第59話 スラ’sメイキング
「(よっこいせ、っと)」
ヒュドラとの戦闘跡地から住処の花畑まで戻って来た。
〖進化〗で巨大化したことにより少々手狭に感じるそこで、スペースを見つけて一息つく。
「(……オレ、勝ったんだよな……)」
さっきまでは勝利の余韻と〖進化〗の興奮でそれどころじゃなかったが、今更になってようやく実感が湧いて来た。
〖凶獣〗を打ち倒し、彼らに並ぶ力を手に入れた。その実感が、歓心が、じんわりと広がって来ていた。
「(……そろそろ始めるか)」
充分に喜びを噛み締めたところで本来の目的に移る。
「(〖激化する戦乱〗)」
近くにあった木の枝を折り、〖スキル〗を発動させた。
最終目標はヒュドラ武器だが、まずは武器作製系〖スキル〗に慣れるとこから始めようと思う。
てな訳で情報解析だ。
さっきは
今回は下準備をきちんとしてから挑むぜ。
「(ほうほう、なるほどなるほど──)」
枝の持つ情報を読み取り、適した武器種を探す。
部分ごとの重さ、鋭さ、硬さや
「(そもそもこの枝は武器にあんま向いてねぇな)」
だった。
まあ、うん。木だしな。
もうちょい太けりゃ鈍器として使えたかもしれねぇが、実の
「(とはいえ、一番向いてるのが何かは分かった)」
なのでそれを作っていく。
「(〖武装の造り手〗、発動)」
木へと〖マナ〗を込め、変形を開始した。
この作業も二回目。初めの時よりは上手く進められている。
まあ要因としちゃ経験の蓄積よりも、事前に完成形をイメージできてて調整に〖集中〗してるからってのが大きそうだが。
「(……こんなもんか)」
少しして木の枝は武器として完成した。
節や葉など余計なものは全て取り払い、どこまでも真っ直ぐな一本の短槍になっている。
いや、長さは精々数十センチだし、穂先から石突まで全部木製なのは普通の短槍とはかけ離れていたが、まあ、敢えて分類するのならこれは短槍だろう。
ひたすら硬く鋭くなるよう調整し、貫通力向上の追加効果も付けておいた。
「(よし、次は〖制圏〗の中でやってみるか)」
そう決めて場所を移す。
今のオレじゃ〖制圏〗は最低十メートルまでしか範囲を絞れねぇ。せっかく育てた草花を武器に変えちまったら目も当てられねぇ。
「(この辺りで良いか)」
花畑から森亀の住んでいる方角へ一分ほど歩き、大きめの岩のある場所で立ち止まった。
今度はこれを武器にしてみよう。
「(〖制圏〗、条件追加)」
〖制圏〗の空いていた二枠に『名匠』と『量産』──どちらも武器作製を補助する効果だ──をセットした。
これにて準備は万全。
「(〖縄張り〗、発動。……ふぅ、結構減少が速ぇな)」
〖縄張り〗の発動中は常に〖マナ〗を消耗する。
枠に何も入れなければ毎秒一程度だったが、今ではその三倍近い量を消費していた。
他の〖スキル〗も色々試したから〖マナ〗はかなり減ってる。
「(まっ、まずはこの岩を変形させるか)」
既に解析は終わっている。
後は武器化に移るだけだ。
「(〖武装の造り手〗)」
岩の奥深くまで浸透した〖マナ〗がその存在を内側から改造して行く。
その変化は傍目にも明らかで、ゴリッゴリッ、と鈍い音を立てながら岩が長方形になっていく様は大半の者の目には異様なものに映るだろう。
さて、木の枝より幾分か手間取ったが、岩の武器化も完了した。
今回作ったのは棍棒。持ち手だけ細く、それ以外の部分は太く、中ほどから先端に掛けていくつも突起がある、鬼の使ってそうな棍棒だ。
長さ約五メートルというサイズも鬼の金棒っぽさに拍車をかけている。
「(〖武具格納〗)」
それを仕舞い、オレは体の上に乗せていた果実を体内に沈ませる。
〖制圏〗の影響で棘が生えていたが特に効能に変調は無く、木の実を吸収した途端、オレの〖マナ〗が急速に回復を始めた。
この黄色いトマトみてぇな果実には食うと〖マナ〗が回復する、っていう稀有な特質があった。
人間達の間じゃマナフルーツって呼ばれて高値で取引されてるのだとか。
ポーラに効能を教えてもらって以来、彼女の修行中に何度か振る舞っていたのだが、思わぬところで役に立った。
「(ある程度慣れて来たし、そろそろヒュドラ武器に行くか)」
失敗しても〖激化する戦乱〗である程度修正は効く。
数も多いし当たって砕けろの精神だ。
〖制圏〗を解除し、ヒュドラだった武器達を取り出す。
首ごとに別個の武器になりかけており、目の前には剣が二つ、槍、鞭、鎚が一つずつ並んでいる。
ちなみに鞭には首から下の胴体もくっついており、お陰でかなりリーチが長い。
「(〖激化する戦乱〗)」
まずは情報収集だ。
作製途中とは言え高位の武器、まだ解析は途中なのである。
「(凄ぇな、〖獣位〗が高ぇとこんな上質な素材になんのか)」
木材以上の
その他の部位も軒並み性能が突出しており、武器の素材としちゃ隅から隅まで余さず超一級品だ。
オレがこれまで見て来た強力な武器には必ずと言っていい程〖豪獣〗の素材が使われてたが、その理由も今なら分かる。
こんな優秀な素材があるなら誰だってそれで武器を作りたくなるだろう。
まあ、ヒュドラの場合は加工法をミスると持ち主を毒する呪いの武器になりかねねぇが。
「(……よし、大まかな方針は決まったな。まずは鞭から完成させるか)」
ヒュドラをどんな武器にするか決めたオレは、他の武器を仕舞い、〖縄張り〗を再発動してから鞭に〖マナ〗を流し込む。
「(〖武装の造り手〗)」
鞭が生々しい音を立てながら変形を始めた。
これまでの素材より格段に操作し辛ぇが、〖制圏〗のおかげで何とか動かせる。
まず行ったのは血抜きだ。毒性を他の部位に吸わせることで、水分だけを排出できるよう注力した。
そして残っていた肉を骨の周りに詰め込み、ムラが出ないよう丁寧に丁寧に
それからその上に皮をピッチリと張り付けた。
皮には硬く細かい鱗で覆われており、打たれた者に裂傷を刻むだろう。
けれどそれだけでは攻撃力に不安が残るので、鞭部分に牙を等間隔で並べてみた。
〖百毒牙〗の媒介となっていたこの牙には凶悪な毒性が宿っており、掠り傷からでも多種多様な劇毒を流し込める。
先端の重石には牙を四本ほど合成した大牙を採用。
鞭で最も威力が高くなるのは先端なので、これが当たった相手には大ダメージを負わせられるだろう。
そして最後に柄を取り付けた。
ホブゴブリン達の使っていた鉄製の棍を流用したのである。
「(特殊効果は百毒付与と残り二つか……靭性向上と毒性強化が良さげだな)」
これにてヒュドラ武器第一号、毒鞭の完成だ。
素材の味を活かした……というか素材の味まんまな武器に仕上がった。
〖激化する戦乱〗で視た限り部分ごとの接合も上手く行っており強度にも不安はねぇ。
これは成功と言ってもいいだろう。
「(さあ次の武器だ!)」
そうしてオレはどんどんとマッドな武器作製に邁進するのであった。
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