第80話 鉱山の奥地

「(──よし、分かった。ここらの鉱物じゃ有用な武器は作れねぇな)」


 山を一つ掘り尽くした末に、オレはそんな結論を下した。


 ゴロノムア山地に辿り着いて数日。

 その間にオレは様々な武器を試作した。


 叩くと爆発する鎚。衝撃を吸い取る盾。常温で発火する槍。柔軟性の高い金属で覆った爆発矢。

 〖マナ〗を奪う矢。温度変化に強い鎧。縛った相手に鉱毒を注入する鎖。等々。


 ただ、これらのどれも基礎スペックが低すぎる。

 特殊効果の効力は低く、強度も全力で振れば壊れる程度。


 まあ、雑獣域の素材なんだから妥当っちゃ妥当だ。

 まともに使える武器を作るには最低でも豪獣域まで行く必要があるだろうな。


「(んー、そろそろ奥まで行くか……?)」


 来たばかりということで慎重に進めていたが、、採掘にも随分慣れて来た。

 作業はかなり効率化できたし、何なら〖スキル〗を手に入れ上位化も果たした。



~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

穴掘り→穿孔(NEW) 地面の硬さを一定割合無視できる。穿孔時、膂力りょりょくに補正。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 採掘スピードはもちろん、〖穿孔〗の膂力補正は生物に穴を開ける時にも発動するので戦闘力も上がった。

 これはもう次のステップに進んでいい頃合だろう。


「(〖レプリカントフォーム〗!)」


 森鎖八本を脚として、山間を猛スピードで駆けて行く。

 常時発動している〖隠形〗によって不気味なほどに静かだ。


 途中、深い谷や切り立った崖と言った険しい地形にも出くわすが、オレの速度はほとんど変わらねぇ。

 森鎖の先端に付いたスパイクのおかげだ。


「(ハハハハハッ、たまに全力出すのも楽しいな!)」


 崖から崖へとダイナミックな動きで飛び移りつつ叫ぶ。

 思いっきり掘って生き埋めになってからは、採掘でも力を込め過ぎねぇようにしてたんだよなぁ。


 久々になる全力の運動に、得も言われぬ開放感を感じた。


「(雷撃!)」

「ゲギョっ!?」


 通り道の近くにいたゴーレムに【ユニークスキル】を放つ。

 ゴーレムの胸部に命中した雷撃がそのまま岩の肉体を爆散させた。


 こんな風に、最近は弱い魔獣には雷撃で対処している。

 果樹園への栄養補給もしなくなったし〖マナ〗が余りがちなのだ。


「(──取りあえずはこの辺にしとくか)」


 さて、しばらく走り続けたオレは豪獣域に到着した。

 〖マナ〗を探る限りではこのまま進めば凶獣域に着きそうだが、念のためにまずはここで採掘しようと思う。


 この鉱山地帯の北側には人間達の拠点があるらしい。

 だからこそ南側だったこれまでは人間に出会わなかった。凶獣域を超えて雑獣域を目指す人間はまず居ねぇからだ。


 とはいえ、凶獣域までなら英雄級冒険者や命知らずが来るかもしれねぇ。

 故郷の森でもそうだったし人間との遭遇率は極めて低い思われるが、万全には万全を期す。


 まずは南の豪獣域で充分な素材を採り、もし凶獣域で想定以上の強者に見つかっても未練なく鉱山地帯を去れるようにするのだ。


「(取りあえずはこの山だな)」


 何となくで最初の採掘地を決め、崖の下に着地する。それから模倣武器を森鎖から鎖スコップに変更した。

 いざ掘り進めんと鎖スコップを振り上げたその時、〖マナ〗の高まりを上方から感じ取る。


「(なんだ?)」


 オレが上に意識を向けると、何か大きな物体が突き落とされて来た。

 ゴーレムだ。〖雑獣〗や〖長獣〗とは異なり、全長が三メートルもありそうな巨大ゴーレムが降って来たのだ。


「ゴゴ……っ」

「「「ゲーッギャギャギャッ!」」」


 次いで、三つの笑い声も聞こえて来る。

 金属を擦り合わせたような不快な声の主はすぐに姿を見せた。


 そいつらも崖の上に居た。サイズからして一体だけ〖豪獣〗で残りは〖長獣〗か。

 全身が灰色の石材でできており、角や翼があるもののパッと見はゴーレムの同類に見える。


 けれど、仲間でないことは明らか。

 落とされたゴーレムを嗤いつつ、背に生えた翼を羽ばたかせてゆっくりと降下して来る。


「ゲギャッ!」


 翼ゴーレムの一体が落とされたゴーレムに腕を向ける。

 そこに〖マナ〗が集い、石の槍を形成し、高速で撃ち出した。


 石槍に頭を貫かれ、ゴーレムは動きを停止させる。

 ゴーレムは頭部や胸部を壊されると死ぬのだ。


 翼ゴーレム三体が地面に降り立ち、ゴーレムの亡骸を足蹴にし始めた。

 爪先に付いた鋭い爪がゴーレムの体を削って行く。


「(あんまりオレの素材を傷めんじゃねぇよ。〖挑戦〗、〖蠱惑の煌めき〗)」

「「「ゲギャギャっ!?」」」


 〖隠形〗を解き、翼ゴーレム共の注意を引きつける。

 実力差は明白だが、〖スキル〗の力で翼ゴーレム達の逃走を封じた。奴らはオレと戦うしかねぇ。


「「「ギィルルルッ!」」」


 三体の翼ゴーレムは〖スキル〗攻撃を連打して来る。

 主に石や鉄を操る〖スキル〗であり、そのどれからも〖マナ〗の気配を感じた。なんつーか、人間の扱う魔法みてぇな印象を受ける。


 これなら翼ゴーレムってより魔法ゴーレムか……?

 いや、でもゴーレムとは別種っぽいしなぁ。

 悪魔っぽい角もあるしガーゴイルって呼ぶか。


「(……もういいか)」


 少しの間攻撃を受け続け、相手の特徴を観察し終えた。〖スキル〗攻撃が基本であるものの、手足の爪を活かした接近戦も熟せるらしい。

 見るべきものは見れたのでそろそろ倒しちまおう。


「(雷撃、トリプル)」


 三条の雷がそれぞれのガーゴイルへと翔ける。

 咄嗟に貼られた岩の盾をぶち抜き、その奥のガーゴイル本体を焼いた。


 とはいえさすが〖豪獣〗。その一体だけは雷撃にも辛うじて耐えていた。

 ならばもう一発撃つまでと【ユニークスキル】の用意をするも、突然の異変に目を剥く。


「(んなっ、強くなってやがる!?)」


 〖豪獣〗ガーゴイルは手負いとは思えねぇ敏捷性で駆け出した。

 〖スキル〗攻撃の苛烈さも増しており、岩や鉄が雨霰と襲い掛かって来る。


「(急にどうしたんだ……?)」


 不思議に思いつつも、オレは鎖スコップを振るって彼を屠ったのだった。

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