第78話 レッツ採掘
「(ここが ゴロノムア山地か……)」
眼前に広がる山々を見てしみじみと呟く。
ここがオレの寄りたい場所だった。
ゴロノムア山地と呼ばれるここら一帯は、巨大な鉱山の集まりである。
ウェノースト地方全体に鉱物を輸出する大鉱山地帯で、エルゴの実家でも時たま商品を扱うのだとか。
この〖マナ〗で満ちる世界には、鉱物の中にも特殊効果を持つ物──魔性鉱物がある。
それこそ、爆発矢の
そういう訳で、オレはここを第一の目的地としていた。魔性鉱物を手に入れ、加工し、さらなるパワーアップを果たすために。
具体的な目標は立ててねぇが、取りあえず〖武具格納〗の容量が六割を超えるくらいまではここで採掘するつもりだ。
ちなみに現在の〖武具格納〗の容量だが、全体の約二割が埋まっている。
内訳はヒュドラ武器と森亀武器が一割弱、その他の武器が一割強だ。
採掘の知識やノウハウは皆無だし、厳選のことなんかも考えると結構な期間ここに居ることになりそうである。
「(それに、エルゴの話じゃ〖凶獣〗が四体もいるらしいしな)」
姿や詳しい能力までは彼も知らなかったが、存在するって情報だけで充分だ。
〖マナ〗の濃い方に向かってりゃその内会えるだろうし、今のオレなら準備なしでも勝てるはず。
「(ま、その前にまずは鉱物探しだな)」
この鉱山地帯はドワゾフの森以上に広大で、人間が採掘を行っているのは北の方らしい。
間には凶獣域もあるって話だし、うっかり人間の活動範囲に入っちまうてな事はねぇはずだ。
大きな期待を胸に、オレは鉱山への一歩を踏み出したのだった。
「(よし、この辺にするか)」
鉱山地帯に入り三つほど山を越えた。今いるのは四つ目の山の中腹だ。
まだ〖マナ〗は雑獣域と長獣域の中間くらいの濃さだが、ここらで一度採掘の手応えを掴んでおきてぇ。
「(……普通に削って行ったのでいいのか……?)」
今更だけど、きちんと掘れるか不安になって来たぞ。
「(〖マナ〗で地盤は固くなってるはずだし生き埋めの心配は無さ──いや、無節操に掘ってたら危ねぇか?)」
そんなことを考え、一人首を捻る。
しかし、専門知識のせの字も無いオレでは碌な答え見つからない。
「(……考えててもしゃーねぇか。まずは当たって砕けろだ、ヨシ!)」
〖凶獣〗の力なら生き埋めになっても問題ねぇと自分を納得させ、八本の森鎖を振り上げた。
そしてそれを目の前の岩壁に向けて一斉に振るって行く。
「スラスラスラスラ!」
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>戦火
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さすがは〖凶獣〗武器。その威力はこれまで散々味わった通りに驚異的だった。
〖マナ〗の影響で頑強さの増しているはずの岩壁が、まるで発泡スチロールみてぇに高速で削れて行く。
ただし、一回で削れる量はそう多くなかったが。
「(スコップ用の武器を作っとくべきだったか)」
内省して作業を止めた。
森鎖の模倣を解き、代わりに取り出したのは本物の森鎖と森鎚。
それらを体の上に置き、〖制圏〗の範囲を広げる。準備完了だ。
「(〖激化する戦乱〗、発動)」
この〖スキル〗には物を解析する能力の他に、武器を改造する能力もある。
それによって森鎖と森鎚を
まず鎚のヘッド部分を平たくし、縦長に伸ばし、土を掬いやすい谷型の刃に変えた。武器種は矛になるだろう。
まるでスコップのようであるが、似ているだけでこれは矛なので〖激化する戦乱〗で作製可能だ。
それから森鎖の先端をスコップの柄に巻き付ける。すると柄は粘土みたく柔軟に形を変え出した。
森鎖は沈むようにして柄に呑み込まれてしまう。
「(──ここをこうして……返しも付けて……ふぅ、こんなとこか)」
さらにいくつか手を加え、採掘用の鎖スコップが完成した。
柄の底──石突から鎖が生えた鎖スコップに、〖激化する戦乱〗の解析能力を使用する。
性能の確認と、〖レプリカントフォーム〗の発動条件を満たすためだ。
「(……よし、オーケーだな)」
性能は概ね満足の行くものだった。
構造上の脆さは最小に留められたし、特殊効果も発掘に必要なものを残せた。
複数の武器を融合させても特殊効果は一つ分しか残せねぇのは不便だよなぁ。
植物や金属ならともかく、他生物由来の特殊能力は融合させられねぇし。
「(と、そろそろ再開するか)」
鎖スコップを四つほど模倣。刃先を岩壁に突き刺し、抉り、後ろに
そうしてザクザクと掘り進めて行く。
森鎖を使っていた時とは比較にならねぇ効率で作業は進んだ。
たった一振りするだけで、ショベルカーの一掘り以上を掘れる鎖スコップ。それを四つも使っているんだから当然だ。
そうして工業規模の掘削を続けていると、鎖スコップに乗った岩石から強い〖マナ〗を感じた。
後ろに放り投げようとしていたのを慌てて止める。
「(あっぶねぇ、危うく捨てちまうところだった)」
魔性鉱物は近づかねぇと〖マナ〗を感じ取れねぇ、ってのは爆発矢やその他の魔性鉱物を利用した武器を見て知っていた。
けど、周囲の〖マナ〗を含む岩石がチャフになってるんだろうな。ここだと余計に感じ取り辛いらしい。
「(次からもう少し慎重に進めるとして、〖激化する戦乱〗)」
岩石から僅かに露出したその鉱物へ、〖スキル〗を発動。
透き通った水色が美しいその宝石には最初、元・ジュエルスライムとして親近感が湧いた。
だが、解析によりこれが普通の宝石ではない事も分かって行く。
この宝石の持つ特殊能力は、〖マナ〗の貯蓄。
この世界の物体は大抵〖マナ〗を帯びているが、蓄えられる物は少ねぇ。
その希少な物の一つがマナフルーツである。
アレを食べて〖マナ〗が回復するのは、内側に蓄えられた〖マナ〗が直接流れ込んで来るからだ。
「(よし、これはマナフルーツに倣ってマナクリスタルと呼ぼう)」
そんなことを勝手に決めつつ、〖武装の造り手〗を使用。
マナクリスタルを短剣に作り変えた。マナクリスタルが小さかったので短剣も人間の扱うサイズだ。
武器としての性能は凡庸。鋭さはまずまずだが強度に難ありだ。
まあ、マナクリスタルは武器向きの性質を持ってなかったし鋭利なだけでも及第点か。
「(〖レプリカントフォーム〗)」
それから水色の短剣を模倣する。
体の一部が小さな剣へと姿を変えた。
「(……やっぱり駄目か)」
けれど普段とは違い、今回の模倣は不完全だった。
オレの模った短剣は水色ではなく、くすんだ灰色になっていたのだ。すぐに模倣を解く。
「(やっぱ中身までは真似れねぇか)」
マナフルーツで実験して予想はついてたし落胆はねぇ。
〖レプリカントフォーム〗じゃ蓄える性質は模倣できても、蓄えられた〖マナ〗は再現できないのだ。
「(まあいい。〖マナ〗電池としちゃ使えるし、他の用途も後から出て来るかもだからな。こいつも集めてくか)」
水色の短剣を〖武具格納〗に仕舞い、オレは採掘作業に戻るのだった。
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