第36話 屠土竜矛

「(よし、解析完了だ)」


 ジャスカルの使っていた槍を持ち上げ眺める。

 オレが普段変形している棘型ではなく、穂が刃になっていて突いたり払ったりできるタイプの槍だ。


 ずっしりとした重みは、これを軽々振り回していた元・使い手がいかに剛力だったかを教えてくれる。

 日光を照り返す琥珀色の穂先はオレが見てきた中で最も鋭利に見えた。

 そしてこの槍の有する能力は──。


「(──土への特攻か)」


 土やそれに属するものを攻撃した時、与える損傷が大きくなるって効果だった。

 この槍はとある〖豪獣〗の爪を素材にしているが、その魔獣が元々持っていた力の一端らしい。


「(つっても土を攻撃することなんてあんのか? ……いや、それだけじゃねぇみてぇだな)」


 〖レプリカントフォーム〗で読み取った情報を精査すると、その能力の詳細が分かった。

 どうもこの槍、土に属するなら魔獣でも何でも効果を発揮するらしい。


「(土に属するってのも範囲が広いよなぁ)」


 〖武具格納〗から鉄の棍棒を取り出し上に放る。

 それが落ちて来たところへ槍を一閃。棍棒は中間あたりでばっきり折れてしまっていた。


「(やっ、ヤベェな……)」


 あまりの効力に驚嘆する。

 いくらオレの〖パワー〗でもこんな芸当は出来ねぇ。土特攻が働いた結果だ。

 鉄も地中に埋まっているから土に属する判定らしい。


「(対象は広いし効果は高いしとんでもねぇ武器だな、これ。てかオレを狩るのに持って来たってことはもしかして……)」


 今度はその槍を鞭の先端にそっと当ててみる。

 そっと当てたとは思えない程の衝撃が響いた。


「(宝石ジュエルは地中にあるからか……? ほんと恐ろしい武器だぜ)」


 これを使った攻撃ならワンチャンダメージが通ってたかもしれねぇ。

 あのジャスカルと思しき男は考え無しに見えたけど、やっぱ上級冒険者なだけあって色々と対策を練ってたんだなぁ。


 だが敵が使うと怖い武器も、自分の手で振るうなら頼もしい相棒だ。


「(取りあえずレプリカで特攻が通じる範囲を調べねぇとな)」


 オレはほくほく顔で槍を格納し、そしてトレントの最後の一欠片を溶かし終えた。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>不破勝鋼矢(ジュエルアーマリースライム)が〖スキル:分解液〗を獲得しました。〖溶解液〗が統合されます。

・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「(ふぅ、ようやく完食だ)」


 昨日からずっと食べ続けていたが、それももう終わりだ。

 〖マナ〗が多くても木は木。あんまり美味くなかったので開放感がある。


 なお、枝の一部は〖武具格納〗に仕舞ってある。棍棒判定だから枝も仕舞えるのだ。

 食料が見つからなかった日にでも食べようと思う。


「(よっし、ちょうどいいし引っ越しだ!)」


 ぴょんと〖跳躍〗して一気に坂の下まで降り、森の中へと向かって行く。少女が教えてくれた南の方角だ。

 今回、ジャスカル達を退けたことで他の冒険者達にも居場所が割れちまっただろうし、住処の移転は急務である。


「(〖レプリカントフォーム・模倣〗)」


 暇なので歩きながら体を変形させる。

 模倣するのは矢だ。オレが持っている中でも最も良質な物を選んだ。


 夏空を切り取ったような立方体の中心に、鈍色の矢が一つ浮かぶ。


「(〖武具格納〗)」


 チクリとした痛みと共に矢が消えた。

 〖武具格納〗が仕舞えるのは武器であり、そして〖レプリカントフォーム〗による模倣物も武器という扱いになる。

 それ故に、その気になれば模倣武器を格納することも出来るのだ。


「(よしよし、〖ライフ〗はまだまだ余ってるな。今の内にもう十本くらいは作っとくか)」


 〖ライフ〗に気を配りながら模倣作業を進めて行く。

 武器を切り離すと体積分の〖ライフ〗が減るものの、〖貯蓄〗があるから少しなら問題はねぇ。


 プチリと体が千切れた次の瞬間には、余剰分の〖ライフ〗によって肉体が再生されている。

 〖自己再生〗の回復量を無駄にしねぇためにも、こういう作業はこまめにやらねぇとな。


「(にしても、〖武具格納〗の容量が個数指定じゃなくて助かったぜ)」


 この〖スキル〗の容量は容積、つまり内容物の体積の総和で判定される。

 昔のゲームみたく『同じアイテムは九十九個までしか持てません』てな事にはならねぇ。


「ピュゥゥーーヒョロロロ!」

「(おっ、鳥の魔獣か)」


 そんな風に歩いているとオレの真上を鳥魔獣が飛んで行った。

 大きさ的には〖長獣〗だろう。


「(今日の晩御飯はあいつにするか)」


 なんてことを考えながら弓を模倣し、作ったばかりの矢を取り出す。

 そして慣れた手つき──使っているのは鞭だが──で矢を番えた。


「(オレがただ食っちゃ寝してたと思ったら大間違いだぜ)」


 トレントを食べる傍ら、腹ごなしも兼ねてオレはいくつか修行をしていた。

 そうして得たのがこの〖スキル〗達だ。



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 スキル

コンパクトスラスト シュート 狙撃

分解液(NEW)

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 〖スラスト〗のコンパクトバージョンに、弓の〖ウェポンスキル〗に、遠距離攻撃を補助してくれる〖スキル〗だ。

 何か一つ知らねぇ〖スキル〗が混ざってるが……まあいい。

 早速仕留めてしまうとしよう。


「(〖シュート〗!)」


 引き絞られた矢が、凄まじい勢いで飛んで行く。

 弓の能力で空気抵抗を無視し、吸い込まれるようにして鳥を射貫いた。


「(うお、マジか)」


 自分でやっといてなんだが、一発で当たるとは思わなかった。

 〖狙撃〗の補助があるとは言え、今日のオレはツイている。


「(お、居た居た)」


 鳥の落下地点に行くと体から血を流す大きな鳥が居た。

 ただし、刺さっていたはずの矢は消えている。代わりにドロリとした水色の液体が垂れていた。


 模倣武器は限界以上の衝撃を受けると溶けてしまう。

 普通に刺さっただけならともかく、高所からの落下には耐えられなかったらしい。


「(土特攻は効かねぇみてぇだな。鳥だから当然か)」


 つんつん、と模倣槍で突いてみて確認する。


「(ま、何はともあれ夕飯ゲットだぜ)」


 ペロリと鳥を平らげたオレは、さらに南下して行くのだった。

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