第58話 〖制圏〗

~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

縄張り 〖制圏〗を広げ、操れる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 〖スキル:縄張り〗の説明はこれだけだが、これとは別に〖制圏〗についても説明があった。



~制圏詳細~~~~~~~~~~~~~~~

あなたの〖制圏〗は〖工廠こうしょう〗です。

工廠こうしょう〗内では全ての物が武器に変わります。


追加効果:『(空欄)』『(空欄)』


 候補一覧

名匠 作製される武器の性能に補正。

量産 武器作製時、武器の作りやすさに補正。

鋭利 武器の鋭さに補正。

鈍刀 武器の鋭さに逆補正。

堅固 武器の強度に補正。

脆弱 武器の強度に逆補正。

軽快 武器の重量を軽減。

重厚 武器の重量を増加。

好戦 武器所有者の戦闘意欲に補正。

鎮静 武器所有者の戦闘意欲に逆補正。

技巧 〖ウェポンスキル〗の性能に補正。

拙劣 〖ウェポンスキル〗の性能に逆補正。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 どうやらオレの〖制圏〗は〖工廠こうしょう〗と言うらしい。

 効果は物体の武器化。様々な物が武器に変成するそうだ。


「(なーんか想像し辛ぇな)」


 まあ、その辺は使ってみりゃあ分かるか。

 それから〖制圏〗には追加効果っつー項目もあった。

 その名の通り〖制圏〗に新しい効果を付け加えられるみてぇだ。


「(初めは二つまでか……どれにすっか悩むな)」


 加えられる枠は現状、二つ。

 候補となるのは十二の効果。


 これらの効果はオレ自身にも及ぶから逆補正系は除外し、戦闘意欲向上も特に必要なさそうなのでそれも除外し、残る候補は七つ。

 どれもそれなりに役立ちそうだし悩むな。


「(まあ後で何度でも付け替えられるみてぇだし、取りあえずは『名匠』と『量産』でいいか)」


 一旦そう決め、それらを付け加えようとしたところで〖制圏〗の操作を中断する。


「(ありゃ、効果増やすと〖マナ〗消費が増えるのか)」


 考えてみりゃ当然か。

 機能が増えればその分、燃料も多く必要になるのは道理である。


「(増やさなくても武器化の効果はある訳だしな、まずはプレーンで試そう)」


 それからヒュドラの肉を食べ終わり──〖進化〗前は満腹だったのだが、〖進化〗で体積が増え腹具合にも余裕ができたので食事を再開していた──準備は完了だ。


 全身の〖マナ〗を一点に集め、渾身の力で圧縮する。

 魔獣としての本能か、初めて行う工程にも関わらずすんなりと熟せた。


 閾値を超えた濃度の〖マナ〗がオレの中心で熱を帯び、心臓の如く脈打つ感覚

 それこそが〖縄張り〗を使えるようになった合図だ。


「(──〖縄張り〗、発動)」


 瞬間、空気が一変した。

 オレから溢れて渦巻く力場が周囲の世界を包み込み、塗り替え、支配する。


 辺りに起きた騒めきは変異の音色。

 世界に根差す理が歪み、遍く物体は殺傷に適した形へと軋みながら変わり行く。ゆっくりと、だが着実に。


 例えば木。梢は尖り、無駄な枝葉は削ぎ落し、節や凹凸おうとつならし、幹の一つ一つを真っ直ぐな長槍へと変えていた。

 それとは別に、葉を刃のように硬く鋭くさせる木や、幹を太くし樹皮を硬質化させ棍棒のようになる木もある。


 その他の植物も殺傷力を獲得すべく、各々に変形を行っていた。

 水気を含んだ地面でさえもやすりを思わせるギラつきで表面をコーティングしている。


「(これが〖制圏〗、〖工廠〗の力……!)」


 植物達の変貌を見ながら漏れたのは感嘆の声。

 範囲は限界まで絞ったので精々十メートルの変化だが、それでも〖制圏〗の凄まじさは充分に理解できた。


 この力があれば、例えば〖雑獣〗が何百匹と襲って来たとしてもただ立っているだけで皆殺しに出来るかもしれねぇ。

 少なくとも今ここにゴブリンが足を踏み入れれば、無数の撒菱まきびしと化した草花に貫かれたおれ伏すだろう。


「(ここまで範囲を絞れば〖マナ〗消費もかなり軽いのか。さっすが〖凶獣〗の力だぜ)」


 それから〖制圏〗を解き、武器化した植物達を格納して行く。

 もちろん仕舞う前に情報を解析するのも忘れねぇ。


 〖激化する戦乱〗の解析能力は〖レプリカントフォーム〗のそれよりも高性能らしく、かなりスムーズに解析は進んだ。

 ちなみに、〖スキル〗間で解析情報は同期されており、〖激化する戦乱〗で解析した武器も〖レプリカントフォーム〗で模倣することができる。


「(と、これで植物系は全部だな。残るはこいつだが……これは武器で良いのか?)」


 そこにあるのはヒュドラの死体……だった物だ。

 オレの〖分解液〗じゃ牙や鱗、骨などは溶かせないため、そう言った部分はその場に残されていたのだ。


 そしてそれらは〖制圏〗の効果を受け、武器へと姿を変えていた。

 いや、変える途中か?

 首ごとに分離し、それぞれ武器の成り損ないみてぇな塊になってやがる。


「(格の高ぇ素材だと変化は遅くなるみてぇだな)」


 この辺りは人間達が言うところの豪獣域で、植物も多量の〖マナ〗の影響で強靭に成長しちゃいるが、それでも植物は植物だ。

 〖工廠〗の干渉を撥ね返すほどの力は有していなかった。


 だがどうだろう、ヒュドラの死体は。

 〖凶獣〗なだけあって、オレの覚えたての〖制圏〗ではそう易々とは変異させ切れなかった。


「(凄ぇ素材だな……武器にすんのが楽しみだ)」


 五つの塊に別れたヒュドラを格納する。

 この状態でもギリギリ武器だって判定されたのだ。


 そうしてオレはこの場を、半径約十メートルの更地を後にする。

 まだまだ色々試してぇが、ヒュドラとの戦闘中に結構移動しちまった。

 豪獣域でも浅い方の場所になる。


 冒険者達に見つからねぇ内に、豪獣域奥地の拠点まで戻っちまおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る