第43話 第一章エピローグ
「…………」
怪物を倒したオレは、辺りに飛び散った肉片の吸収を試みる。
「(……やっぱ、無理か)」
味がしない。〖マナ〗を取り込めていない。
スライムの吸収能力は同族の死体を受け付けないのだ。
……やはり、怪物の体はスライムのものだった訳である。
「(…………)」
それから、近くに散らばる根っこの方へ意識を向ける。
一本拾って食べてみるが、こちらからも〖マナ〗は得られない。
得られない、と言ってもスライムを食べた時とは違う。
どちらかというと根そのものに〖マナ〗が含まれていないような……砂を噛むって表現がピッタリの感覚だ。
「(ぺっ、不味いな)」
微妙に硬く溶かし辛いそれを吐き出し、辺りを見渡す。
アレがどこかにあるはずなのだ。
「(……見つけた)」
少しして探し出したのは一つの種子である。
最後の一撃が直撃していたら粉々になっていたかもしれないが、今回は微妙に外れていたらしい。
多くの根っこが乱暴に千切られているが、種子自体は無傷である。
「(これは枯れてる……のか?)」
種子は僅かに割れていて、そこから芽が出ているのだが、それは茶色くなっていた。
「(この
マジマジと見つめる。
子葉の数は七枚。左右に別れていて片方に三枚、もう片方に四枚の葉が集まり、半ば重なり合うようになっているという奇怪な造形をしていた。
「(……ま、今は良いか)」
種子を握り潰し、〖分解液〗で処分する。
戦闘中はかなり大きな音が響いていた。
それを聞きつけて冒険者や魔獣がやって来る可能性もあるし、面倒事になる前に早く逃げてしまおう。
「(……それに、やる事もあるしな)」
溶け残っていた怪物の肉片を掬い取り、オレは広場を後にした。
「(ふぅ、こんなところか)」
スライムの巣の跡地。そこから少し西にある一際大きな木の前で、オレは小さく呟いた。
目の前には樽一つ分ほどの穴。中にはいくつものジェルが入っている。
言うまでもなく、ジェルはスライムの死体だ。
「(ご冥福をお祈りする。まぁ、死んだスライムがどこに行くかは知らねぇけどよ)」
両手──体の一部を手のように変形させた──を合わせて拝んだ後、穴を埋める。
少しだけ土を盛り上げてお墓らしくした。
「(……じゃあな、皆)」
最後にそれだけ言ってお墓の前から去る。
向かうのは森の奥。強くなるという目標は今も変わっていない。
「(人間と出くわしても面倒だしな)」
〖マナ〗の薄い地域はそれだけ人間が多いのである。
……人間と言えば、スライムの巣で死んでいた人達の死体は、一ヶ所に集めて寝かせておいた。
さすがに勝手に埋葬しては遺族の方も困惑するだろう。
この国の宗教様式も知らないしな。
小太りの彼は逃がすことができたし、彼伝いで死体が回収されることに期待する。
ゴブリンなどに奪われないよう武器は回収し、近くの木を斬って並べて柵にしといたが、それでどのくらい魔獣の侵入を防げるかは分からない。
オレにできるのは彼らの死体が食い荒らされないよう祈るだけだ。
「(……ああそうだ、赤鬼にあったんだった)」
ふと思い出したのは奇怪な芽のこと。
かつて森亀と激闘を演じた赤鬼の、その額にもあの変な芽が付いていた。
あの時はそれどころじゃなく注視していなかったが、よくよく思い出せばあれも子葉が七枚だった気がする。
そうであるならば赤鬼も……。
「(何なんだよ、あの種は)」
苛立ちが募る。
未知の現象への恐怖よりも、怒りの方が強かった。
「(もしかして、他にもあんのか?)」
既に二つの例がある。ならば三つ四つとあっても不思議じゃない。
むしろ種子なら二つしかない方が不自然だろう。
「(じゃあ、どっかに大本があったりすんのか……?)」
木か、花か、それとも全く別の何かか。
取り付いた相手を異形へと変えるような、そんな種子を飛ばす存在が居るのなら放置はできない。
「(……まあでも、すぐにどうこう出来る訳じゃねぇが)」
その存在がこの森の中に居る可能性は低い。
そうであるならもっと種子を目にしているはずだからだ。
「(気長に探すしかねぇんだろうな)」
そう結論付けて
そもそも今の実力で勝てるかも分からないのだから、結局、目標はこれまでと変わらない。
「(強くなる、ただそれだけ。そのための動機が増えただけだ)」
あの日見た森亀のような力を得るため。そして仲間達の仇を取るため。
決意を新たに、オレは森の奥へ進んで行くのだった。
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ここまでお読みくださりありがとうございます。第一章はここで完結です。
面白かったと思われた方は★評価やフォロー等していただけると幸いです。
この後は閑話を二話挟み、それから第二章に移ります。
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