第72話 森亀3

「(かったりぃな……)」


 地中には元から発芽前の種が埋まっており、また森亀自身も戦闘の最中、甲羅の森から種を振り撒いていた。

 それらが芽吹くのを防ぐため、オレは地表を土の盾で覆っていたのだが……しかし、それも森亀の攻撃で粉砕されてしまった。


 〖樹海〗の力で植物達が急成長を始める。


「(まっ、すくすく育ってくのを黙って見てるつもりはねぇが)」


 今の緑化具合は学校のグラウンド程度。

 多少雑草が生えようと戦況に影響はねぇ。


 今回は〖工廠〗の妨害もあるわけだし、異常繫茂地帯みたくなるのはまだまだ先だ。

 その間にケリを付けちまえばいい。


「(解除、〖レプリカントフォーム〗、〖チャージスラッシュ〗!)」


 空中で模倣し直すことで武器の消耗をリセットし、着地の衝撃を〖受け流し〗で利用して飛び出す。

 森亀の〖スキル〗で操られた植物が地の割れ目から伸びて来るが、ただ走っているだけで千切れてしまった。


 あちらもこうなることは承知の上だったのだろう。

 特に動揺なく俺を迎え撃つ。


「スラッ!」

「グリュゥッ!」


 激突で生じた強風に新芽達が揺れる。

 まずは一合、そして次の瞬間には二合、四合、八合……斬り結び殴り合う音が連なって聞こえた。


 至近距離での応酬、形勢は互角。

 先程まではオレが一歩リードしていたと言うのに、現在はそうではなかった。


「(チぃっ、鬱陶しいっ)」


 振るおうとした毒鞭が、花の茎に巻き付かれて勢いを殺される。

 〖樹海〗での成長には今しばらく時間が掛かるが、森亀の〖スキル:苔す亀の瞬き〗で促成栽培したのだ。

 しかも他の植物強化系〖スキル〗も乗っているのか、鋼鉄ワイヤーかってくらい茎が硬ぇ。


 地表盾が壊れたことを早速後悔しかけるが、実を言うとこの事態は悪い事ばかりでもねぇ。

 今なら自粛していたあの〖スキル〗が使える。


「(とうっ)」


 敢えて集中的に消耗させていた毒剣を森亀の顔へと振るった。〖ウェポンスキル〗は無しなので少しだけ速度は遅い。

 これまでの高速戦闘に慣れていた森亀は、額から伸びるつの──森亀は亀なのに角を持つ──を毒剣にぶつけ、打ち砕いた。


「(痛ってぇな……っ)」

「ギュルァァッ」


 ヒュドラから作った毒剣は巨大な分、破壊時に壊死する細胞の体積も多い。ズキリと痛みに襲われる。

 ごっそりと削られた肉体を庇うようにして一歩下がり、それを好機と森亀が突っ込んで来た。想定通りだ。


「(〖武具格納〗!)」


 取り出したのは樹木で作った巨大棍棒。距離を縮めて来る森亀へと巨大棍棒を振りかぶる。

 森亀はそれを見ても躊躇せず、むしろ棍棒ごとオレを粉砕しようと地を蹴る力を強くした。


 まあ、森亀が何かするまでもなく棍棒は壊れるんだけどな。


「〖千刃爆誕〗ッ」

「グルゥっ!?」


 瞬間、風船みてぇに膨らんでいた棍棒が爆ぜた。

 無数の木片ナイフが飛散して上下左右、四方八方を斬り付ける。

 それは森亀も例外ではなく大小様々な切り傷を刻まれた。


 必殺技的な位置付けの全方向攻撃〖スキル〗、〖千刃爆誕〗。

 これまでは地面への被害を案じて使えなかったが、今となっちゃそんなことは関係ねぇ。ガンガン爆破して森亀を追い詰める!


「(〖コンパクトスラスト〗!)」


 先程の〖千刃爆誕〗で森亀の突進速度は落ちたが、脚を止めた訳じゃねぇ。

 激突までの刹那で毒槍を前に出し、刺突を放つ。

 森亀の頬を穿ち、突進の威力をさらに弱めた。


「グ、リュゥアァァっ!」

「(ぐぅっ!?)」


 だが森亀もる者で、その程度じゃあ怯まねぇ。

 頬を貫かれながらも歩を進め、オレに体当たりをぶちかました。


 〖タートルタックル〗の乗った強烈な一撃。

 盾が間に合わなかったことでモロにダメージが入り、オレは大きく後退させられ──、


「(〖不退転〗!)」


 ──ない。

 〖ライフ〗をごっそり削られつつもその場で持ち堪える。

 そして〖武具格納〗から木の武器を二つ取り出し、


「(〖千刃爆誕〗、ダブル!)」


 両方に〖マナ〗を注いだ。二つの爆音が同時に響き、左右から森亀を襲う。


「グリュぅ……」

「(〖跳躍〗!)」


 逃げようとする森亀に追いすがる。

 並行して〖レプリカントフォーム〗を使い防御無視の大剣を模倣。森亀の首へと振るった。


「(〖コンパクトスラッシュ〗!)」

「ルルッ!」

「(チっ、外したかっ)」


 ゴツゴツとした森亀の首肌を斬り裂く寸前、標的が消失した。甲羅の中に頭を引っ込めたのだ。

 大剣は空振りし、すぐさま翻して二の太刀を放つも僅かに遅く、森亀は横に跳んで躱してしまった。


 距離が開いたことでか森亀は顔を出そうとし、そこへ〖千刃爆誕〗を浴びせかける。

 木片ナイフの一本が森亀の膝関節に深々と突き刺さり、森亀の体勢がほんの少し崩れた。


 すかさず接近。ヒュドラ武器や大剣での猛攻を仕掛ける。

 森亀も甲羅から伸ばした蔓や枝、そして操った植物で応戦するがダメージが祟ってか動きが悪い。


 それに加えてもう一つ、オレの押している要因がある。


「(〖コンパクトウィップ〗!)」

「ギュゥオオオっ」


 毒鞭が甲羅に命中しペキリと欠けさせた。


 絶え間なく攻撃し続けたことによる消耗の蓄積と、〖連撃〗の補正。それらが掛け合わさり甲羅を傷付けるに至ったのだ。

 特に〖千刃爆誕〗は〖連撃〗のカウントを溜めやすく、補正量を格段に押し上げていた。


 蔓も幹も枯れ枝を手折るように壊せ、甲羅の守りさえも突破できる。

 少しでも攻撃を防ぐため森亀は防戦一方となり、それによりオレの攻勢はさらに強まっていた。


「グルァッ!」


 だからそれは必然の結果だった。

 森亀は大きく後ろに跳び、追おうとしたオレを急成長した樹木達が阻む。既に〖樹海〗の効果で若木程度に育っていたそれらは、オレが追い始めるより早く成木並みになった。


 木々の隙間から見えるのは、オレに背を向け一目散に逃げ去る森亀の姿。

 〖挑戦〗も〖蠱惑の煌めき〗も振り切って逃亡を選んだのだ。


 森亀はまだ荒地を走っているが、じきに森の中に入っちまう。そうなれば絶対に追いつけねぇ。

 だが、今から追っても植物の妨害で森に入るまでの時間を稼がれちまう。なら──、


「(〖跳躍〗!)」


 ──植物の届かねぇ空から狙えばいい。

 一跳ねで木よりも高く跳び上がり、眼下を駆ける敵影を睨む。位置的に今から〖空中跳躍〗を使っても間に合わなさそうだ。


「(〖武具格納〗!)」


 だから遠距離攻撃で動きを止める。


 取り出した武器は巨大な槍の形をしていた。

 穂先から石突まで全てが鉄で、さながら鉄の塔のよう。


 これの素材となったのは、かつてホブゴブリン達が使っていた鋼鉄の武器達だ。

 それらを全て融合させて作ったこの巨槍は、ここ一番の切り札として大事に大事に温存していた。


「(〖一擲〗!)」



~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

一擲 投擲時、腕力に補正。体力を消費し、強力な投擲を行える。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 それを、渾身の力と体力を込めて投じる。

 巨槍はその質量からは想像もできないような豪速で夜空を切り裂いた。


「ギュアっ!?」

「(〖空中跳躍〗!)」


 甲羅を巨槍が突き破ったことで森亀の足がもつれ、そこへ宙を蹴って強襲する。

 オレが降り立ったのは甲羅。落下の衝撃で森亀を追撃しつつ巨槍に〖マナ〗を込めて行く。


「グ、ガァァ……っ!!」


 森亀が甲羅の植物を操り攻撃を仕掛けて来るも、オレはそれを無視して〖マナ〗を込め続け、そして巨槍に変化が訪れた。


「(〖千刃爆誕〗!)」


 ──膨張、そして爆散。

 甲羅を貫いた状態で無数の鋼鉄の刃と化し、あらゆる方位に斬撃を見舞った。


「──────ッッッ!!」


 絶叫が夜の森に響き渡った。

 鋼鉄の刃は内臓を滅多切りにしていた。致命傷であることは疑いようがねぇ。


「(……〖スラッシュ〗)」


 血を吐き藻掻く森亀に防御無視の大剣を振るう。

 その一太刀は苦しむ森亀の首をほとんど抵抗なく断ち切った。


 首が転がり目から光が失われて行く。

 同格のはずの〖凶獣〗すら寄せ付けなかった森の頂点捕食者は、こうして長い生涯に幕を下ろしたのであった。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>戦火いざなう兵器産み、不破勝鋼矢の〖魂積値レベル〗が175に上昇しました。

>>戦火いざなう兵器産み、不破勝鋼矢が〖スキル:嵐撃〗を獲得しました。〖連撃〗が統合されます。

>>〖スキル:土俵際〗を獲得しました。〖不退転〗が統合されます。

>>〖スキル:怒涛の妙技〗を獲得しました。〖流転の武芸〗が統合されます。

・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る