げ、山なりに曲げ、落雷にして蟻達を狙った。
軌道変化自体は故郷の森に居た頃から練習していた。今更ヘマはしねぇ。
そして盾程度の厚みなら〖透視〗で透かして見えるので、位置を見誤ることもねぇ。
〖スキル〗で生まれた盾が消え、地に倒れ伏した蟻二体の姿が現れる。
「(限定化、雷撃・六連)」
最後に全体へ追い打ちし、確実に群れ全体を始末する。
ちなみにだが、通電による強化は重複しない。だから変則軌道のときは限定化を使わなかった。
単純に両立させるのが難しいってのもあるけどな。
「(蟻はあんま武器に使えねぇんだよなぁ)」
捨てるのはもったいないのでこいつらも〖分解液〗で吸収した。
ちょっと酸っぱめの味だが、〖マナ〗は多いので美味しく感じる。
「(そろそろ採掘に戻るか)」
〖貯蓄〗した分の〖マナ〗が尽きたので、〖マナ〗を使わない鉱石堀りを再開。
鎖スコップを模倣し、手近な場所に突き立てる。
この一ヵ月でオレの採掘技術は遥かに向上し、一切無駄のない動きで山を掘り進められていた。
〖マナ〗感知に神経を尖らせ魔性鉱物を決して見逃さないようにしつつ、高速で掘って掘って掘って掘って掘っ──
「(あぁ?)」
──浮遊感。
薄い岩壁を破り、勢い余って空洞に突っ込んだのはそんな時だった。
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