第二章
第46話 八足歩行
草木の生い茂る森の中を、一体の奇怪なる生物が進行していた。
そいつは巨大な胴体と八本の脚を持っていて、カシャカシャと八本脚を動かす姿はさながら蜘蛛のよう。
「スラスラ」
そいつの正体は何を隠そうこのオレ、
今は最近思いついた移動法を試しているのである。
八本の
鎖鎌の先端には鎌が付いているが、持ち手の端には分銅が付いている。
その分銅の方を伸ばして脚の代わりにしているのだ。
「(よしよし、右向けー、右!)」
鎖鎌を巧みに動かし、体を右に向かせる。
八つもの武器を操るのは、八本の手足を操るのと同様に神経を使う。だが、そこは慣れだ。
八足歩行の訓練を続けたことで並列操作もかなり上達した。
移動するだけなら何の支障もねぇ。
「(赤い怪物を倒してから一週間、毎日練習した甲斐があったぜ)」
一週間。そう、一週間だ。
故郷の壊滅からそれぐらいの日数が経った。
壊滅直後は落ち込んだりもしたが、今ではもう吹っ切れている。
「(ふぅ、あったあった)」
それから少し歩きオレは目的地に着いた。
目的地って言うか、今の住処だ。
色とりどりの花々や果樹が密集した地帯。
前は一つ眼に二対の翼、三本の脚と四色の羽毛を持つ怪鳥が住んでいたけど、そいつを倒して今はオレが住んでいる。
「(そーれ、大きく育てよー)」
オレは植物達に近づくと、体の中に貯め込んでいた水を注いでいく。
さっきまではこの水を汲みに行っていたのだ。
「(んー、やっぱ鎖鎌使うと楽だなぁ)」
ジョウロのように穴を開けて水を注ぎつつ、オレはそんなことを思った。
スライムは変形するのに体力を使う。
だが、〖レプリカントフォーム〗ならその制限を無視できるのだ。
鎖の部分をどんだけ動かしても疲労はゼロ。だからこそ鎖鎌を足代わりにしていた。
体の中に空洞を作った状態だと、そちらの維持にも意識を割かなきゃなのでちょっと面倒だった、というのもある。
まあ、鎖鎌を足にするのは同じくらい面倒では? と聞かれるとその通りなのだが。
しかし、どうせなら少しでも訓練になる方を選びたかった。
「(よし、水やり終わり。次は養分補給だな、雷撃!)」
〖マナ〗を継続的に消費して、雷を放射し続ける。
雷は弧を描き地面に落下。そこから慎重に操作して落下位置を変えて行く。
やがていつもの範囲に雷撃を行き渡らせたところで放射を止めた。
「(うっし、終わりー)」
日課の養分補給が完了した。
これは【ユニークスキル】の性能調査。毎日同じ範囲に雷を落とし、そこと他の場所の成長度を比較しているのである。
~ユニークスキル詳細~~~~~~~~~~
【
・収穫量を最大にします。
・大地を強化する雷を扱えます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
これまでは〖経験値〗ブーストとしてしか使ってなかったが、実際にはこんな効果もあるのだ。
実際の効力がどれほどかは分からねぇが、この際だから探ってみようと思ったのである。
実験を始めてまだ一週間弱だが、効果は目に見えて表れていた。
オレが水やりをした果樹では枝一杯に実が生っており、オレが雷を落とした付近の草花は繁茂している。
前者は『収穫量最大化』の効果で、後者は『大地強化』の効果だろう。
いつかの予想通り、オレの雷は大地を肥沃にするらしかった。
「(強化なんて言い回しだからカッチンコッチンになったらどうしようかと思ってたぜ)」
などと思いつつ、この一週間での自身の成長を確かめる。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:ジュエルアーマリースライム
獣位:豪獣
スタッツ
ライフ :1253/649
マナ :682/640
パワー :354
タフネス:3807
レジスト:417
スピード:261
スキル
自己再生 方向感覚 カバー 登攀
ブロック 完璧の守勢 逃走本能
不退転 ウィップ コンパクトウィップ
連撃 愚行 意思理解
スラッシュ コンパクトスラッシュ ジェスチャー 意思伝達
ウェポンボディ 流転の武芸 身体修復 踊り
水泳 遁走 転瞬 クロスカウンター
挑戦 集中 空中跳躍
墜撃 貯蓄 輸送
武具格納 レプリカントフォーム 蠱惑の煌めき
スラスト 抗体 奇襲 夜目
コンパクトスラスト シュート 狙撃
分解液 チャージスラスト 猛進
チャージスラッシュ(NEW) コンパクトシュート(NEW) 隠密→隠形(NEW)
柔軟運動→軟体動物(NEW) 投擲→一擲 着地→受け流し(NEW) 噛みつき→噛み千切り(NEW)
ユニークスキル:
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖レベル〗の上昇は控えめだが、〖スキル〗は大量に増えている。
これはオレの過ごし方が一因だな。
ここのところのオレは〖レベル〗上げよりも〖スキル〗の鍛錬に重きを置いていた。
あと少しで上位化しそうな〖スキル〗や、使わず腐っている〖スキル〗とかもあったので、一旦腰を据えてそれらを使ってみることにしたのだ。
その結果がこれだ。
~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~
猛進 突進時、脚力に補正。突進時、突進の威力に補正。
チャージスラッシュ 高速で突進し、その速度を乗せて斬撃を放てる。
コンパクトシュート 素早い射撃を放てる。
隠形 自身の音や匂い、〖マナ〗の気配などを薄れさせられる。副次的に発生する音などを軽減できる。
軟体動物 常時、肉体の柔軟性に補正。常時、打撃系攻撃への耐性に補正。
一擲 投擲時、腕力に補正。体力を消費し、強力な投擲を行える。
受け流し 着地時、衝撃吸収力に補正。常時、衝撃を逃がす技術に補正。
噛み千切り 咬合時、歯牙の鋭利さに補正。咬合時、顎の力に補正。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
これがオレの一週間の成果だ。
上位化による純粋な効果量の向上、そして新効果の追加。
それにより、オレはまた一段と強くなれた。
けどまだ足りねぇ。
実を言うと赤い怪物を倒した後、オレは森亀に挑みに行った。
〖マナ〗の濃い方へ濃い方へと進んでいると、その終点で行き当たったのである。
しかし、一目見て挑戦は断念した。
あれには勝てないと、本能が全力で警鐘を鳴らしていたからだ。
以前より強くなったからこそ分かる、彼我の絶対的な戦力差。
森亀を取り巻く〖マナ〗の圧力が遠目にも激烈に伝わって来た。
「(今日も修行だ!)」
〖進化〗まではもう一息な感じなので〖レベル〗上げも行うが、並行して〖スキル〗も鍛える。
直に見て分かった。多分、オレは次の〖進化〗で森亀と同じ〖獣位〗になれる。
でもそれだけじゃ届かねぇ。年季が違うのだ。
同じ〖豪獣〗でも〖レベル60〗と〖レベル90〗じゃ全然違うように、きっと森亀は〖進化〗してから長い時間をかけて〖レベル〗を上げている。
そしていくらオレに【ユニークスキル】があると言っても、同格が少なくなると〖レベル〗上げの速度は落ちちまう。
だからこそ、〖レベル〗以外で優位を得る手段を増やさなきゃならねぇ。
「やっと見つけたよー」
そんな方針を再確認していたその時、どこか懐かしい声が聞こえて来た。
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