第50話 新技
ポーラが覚えた〖スペースストレージ〗は異空間を作り、そこに無生物を仕舞えるって魔法らしい。
俗に言うアイテムボックスだな。
創作に出て来る空間操作能力としちゃあ基本も基本だが、これで空間魔法の糸口は掴めた。
そこから発展させるような形でいくつか案を出し、魔法を試作してもらい、成功したり失敗したりしながら時間は過ぎて行く。
そうして帰還を始めなくては不味い、という時間帯になり二人は帰って行った。
その背中を見送り、ポツリと呟く。
「(混沌種、か)」
一人になって思い出すのはエルゴから聞いたその単語。
魔法の提案をしながらも聴き取りは続けていたのだが、その中で出て来たのが混沌種なる存在だった。
「(混沌の種子に取り付かれ、暴走させられた種族。……あいつにそっくりだな)」
混沌種の特徴は赤い怪物の状態と合致している。これがあの種子の正体と見て間違いねぇはずだ。
エルゴ達との接触により、オレは図らずも仇敵の正体を知れた。
「(でも、人間達も正確な発生源は分かってねぇんだよな……)」
混沌種は東方に多いらしいが、しかしその原因となる存在は発見できていないという。
一体何者がどのような目的で種子を飛ばしているのか。
最前線ならばいざ知らず、少なくともこの辺りまでは情報は流れて来ていないようだ。
「(東か……いつかは行ってみねぇとな)」
お礼参りもしなくちゃならねぇし、何よりこんな迷惑な奴は放っておけない。
まあ、今すぐにとはいかねぇが。
「(大陸、だもんなぁ)」
オレの転生したこの森があるのは大陸西部。
大陸中央の王都までは、馬車や船などの交通手段をフル活用しても優に一ヵ月は掛かるという。
そして王都から大陸東部までも同じだけの移動時間が掛かるだろう。
それを短縮するためにも、もうちょい強くなって〖スピード〗を高めてから旅は始めるべきだ。
まだ森亀も倒せてねぇしな。
「(そのためにもまずは〖スキル〗習得だ!)」
気持ちを切り替え、オレは剣刃を宙へ振るう。
〖スラッシュ〗を発動し、同時に〖マナ〗を外へ飛ばす。
そんなイメージで何度か試したところ、五回目で独特の感覚を掴めた。
続く六回目でそれは明確な形を取る。
「(〖ウェーブスラッシュ〗!)」
音もなく斬撃が
〖マナ〗で構成された半透明な斬撃は、しばらく飛んだ後青い空に溶けるようにして消えてった。
〖ウェーブスラッシュ〗は魔法を試作する途中、ポーラに教えてもらった〖ウェポンスキル〗である。
既に遠距離攻撃はいくつもあるが、手札が多いに越したことはねぇ。
それから刺突を飛ばす〖ウェーブスラスト〗も覚えたオレは、その勢いで森に繰り出した。夕飯を得るためだ。
果物はまだまだ実っちゃいるが、それだけだと栄養バランスが偏りそうだしな。スライムに必要な栄養素は知らねぇけど。
「(魔獣は居ねが~。〖経験値〗が多くて〖マナ〗も豊富な魔獣は居ねぇ──ぐえっ)」
贅沢を言いながら鎖鎌の八本足で歩いていると、突然衝撃に襲われた。
八本足でたたらを踏みながら衝撃の来た方向に意識を向けるが、そこには何も居ない。
「(ちっ、移動したかっ)」
慌てて辺りを見回す。
当然ではあるが、森は木や茂みのせいで視界が悪い。攻撃して来た奴の姿は見つけられねぇ。
仕方がないのでオレはまず鎖鎌を素の肉体に戻した。
鎖鎌移動は疲れねぇけど戦闘で使うにはちょっと練度不足だからな。
牽制用の二本だけは残しておいたが。
「(スライムの視野は全方位。来ると分かってりゃ不意打ち何て──うおっ!?)」
またも衝撃。ダメージは無ぇが度肝を抜かれた。
たしかにその方角にも気を配っていたはずだってのに、どう攻撃されたのか全く見えなかった。
「(めちゃくちゃスピードが速ぇのか、それとも……)」
攻撃の正体を予測しつつ、〖レプリカントフォーム〗で盾を模倣。
オレの立方体な体の内、左右と前方の三面を護るように配置する。
「(……ぐっ)」
すると盾の無い面に攻撃して来た。盾を避ける程度の知恵はあるみてぇだ。
オレはその攻撃を警戒するように、体の向きを反転させて盾を攻撃のあった方向に構える。
そうしているとまたも盾の無い方面に衝撃が走り、
「(〖受け流し〗!)」
それに合わせて体表をへこませた。来る方向が絞れればこういう事もできる。
見えない攻撃は面の内側へぬるりと沈み込み、その瞬間〖噛み千切り〗を発動。
牙代わりに並んだ槍によって見えない攻撃の一部が切り取られ、そして空中から黄みを帯びた血液が噴き出た。
血の噴き出る切断面は、高速で後方に引き戻されて行く。
「(〖ウェーブスラッシュ〗、雷撃!)」
そこへ向けて即座に追撃。
〖マナ〗の斬撃と雷が、何もない場所で弾けた。
「(そこかッ、〖跳躍〗っ、〖チャージスラスト〗!)」
そして間髪入れず飛び込み、真紅の槍を模倣し突き出す。
槍は斬撃と雷撃が消えた位置よりやや後ろで、グニュリと肉を穿った。
「リィェェエエっ!?」
甲高い鳴き声が上がる。
槍の刺さった何も無い空間から血液が迸ったかと思えば、唐突にその場の景色が歪んで行き、そして緑色でゴツゴツとした体表を持つ四足獣が現れた。
「(カメレオンの魔獣か)」
そう、そいつは昔テレビで見たカメレオンに似ていた。
まあサイズは人間を丸呑みに出来る〖豪獣〗クラスだったが。
「(ならやっぱ透明化の〖スキル〗を使ってたのか?)」
カメレオンの特徴から連想してみた。オレが噛み千切ったのは舌のようだしそう考えていいはずだ。
これが風の弾丸とか空間を超える攻撃とかだと〖噛み千切り〗が無駄になってただろうしな。
「(けどネタが割れりゃあ怖くねぇ!)」
脚の付け根を刺されたまま必死に逃げようとするカメレオンに、オレは二本の鎖鎌を巻き付けた。
脚や胴、口を鎖で拘束する。
ギョリギョリと鉄の軋む音がするが、鉄鎖を引き千切るにはカメレオンでは膂力が足りねぇ。これで拘束完了だ。
それから真紅の槍で数度突いたり斬ったりすると、カメレオンは息絶えた。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>不破勝鋼矢(ジュエルアーマリースライム)が〖スキル:捕縛〗を獲得しました。
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「(ま、ざっとこんなもんだな)」
攻撃の威力からしてカメレオンは〖豪獣〗の中でもそれなりに強い方だったと思うが、今のオレの敵じゃねぇ。
〖レベル〗も上がらなかったし、コイツを含め大半の〖豪獣〗はオレより〖レベル〗が低いんだろう。
「(にしても、〖豪獣〗相手でも切れ味抜群だな)」
カメレオンを〖分解液〗で捕食しつつ、今回使った真紅の槍を見やる。
これはスライムの巣跡地に落ちていた武器で、何故か一つだけ妙に性能の良かった逸品だ。基礎性能じゃ土特攻の槍を凌駕している。
ちなみに銘は
土特攻の槍と同じく先端が刃になっていて刺突も斬り付けも出来る。
遺品なので
与える苦痛を増幅させ傷の治りを遅らせる、という悪趣味な特殊能力が付いているが、これが結構役に立つんだよなぁ。
多少の痛みじゃ動じない魔獣も、この槍が直撃すると結構激しく反応する。
遮二無二大暴れられるのは場合によっちゃデメリットかもしれねぇが、オレの〖タフネス〗ならそれはほぼほぼ無視できる。
今回カメレオンの透明化が解除できたのも、この苦痛増幅で集中力を乱せたから、ってのが大きいだろうし、不謹慎ながらもなかなか良い拾い物をしたと思っている。
どこの誰だか知らねぇが、元の持ち主には感謝を捧げねぇとな。
「(ごちそうさまでした)」
カメレオンを食べ終えたオレは、住処の花園へと帰るのだった。
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ここまでお読みくださりありがとうございます。
一話より続けて来た毎日更新ですが、そろそろストックが心許なくなって参りました。
これからは不定期での更新となります。
三日以上は開けないようにしますのでご了承ください。
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