第66話 VSハニービー
「(な、何だ!?)」
拠点の花畑には数え切れないほどの蜂の魔獣が居た。大きさからしてほとんどが〖長獣〗だろう。
人間時代なら卒倒しそうな光景だが、巨大な虫の魔獣とはスライムとして何度か戦ったことがあるので、うへぇ、と辟易する程度で済んでいる。
「「「ギチギチギチッ」」」
オレに気付いた蜂達の内、五体ぐらいが飛んで来た。
「(〖レプリカントフォーム〗)」
毒鞭を振るうこと五度。鞭が当たる度に蜂の体は爆発四散し、あっという間に全滅する。
〖長獣〗の速度では回避など到底不可能で、彼らがオレの元に到達するよりも五回振るう方が早かった。
「ギヂっ、ギチチヂッ!(怯ムナっ、総員射撃準備ッ)」
〖豪獣〗と思しきリーダー格の蜂が檄を飛ばす。
他の蜂達は花に
リーダー格の個体も同様に〖マナ〗を集めつつ、オレから距離を取ろうとする。後方支援タイプなのだろう。
指揮官としちゃ正しい行動だが、それを見逃してやる義理はねぇ。
「(
「ギヂィっ!?」
毒鞭を伸ばし、先端に付けた大牙でリーダーを貫いた。
リーダーも
間もなくして息絶えたのであった。
……うん。この感触なら鞭として振るうまでもねぇな。
〖レプリカントフォーム〗の操作能力でぶつけただけでも充分に致命傷を与えられる。
「(〖レプリカントフォーム〗、四重発動)」
新たに毒鞭を四本模り、五つの鞭で
それぞれが意思を持つかの如く乱舞するその様子は、あたかもあのヒュドラが蘇ったみてぇだった。
一体、また一体と的確に撃破して行く。
この精密な動きは〖進化〗して得た〖多刀流〗の賜物だ。
五本同時でも自在に操れ、敵の数を瞬く間に減らせる。
蜂達もリーダー格の最期の指示に従って毒針や炎弾を飛ばして応戦するが、オレの〖タフネス〗には全くの無意味だ。
やがて形勢の不利を悟ったのか、副官ポジションの〖豪獣〗らしき個体が撤退の指示を出し、生き残り達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「(……取りあえず追うか)」
放置してまた来られても敵わねぇしな。
倒した蜂達を急いで吸収し、〖隠形〗を発動して追跡を始めた。
蜂達はまだそう遠くには行っておらずすぐに追いついた。
どうやら集団を二つに分けたようで、数は逃げ出した時の半分くらいになっている。
巨体をどうにかこうにか隠し、彼らをひっそりと追跡することしばし。群れは花々の咲き乱れるなだらかな丘に到着した。
位置的には森亀の住処に近い。
別れていたもう一つの集団ともそこで合流する。
丘の向こうは崖になっており、蜂達はその下に降りて行った。
オレも淵まで行って下を覗き込んでみる。
「(うおっ、ここが巣か)」
果たして、そこには巨大な蜂の巣が鎮座していた。
木の枝とかにぶら下がっている通常の蜂の巣とは異なり、崖の根元の地面に横たわっている。
「(でっけぇな……)」
その規模は〖凶獣〗となったオレ以上。魔獣の巣としちゃ最大級のものだ。
「(〖マナ〗感知……この感じは〖豪獣〗級が何体も居るな)」
大雑把にそう判断する。
まだまだ数を絞れるほどじゃねぇが、この程度の芸当は今のオレなら出来るのだ。
「(〖凶獣〗は居ねぇだろうし負けることは無いはずだが……討ち漏らしが出ても嫌だしなぁ)」
少し考え、まずは最大火力を叩き込むと決めた。
〖空中跳躍〗を二度使い空高くに跳び上がる。
「(〖空中跳躍〗、〖猛進〗、〖墜撃〗!)」
使用頻度の高い便利な〖スキル〗達を同時発動。
隕石のように猛然と落下する。
「(〖レプリカントフォーム〗、〖ヘビースラスト〗!)」
ヒュドラから作った毒槍を模倣し、衝突の瞬間に合わせて突き出す。
尋常でない衝突音が周辺を揺らした。
「(半壊か、案外頑丈だな)」
遠くに吹き飛ばしちまわねぇよう威力をセーブしたものの、それでも木端微塵にする意気だったんだが。
自分で開けた大穴から跳び出しつつ、半壊した巣の様子を窺う。
突然の襲撃に反応したのか、そこからは蜂達がうじゃうじゃと湧き出していた。
そいつらは攻撃を行ったオレに殺到しようとし、
「(〖武具格納〗、〖千刃爆誕〗)」
無数のナイフによってあっという間に斬り裂かれた。
飛散した刃は全て木製。木を〖スキル〗の対象としたのだ。
木の刃は巣にもさらなる被害を与え、しかしそれでもまだ蜂達の戦力は尽きていなかった。
後続が引っ切り無しに出現する。
「(〖武具格納〗、〖千刃爆誕〗)」
だが、即座に〖千刃爆誕〗で蹴散らされる。
圧倒的な破壊力の代償に、発動準備に時間がかかり〖マナ〗消費も激しいはずのその〖スキル〗を、オレは連続で行使した。
「(〖武具格納〗)」
それからまた一振り、
これが〖千刃爆誕〗を連射できているトリックの種だ。
〖制圏〗の修行中、武器化した木をオレは〖武具格納〗に仕舞っていた。
あれは放置して人間達に見つかったり他の魔獣に使われたりすると困るからで、〖制圏〗を使ったときは必ずそうしている。
しかしこの木、ただ〖武具格納〗の容量を圧迫させるだけではもったいねぇ。
だから〖千刃爆誕〗の弾として使えるよう、毎日就寝前に〖マナ〗を注いで発動寸前の状態にしているのだ。
異空間内では時が流れないため、込めた〖マナ〗が抜けることもねぇ。
おかげで今では取り出したら即、爆散させることが出来ている。
「ギ、ヂィぃ……」
この巣の女王と思しき一際大きな個体が、姿を現すと同時に撃ち抜かれた。
それを最後に、蜂の出現がバッタリと止む。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>戦火
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
力の漲る感覚が、〖レベル〗の上昇を教えてくれた。
〖進化〗してからしばらく経つが、これでようやく二度目の〖レベル〗アップだ。先は長いぜ。
「(〖激化する戦乱〗……針の毒はなかなか良さそうだけど、結局ヒュドラには及ばねぇしなぁ。ま、一応仕舞っとくか)」
そうして必要な素材だけ回収して蜂達を溶かし、それから巣の残骸に視線を向ける。
この巣からも相当な〖マナ〗を感じるのだ。
度重なる攻撃によって食べやすく砕かれた、僅かに蜂蜜の滴るそれを一欠け、体内に取り込む。
「(ウマっ、甘っ!?)」
樽いっぱいの蜂蜜をたった一滴に濃縮したような、極上の甘みが広がった。
下手をすれば女王蜂よりも濃密な〖マナ〗が、オレの全身に沁み渡って行く。
心地よい感覚の中で無心に蜂蜜を貪った。さながら熊にでもなったかのように。
「(ふぅ、食った食った)」
巣を食べ終わる頃には〖貯蓄〗を含め胃袋は満杯になっていた。
充分に食べて満足したオレは、そのまま帰路に就く。
〖方向感覚〗のおかげで拠点のある方角はざっくり掴めてるし、日が暮れる前に帰るとしよう。
そのように、オレは充実した〖凶獣〗ライフを送っていた。
だがその四日後、オレの平穏な日々に暗雲が立ち込める。
「──貴族がコウヤさんを倒しに来るようなのです」
そんな知らせを届けてくれたのは、ポーラに連れられたエルゴだった。
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