第79話 魔性鉱物の加工

「(ふぃー、結構集まったな)」


 充分な採掘を行えたため、大量の魔性鉱物を持って穴を出る。

 正確には『持って』じゃあなく空間拡張袋に入れて、だが。一々武器に加工すんのは手間だし、ポーラに貰っといて良かったぜ。


 ぴょいと跳んで山間の谷に降り立つ。

 〖受け流し〗で衝撃を分散させ八本の脚で静かに着地した。


 そうして降り立ったところには、オレと同じくらい大きな岩が一つ。

 〖マナ〗はあるようだが魔性鉱物特有の凝縮された感じはしねぇ。ただの硬い岩だろう。


「(ちょうどいいな、フっ)」


 体を薄く伸ばして剣のようにし一閃。大岩の上半分を斬り飛ばして台にした。

 たかが岩の破壊、今のオレには〖スキル〗も不要だ。


 台の上に入手した鉱物達を並べて行く。

 一番多いのはマナクリスタル。水色の物が大半を占めているが、いくつか深い青の物や紫に近い色合いの物もあった。


 また、その他にも強い〖マナ〗を帯びた魔性鉱物を複数発掘している。

 陽光を受けて鮮やかに輝く物。反対に、全ての光を吸い込むような真っ黒な物。

 周りが明るいと分かり辛ぇが、淡く発光する物まであった。


 それら一つ一つを解析し、性質を把握。

 光を鈍く反射する臙脂色の鉱石に触れた。


「(まずはこいつからだな、〖武装の造り手〗)」


 〖マナ〗を送り込むと鉱石に変化が発生。

 まるで見えない手で握り潰されるみてぇに、めきょりめきょりと横長に圧縮されて行く。


 縮む度、果汁が絞り出されるように雑多な色をした石片がし出され、辺りに飛び散っていた。

 石片が抜け落ちる程に赤の色味は強くなる。


 そうして出来上がったのは燃えるような緋色の矢。

 初めより随分と体積が減っちまったが、本当に変わっているのは外見よりも中身、素材の純度である。


「(自作爆発矢、完成だぜ)」


 そう。この矢を形作る赤い物質は、爆発矢の鏃に使われているのと同一の鉱物だった。

 自然界では何の変哲もない赤茶色の鉱物だが、〖スキル〗で反応感度を向上させ、不純物を抽出することでお手軽爆発物へと変化する。


 このように、〖武装の造り手〗には精錬の能力も備わっている。

 死体を武器にする際、余分な水分や臓物を抜いているのも同じ能力だ。〖凶獣〗の〖スキル〗なだけあって多機能である。


「(ただ……ちょいと危なっかしいな、これ)」


 自作爆発矢を解析しつつ思う。

 実はこの矢、エルゴにもらった爆発矢とは大きく異なる点がある。

 爆発のしやすさだ。


 店売り爆発矢は誤爆対策として特殊な金属でコーティングし、緩衝材としている。

 だが自作の方は剥き出しだ。

 言うなれば鞘のない刃物みてぇなもんで、言うまでもなくめっちゃ危険である。


「(とっとと仕舞っちまおう)」


 落石に当たって誤爆する、なんて展開になる前に〖武具格納〗で隔離した。

 格納には対象を全身で包む必要があるんだが、未だかつてねぇくらいヒヤヒヤしたぜ。


「(よし、次だな)」


 二つ目の鉱物に触れ、〖マナ〗を込める。

 〖武装の造り手〗による加工はまだまだ始まったばかりだった。




「(よしっ、これで最後のも完成だ!)」


 日が傾き始めた頃。

 オレは採掘した全ての魔性鉱物を武器に変え終わっていた。


 背伸びでもするみたく体を縦に伸ばし、そこで山の上にとあるものを見つける。


「(あそこに居んのは……)」


 何度となく狩りを行って来た経験から、無意識の内に〖隠形〗を発動していた。

 そして山を登り出す。


 こそこそと、しかして俊敏に。

 〖スピード:741〗をフルに発揮すれば、この程度の山などすぐに登れる。


「(〖挑戦〗!)」


 勢い余って宙に飛び上がりながら〖スキル〗を使用。

 山道を歩いていた岩の魔獣達の敵意を煽る。


「「「ゴ、グググ!」」」


 魔獣達は顔をオレへ向け、威嚇するような声を上げた。

 岩と岩をぶつけ合わせたような不気味な音だ。


 そんな音を発した魔獣達は、全身が岩で構成されていた。

 ゴツゴツとした岩石が、ずんぐりとした人型をかたどっている。

 成人男性ぐらいの身長ながら、その両手両足は異常なほどに太かった。


 感じる〖マナ〗は〖雑獣〗クラスだが、あの腕で殴られれば普通の人間は無事じゃ済まねぇだろう。


「(正面から来るか)」


 五体居るゴーレム──そう呼ぶことにした──は全員が足並みを揃えて詰め寄って来た。

 ちょうどいいしさっき作った武器達を試してみるか。


「(〖レプリカントフォーム〗)」


 実物を使って壊しちまっても勿体ねぇ。体を武器に変えた。

 ブン、と模倣武器を無造作に振るう度、ゴーレムの数が一つ減る。


「(〖パワー〗のゴリ押しで倒せちまうからあんま武器の検証にはなんねぇな……)」


 そんな贅沢な嘆きを溢している間に残りは一体になった。

 その一体は〖挑戦〗の効果を振り切ったようで、背を向け一目散に逃げ出す。


「(最後は爆発矢を使うか)」


 〖武具格納〗から緋色の矢を取り出す。

 それをしっかりと持ち、ぶん投げ──、


 ボンッ!


 ──ようと振り被った瞬間に爆発した。

 思わず体がビクリとする。


 どうやら後方に下げた衝撃がトリガーになったみてぇだった。


「(う、嘘だろ……? こんな爆発しやすいのかよ……)」


 おっかなびっくりしながらも、毒弓を模倣し毒矢を番える。

 最後のゴーレムを背後より撃ち抜き、戦闘は終了したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る