第52話 日進月歩
ポーラは二日おきにやって来る。通常の冒険者業やその他の用事もあるらしく、毎日は来られないのだ。
今日は彼女が来ない日であり、オレは朝から森をうろつき獲物を探していた。
「グルルルゥ……!」
「スラスラッ」
現在、対峙しているのは漆黒の巨大な狼。〖獣位〗は恐らく〖豪獣〗。
薄暗い森の中で逆に目立つほど真っ黒な毛皮と、爛々と光る白銀の瞳が特徴的だ。
そんな大狼は仲間を連れてなかったが、それでもかなり手ごわい相手だった。
漆黒の毛皮は刃も雷撃も通さねぇし、その上高い攻撃力と俊敏性を兼ね備えてやがる。
〖転瞬〗に加え、ダンスのステップを意識して〖踊り〗も発動させることで、やっと相手の攻撃を避けられていた。
回避だけで精一杯なので、隙を見て反撃しても悉く躱される。
相手の攻撃は躱せるが、こっちの攻撃も当たる直前で避けられるっつー展開がしばらく続いた。
しかし今、その均衡が崩れ去る。
「グワゥッ!」
「(〖ヘビースラッシュ〗!)」
相手の高速移動にもようやく慣れて来た頃。爪撃を紙一重で避けつつ〖ウェポンスキル〗を放った。
『上半身を回す運動』を意識して〖踊り〗を発動させ、大狼の顔面へと剣刃を走らせる。
だが敵も
突然の反撃にも反応し、ギラリと輝く白い牙で剣を受け止め、噛み砕こうとした。
「(無理だぜ!)」
「ガウっ!?」
が、オレの体を変形させた剣を砕けるはずもなく。
そのまま重い斬撃で口内を斬り裂かれてしまった。
〖ヘビースラッシュ〗はポーラから教えてもらった──正確には彼女も使えないので、使える人にコツを聞いて来てもらった──〖ウェポンスキル〗だ。
渾身の力を注ぐことで強力な斬撃を放てる。ちなみに一緒に〖ヘビースラスト〗と〖ヘビーシュート〗も覚えた。
そんな、ただでさえ強力な斬撃を顔に受けてしまっては一溜まりもねぇ。
大狼はよろよろと数歩後ずさり、そうして趨勢が傾いてしまえば後は早かった。
間髪入れずオレが大狼に覆いかぶさり〖捕縛〗を発動。
暴れる大狼をガッチリと捕まえ、そのまま〖噛み千切り〗と〖分解液〗で消化した。
「(ふぅ、あと一息な感じはするんだけどな)」
上がらなかった〖レベル〗を見て誰に聞かせるでもなく呟く。
今のオレは〖レベル98〗。99になれば挑戦してぇことがあるんだが……なかなか上がってくれねぇ。
「(はぁー、また探索かぁ。都合よく魔獣の群れが来たり──)」
「「「ブオオオォォォ!」」」
「(──マジか……)」
見れば、遠くの方から人型の豚──オレはオークと呼んでいる──の群れが走って来ていた。何たる幸運。
遠目に数えてみれば数はざっと十体程度だ。
ほとんどが〖長獣〗っぽいが、二、三体〖豪獣〗が混じってるように見えるな。
まだ距離があるので今の内に削っとこう。
「(〖レプリカントフォーム・模倣〗)」
オレは風除けの弓を
片方の弓に爆発矢──以前ポーラに持って来てもらい、その後せっせと模倣量産した物──を番え、素早く狙って発射。
「(〖コンパクトシュート〗!)」
〖狙撃〗の効果も合わさって、爆発矢は狙い違わず〖長獣〗オークの腹部に命中。そして爆発した。
射られたオークが膝から崩れ落ちる。
爆発矢は値が張るだけあって、威力は〖豪獣〗にも通用する程だった。
風除けの弓と合わせれば、〖長獣〗でも軽く屠ってしまえる。
さて、今回オレは弓を二つ模倣した。
そして今さっき射なかった方の弓には既に爆発矢を番え終わっている。
そちらで狙いを定めて、射る。
「(〖コンパクトシュート〗!)」
今度の矢は〖長獣〗オークの脚を爆破し、そいつを転ばせることに成功した。
と、その間に一射目に使った弓に矢を番え終わり、照準し、撃つ。するとその間にもう片方の弓の準備が終わっている。
このようにしてオレは爆発矢を連射して行く。これも最近練習していた技だ。
初めは同時に撃つ練習をしていたのだが、二つ同時に狙いを付けるのは難しかったので連射方式に切り替えた。
連射方式なら無意識に矢を番えられるまで練習すりゃ、後は一つ一つ射るだけだから同時照準とは難易度が段違いだ。
その連射によりオーク達は数をみるみる減らしていった。
オークは武器や防具を持たず素の肉体で戦う魔獣なので、命中すればそれだけで大きいダメージを通せる。
連射戦法とはかなり相性が良い。
なのでオーク達は早く撤退すべきだと思うが、ここまで来て引くに引けねぇのか、後ろから狙われるのを恐れているのか、〖挑戦〗も使われてねぇのに全速前進して来る。
結局〖長獣〗は全滅しながらも、〖豪獣〗二体がオレの元に到達した。
「(おらよっ)」
「「ブオォォォっ!?」」
弓化を解除し、即座に鎖鎌を四つ模倣。それらを全て〖豪獣〗オーク達に差し向ける。
鎖鎌本来の射程は約五メートルだが、変形で作った鞭の先端に取り付けることで射程を伸ばした。
四本の鎖鎌を自在に操り、オレはオーク達を翻弄する。
暇があれば八本足を操っていたおかげで四本くらいなら大して苦も無く操れる。
「ブルルルルッ!」
このまま中距離戦に付き合っていてもジリ貧だと気付いたらしい。
オークの片方が背を屈め、かと思えば唐突に駆け出した。
初速だというのにさっきまでの最高速に近い速さで、オレは少し面食らう。
「(けど、このくらいなら問題ねぇな)」
驚きはしたが、見てから動ける余裕もあった。〖転瞬〗と〖踊り〗を使い、すり抜け様に首を刎ねる。
間欠泉みてぇに血が噴き出し、それを見て最後の〖豪獣〗が逃げようとするが、この接近戦の間合いで見逃すはずがねぇ。
「(〖跳躍〗、〖チャージスラスト〗!)」
真紅の槍を模って突撃。
オークの胸を刺し貫いたのだった。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>不破勝鋼矢(ジュエルアーマリースライム)の〖
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「(おぉっ、やっと〖レベル〗が上がったか!)」
〖ステータス〗で〖レベル99〗になったことを確認し、歓喜の声を上げる。
感覚的に分かっちゃ居たが、それでもきちんと確認したかったのだ。
改めて〖ステータス〗を見てみると、〖スキル〗はかなり習熟したし、キリよく〖レベル〗も上がっていた。
「(これなら挑んでも良さそうだな──)」
──この森に棲むもう一体の〖凶獣〗に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます