第56話 〖進化〗4

~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

精密射撃 遠距離攻撃時、命中精度に補正。遠距離攻撃時、弾速及び命中精度に補正。


毒手 〖毒〗状態時、直接攻撃をした対象に自身と同種の〖毒〗を付与できる。

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 ヒュドラとの戦いを経て、オレは二つの〖スキル〗を手に入れた。

 一つは〖精密射撃〗。〖狙撃〗の上位版らしい性能で、特にクセがなく使いやすそうだ。


 もう一つは〖毒手〗。

 こっちは何つーか、用途が限定的な〖スキル〗だな。


 〖毒〗攻撃を使う魔獣のほとんどは〖毒〗への耐性を持ってるし、そうでない相手には自発的に〖毒〗を負う必要がある。

 人間相手なら出番もありそうだが……そもそも人間とは戦いたくねぇしな。


 〖水泳〗や〖輸送〗と同じくお蔵入りになりそうな〖スキル〗だ。


「(うーん、そろそろ食ってみるか)」


 自身の〖ライフ〗を確認しつつ呟く。

 見つめる先にはヒュドラの死体。倒してから数分経つが、オレはまだこれに手を付けていなかった。今までは〖自己再生〗に注力していたからである。


 ヒュドラが死んでも食らった〖毒〗は残っており、変わらず〖ライフ〗を削り続けていた。

 それによる減少量と吊り合うよう、慎重に回復を続けていたのだ。


 そうこうしている内に〖毒〗も薄れ、〖ライフ〗減少も緩やかになったのでヒュドラを食べよう思った訳である。

 今なら多少悪化しても〖毒〗で即死することもねぇだろう。


「(いただきます!)」


 〖制圏:毒沼〗の力でぬかるんだ地面を進み、ヒュドラの元へ。

 噛み千切った首の、なかなかグロテスクな断面に体を張り付ける。

 そして〖分解液〗を発動。ジュワリ、と〖凶獣〗の肉を溶かし、取り込んだ。


「(っっ!?)」


 全身に衝撃が走った。味覚への刺激に体中を震わせた。

 初めて食す〖凶獣〗の肉。その味わいは人間時代を含めても未だかつてないものだった。


「スラッスラッスラッ!」


 夢中でヒュドラを溶かす。

 肉の一片、血の一滴を吸収するごとに濃密な〖マナ〗が流れ込み、花火のように旨味が弾けた。


「(──…い、勢いに任せて食い過ぎたか……)」


 気が付けば首一本分の肉を平らげていた。

 とはいえヒュドラの首はまだ四本、それに胴体も残っている。色々考えるのは食べながらにしよう。


「(毒は強ぇが……何でか平気だな)」


 冷静になって抱いたのは、自分が〖毒〗になっていないことへの疑念だった。

 死んで毒成分が揮発した……とは考え辛ぇ。傷から滴る血が地面の植物に掛かると、一瞬にして腐り落ちてるし。


 うーん、どういうことだ?

 そんな事ができそうな〖スキル〗は持ってねぇはずなの、に……。


「(あぁ、もしかしてこいつか……?)」


 〖ステータス〗を見直し、目を付けたのは先と同じく〖抗体〗。

 今も〖毒〗耐性を与えてくれている便利な〖スキル〗だが、注目すべきはもう一つの効果。


 〖抗体〗の前身である〖悪食〗の能力、『食事による状態異常への耐性』だ。

 これによって〖毒〗になるのを防いでるんだと思う。


「(もしかすっと血の毒も〖分解液〗で吸収してたら軽減出来てたのか?)」


 ふと、〖噛み千切り〗をした場面を思い出す。

 いや、〖レベル〗アップで〖レジスト〗も上がってるし一概には比べられねぇんだが、もしかするとあの時も〖毒〗にならずに済んだのかもしれねぇ。


 〖スキル〗の把握が甘かったと反省しつつ、次に意識を向けるのは〖レベル〗。

 ついに〖レベル100〗を超え、〖進化〗が可能になったのだ。


 エルゴの話によるとこの〖進化〗で森亀と同じ〖凶獣〗になれる。

 念願の瞬間なのだが……少し懸念もあった。


「(こ、今度は百個ぐらいあるんじゃねぇだろうな……?)」


 それは進化先の数。

 前回は五個からニ十個に増えたので、今回もまた爆発的に増えるかもしれねぇ。

 そうなったらさすがに読み切れねぇぞ。


 ……ま、悩んでても仕方ねぇか。

 進化先カモン!



~進化先~~~~~~~~~~~~~~~~

曇りなき珠玉の一振り 獣位:凶獣

必罰の具現 獣位:凶獣

暗夜切り裂く蒼き光芒 獣位:凶獣

戦火いましむ霊柩碑 獣位:凶獣

戦火いざなう兵器産み 獣位:凶獣

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ……あれ? 結構少ない……。何か拍子抜けだな。

 これはこれで選択肢が少なくて残念な気もするが……取りあえず一つ一つ詳細を見て行こう。



~進化先~~~~~~~~~~~~~~~~

曇りなき珠玉の一振り 獣位:凶獣

・一心に身体と技を練磨せしジュエルスライムの環境種。

・己が身を変じた瑠璃の刃は決して欠けず、歪まず、一切合切を分け隔てなく斬り捨てる。

の〖制圏〗の内に在りて、全ては武芸と武器にくだる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 お、おう……。何か急に説明文の雰囲気変わったな。

 前まではもっと事務的な感じだったのに。


 種族名が『一振り』って何だよ。

 それって武器に対する言葉じゃねぇか?

 その他の説明文も少し……かなり分かり辛ぇし。


 まあ、分かるところから推測するに、こいつはウェポンスライムの発展形なんじゃねぇかと思う。

 自分の体を武器に変形させ、〖ウェポンスキル〗でり合うタイプだな。

 純粋に強そうだし、〖制圏〗の効果もオレの戦闘スタイルに合ってるしでなかなか良さげだ。


 次のを見てみよう。



~進化先~~~~~~~~~~~~~~~~

必罰の具現 獣位:凶獣

・数多の悪に報いを与えしジュエルスライムの環境種。

・凶刃には斬首を、凶弾には銀弾を、悪しき魔手には正義の鉄槌を与えん。

の〖制圏〗の内に在りて、罪ある者はすべからく自らの業に焼かれるべし。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……そんなに悪を裁いてるっけ、オレ……?

 まあ、真面目に考えるならこれは〖クロスカウンター〗を多用してるから出て来たんだろうな。


 〖制圏〗は『罪ある者』の基準が分からねぇが、殺人を犯したのが問答無用で罪になるなら、魔獣相手だとかなり効果的だろうな。

 ……同族殺しが罪に問われるなら、オレ自身が焼かれそうだけど……。


 ……次に行こう。



~進化先~~~~~~~~~~~~~~~~

暗夜切り裂く蒼き光芒 獣位:凶獣

・幾度となく空を翔け星明かりをもくらませたジュエルスライムの環境種。

・青い星に魅入られてはならない。逃走を忘れたその瞬間、天の輝きは地を穿つ。

の〖制圏〗の内に在りて、土を蹴る者は地に縛られ、風を駆る者は天に愛される。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 またよく分からねぇのが来たな。

 〖制圏〗の効果くらいはもうちょい具体的に説明してほしいぜ。


 でも多分、〖制圏〗ってその種族に有利なように働くんだよな。

 だったら空中移動が得意っぽいこの種族の〖制圏〗は、地上の生物の移動速度低下と空中に居る生物の移動速度増加、とかだろうか?


 まあ、飛行能力が上がれば戦術も広がるし、これも候補の一つだな。

 さて、次は何だろうか。



~進化先~~~~~~~~~~~~~~~~

戦火いましむ霊柩碑 獣位:凶獣

・飽きず争う人類ヒトを憐れみ、無数の武具を封印して来たジュエルスライムの環境種。

あらゆる悪意、あらゆる暴威を鎮圧し、ただ、対話による解決のみを許す。

の〖制圏〗の内に在りて、剣も槍も拳でさえも握ることは叶わない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 うーん、これはジュエルアーマリースライムの正統進化、ってところか?

 憐れむだの対話だの、よく分からねぇ要素も追加されてるが。


 推察するに、人間を殺さず武器だけ格納していたことでこの進化先が現れたのかもしれねぇ。

 対話云々は〖意思伝達〗や〖意思理解〗が関わってんのかもな。


 正直、今まで出た中じゃ一番オレに合わなさそうな種族だ。

 言っちゃなんだがオレ、魔獣に対しては結構好戦的だし。


 そんじゃ次が最後の候補だな。どれどれ……。



~進化先~~~~~~~~~~~~~~~~

戦火いざなう兵器産み 獣位:凶獣

・飽きず争う人類ヒトを嘲り、無数の武具を振り撒いて来たジュエルスライムの環境種。

あらゆる素材、あらゆる資源を武具に変え、ただ、武力による解決のみを許す。

の〖制圏〗の内に在りて、ペンも薪も小石でさえも討ち果たすことを厭わない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 さっきのとは打って変わって散々な言われようの種族だな……。

 人類を嘲ったことなんてねぇぞ、オレ。


 にしても不思議だ。

 この種族は武器作製能力がウリみてぇだが、オレは武器を作ったことなんて……いや、あれか?

 〖レプリカントフォーム〗で模倣したのが作製扱いになってんのか?


 ……真相は闇の中だが、大切なのは能力だ。

 武器を自分で作れるんなら今後の自由度が上がるだろう。


 うーむ、今回の進化先も甲乙つけがたくて悩むな。

 それから散々悩んで悩み抜き、オレが選んだ種族は──。

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