第40話 閑話 混沌ノ侵蝕(スラ太視点)
この日、俺はいつものように群れのスライムの一部を従え、森の奥地で狩りをしていた。
ラージブラッディスライムである俺は今日も多くの敵を倒し、強い魔獣の肉を部下達に運ばせる。
自分で食べたいが、グッと我慢。これも俺の群れが森を支配するためだ。
〖マナ〗の多い肉を与えれば群れ全体の強さも上がる。
そうしてより多くの魔獣の肉を集め、さらなる高みに
いつも通りの作業。
しかしながら狩りから帰った俺は、部下達と共に驚愕した。
「(な、何が起きている……!)」
「(タイヘン! タイヘン!)」
「(ムラ、モエテル!)」
「ဟိုင်ယာချာ、မီးလောင်ခြင်း!」
視界に入ったその襲撃者は、人間。
炎を使う者が広範囲を焼き、武器を手にした者が生き残りのスライムを殺している。
「(ぐゥゥッ、俺の居ない隙を狙うとは卑怯なッ。行くぞお前達! あの下等生物共にスライムの力を思い知らせてやれ!)」
「「「スラー!」」」
スライムの勇士達を率い、邪悪な人間共に突撃する。
一番近くの人間が俺達に気付き斧を向けて来た。
先頭の俺へと得物を振り上げ、しかしそれは途中で防御に回される。
「(クラエッ)」
物凄い速さで石が飛来し、斧の刃の部分に命中。あまりの威力に人間はよろめいた。
カタパルトスライムのスラ左衛門の攻撃だ。
最近〖進化〗したことで、その投石は威力が格段に向上している。
「(おらァっ!)」
よろめいた人間へと体当たり!
俺の体高は人間の腹の辺りまである。それだけ大きければ当然、体当たりの威力も高い。
勢いのままに地面に倒し、上半身を包み込み、〖溶解液〗でその体を溶かしていく。
「ဂါယာအာဟ်!!」
どうだ! これがスライムの力だ!
悲鳴を上げる男の元に他の人間達も集まって来る。
だが、部下達の投石に怯んだところに突進すれば簡単に倒せた。
少し頭を溶かされただけで蹲り、戦えなくなるのだから人間とは軟弱な生き物だ。
「〖မီးဘော〗!」
「(熱っ)」
人間を溶かしていると突然、火の玉が飛んで来て俺の体を焼いた。
熱で俺の体は壊死するが、溶けた部分はすぐに再生した。ラージブラッディスライムの種族〖スキル〗だ。
〖溶解液〗で溶かして吸収する際、一緒に〖ライフ〗も奪えてしまえる。
「(よくもやってくれたな! あいつから殺すぞ!)」
「「「スラぁッ」」」
ローブを羽織った人間に狙いを定めて
迎撃に放たれた炎の塊をスラ左衛門の投石が撃ち抜く。
目を見開き固まる人間。
その隙に距離を詰め──、
「အိုး ဘုရားသခင်」
「(ぐあっ)」
強烈な衝撃に弾き飛ばされた。
一撃で半分以上の〖ライフ〗が消し飛ぶ。
「(くそ、さっきのは……)」
やけに鮮烈な痛みを堪えつつ、攻撃者に意識を向ける。
そいつは他の奴より体格のいい人間だった。
片手に槍を握っているので、それで俺を攻撃したのだろう。
「(う、動きが見えなかった……なんて〖スタッツ〗だ……!)」
俺が戦慄している内にその人間は石を投げているスラ左衛門達の方を向き、嗜虐的な笑みを浮かべるとそちらへ駆けて行った。
風のような速さだ。
「(ま、待て……ぎゃあっ)」
「ခင်ဗျား အလုပ်ကောင်!」
槍使いを追おうとしたところ、近くにいた他の人間に攻撃される。
万全の状態ならともかく、先程の一撃で身体の四分の一が壊死しているため、まともに回避できなかった。
「(
反撃に出ようと飛び掛かるも、横合いから槌で殴り飛ばされる。
かなりの勢いで吹き飛ばされ、森の木々に体を打ち付けられてようやく停止した。
「(ぜぇ、はぁ。ぐっ……クソォ……っ!)」
一度距離を取ったことで村全体の様子が見渡せるようになる。
村は、既に全滅に近い状態だった。
生き残りはほとんどおらず、木の実や肉の貯蓄も火の海に包まれている。
「(スラ左衛門っ)」
「す……ら……」
俺が連れて来た部下達も、今、この瞬間に全滅した。
〖長獣〗のスラ左衛門を容易く仕留めた槍使いは、醜い笑顔を浮かべて振り返る。
「အမြဲသတ်သလား။」
俺が逃げてもすぐ追いつけると見下しているのか、槍使いは歩いて近付いて来る。
「(俺は……俺は何も間違えてないはずなのに……どうして、こんな事に……っ)」
心の中は絶望感と恨み言で埋め尽くされていた。
最早逃げる気力も湧かない。
俺が何をしたというのか。ずっと村のために頑張って来たではないか。
魔獣や人間を積極的に襲い〖
多少は犠牲となった者も居るが、それ以上に村へは大きく貢献できたはずだ!
そうして発展させた村を、こんなに呆気なく滅ぼされるなんて理不尽だろう!?
「(力が……俺にもっと力があれば……!)」
そんなことを思ったその時。
ピトリと何か、綿毛のような物が俺に触れた。
「(何だ?)」
『────』
「(!? ぐ、あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっ)」
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>名無し(混沌の種子)がスラ太(ラージブラッディスライム)に接触しました。
>>〖スキル:心身の混迷〗を発動しました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
体がっ、熱いっ。
体に付いた綿毛の、その中の種子から途轍もない量のエネルギーが流入していた。
人間の攻撃で削られていた肉体がボコボコと膨らむ。
許容限界を遥かに超える量のエネルギーが俺の肉体を膨張させているのだ。
膨張は俺の体が元のサイズに戻っても止まらない。
まるで〖進化〗の時のようだが、それとは決定的に違う点がある。
それは異物感。かつて〖進化〗した時は、その時に感じたエネルギーからは、こんな怖気の走る感触はしなかった。
「(ぐ、あ゛ぁぁぁ……!)」
与えられている。それと同時に奪われてもいた。
スライムの肉体は内部が透けて見えるから分かる。綿毛の種子から根が伸びているのが。
「(や、めろ……っ)」
体内に張り巡らされた根から何カ、俺の大切ナモノが吸イ上ゲラレテいタ。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
>>スラ太(ラージブラッディスライム)が〖心身の混迷〗への抵抗に失敗しました。
>>〖外法進化〗が強制適用されます。
>>不正な操作を検知しました。介入を実行します。
〔
>>スラ太(ラージブラッディスライム)の種族が侵されしラージブラッディスライムに変化しました。
>>〖外法進化〗に伴い〖スタッツ〗が変化しました。
>>〖スキル〗が追加されました。
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「(はあっ、はあっ、はあっ)」
膨張ハ落チ着イタケド、息ガ苦シイ。
デモ不思議ト意識ハはっきりシテイタ。
今ハ自分ノスベキ事ガ良ク分カル。
「အဲဒါっ、အဲဒါဘာလဲっ?」
槍使イノ男ヲ始メ、人間達ハ困惑シテイタ。
関係ノ無イコトダ。
コレカラ呑マレル餌ガ、何ヲ思オウト意味ハ無イ。
「ပထမဦးဆုံး!」
槍使イハ俺ニ駆ケ寄ッテ来タ。
俺モ奴ニ突進スル。
「〖ရပ်နားပါ〗!」
「す、ら」
体ノ一部ヲ槍使イニ伸バスモ、奴ノ強力ナ一撃ヲ受ケ、ソノ大部分ハ消シ飛ンダ。
ガ、体内ニ張リ巡ラサレタ根ハ別ダ。
剝キ出シトナッタ根ガ槍使イニ絡ミツキ動キヲ封ジル。
ソコヘ体当タリ。
スカサズ槍使イヲ体内ニ取リ込ンダ。
「す、ら」
膨張ノ結果、俺ノ体ハ槍使イヲ丸々呑ミ込メルさいずニナッテイタ。
苦シソウニ藻掻ク槍使イノ全身ヲ、〖溶解液〗デ溶カシテヤル。
〖タフネス〗ガ高ク中々殺セナイガ、逃ゲ出セナイノダカラ急グ必要モ無イ。ジックリト食ベヨウ。
「す、ら」
溶ケユク槍使イノ肉体ニ何本モノ根ガ突キ刺サリ、何カヲ吸収シテイク。
ソウシテ得タ〖ライフ〗ヤ〖マナ〗ハ俺ニモ還元サレテイタ。
「(完全ニ回復シタカ)」
槍使イガ息絶エルト同時、槍使イカラ受ケタ傷モ癒エ切ッタ。
他ノ人間達ハアマリノ恐怖デ竦ミ、動ケナクナッテイル。新シク得タ〖スキル:カオスコーション〗ノ効果ダロウ。
良カッタ良カッタ。食事ヲ邪魔サレルノモ、食料ニ逃ゲラレルノモ嫌ダカラナ。
『全テヲ喰ライ尽クス』トイウ俺ノ夢ノ為ニモ、残ッテ居テクレテ助カッタ。
「(……ソうダッたか?)」
何カ、大切ナことヲ忘レテいル気がしタ。自分の目指シていタ目標ガ、他ノものトすリ替エらレてしマっタヨうナ……。
少シ考エ、思イ出ス。ソウダソウダ忘レチャ駄目ダ。
俺ハコノ森ノ頂点ニ立チ、全テノ生命ヲ吞ミ込ミタカッタ。己ガ餌食トシタカッタ。
ソレコソガ、俺ノ昔カラノ夢。
「す、ら」
手始メニ、近クノ人間トすらいむヲ吞ミ込ンデシマオウ。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>スラ太(侵されしラージブラッディスライム)の〖
>>〖外法進化〗が可能になりました。
>>〖外法進化〗を開始しました。
>>種族が侵されしファッティブラッディスライムに変化しました。
>>〖外法進化〗に伴い〖スタッツ〗が変化しました。
>>〖スキル〗が追加されました。
>>精神侵蝕度が閾値を超過しました。名無し(混沌の種子)の〖スキル:混然一体〗が発動します。
>>名無し(混沌の種子)とスラ太(侵されしラージブラッディスライム)の〖ライフ〗が同期しました。
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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