第31話 洞窟
「(ここがホブゴブリンの根城か)」
尾行を始めてからしばらくして。
ホブゴブリンはとある洞窟に辿り着いた。
洞窟は高い崖の下にあり、入口の脇には二体の鉄武装ホブゴブリンが立っている。
見張りのような役割か?
一匹で帰って来たホブゴブリンを見て警戒する見張り達。
しかし、事情を聞くとすんなり中へ通した。
「(見張りまで立ててんのか……)」
正面から乗り込むつもりだったんだが……見張られてるとなると心情的に突っ込み辛い。
オレの図体と能力じゃスニーキングには限度があるが、取りあえずやれるとこまでやってみるか。
「(作戦開始だ)」
てことで一旦距離を取る。
そして平べったくなって横の方へ移動を開始。
コソコソコソ。
〖隠密〗も使っているのでそう簡単にはバレねぇ。
そうして見張りから充分に離れたところで崖に近づく。
手近な
「(よし、固さはバッチシだな。多分)」
確認を終え、オレは崖に取り付いた。
単位面積当たりの重さが軽くなるよう、出来るだけ体を薄くしてだ。
「(頑張ってくれよ〖登攀〗!)」
付き合いの長い〖スキル〗に願いを託しながら慎重に登って行く。
崖の突起を掴み、掴めるところが無ければ体の一部を槍の穂先みたく尖らせて突き刺した。
「(ふぅっ、ふぅっ、登り切った……ぜ)」
崖の上の空き地に着き、大の字になる気分でベタッと地面に広がる。
普通に苦しかったのですぐに立方体に戻る。
この形態が最も落ち着くし休まるのだ。
「(そろそろ仕掛けっか)」
充分に休んだところで、鞭を垂らして崖下の様子を確認する。
それから見張り達の上まで行き、近場の岩に鞭を巻き付け命綱とし、ゆっくりと降下して行った。
〖隠密〗で〖豪獣〗の〖マナ〗を隠し切れるかは賭けだ。
気付かれたら即応する心構えでいたが、特にアクシデントなく頭上に接近。距離は三メートル程だ。
オレは命綱を外し、飛び降りる。
即座に体を横に広げ、二匹の見張りを巻き込めるようにした。
ゴボチャッ。
生々しい水音が響き、オレの下で赤い染みが広がる。
〖墜撃〗の落下加速も使ってみたのだが、かなりの威力である。衝撃を殺すよう意識して着地しなければ、かなりデカい音がしてたかもしんねぇ。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>不破勝鋼矢(ジュエルアーマリースライム)が〖スキル:奇襲〗を獲得しました。
>>〖スキル:着地〗を獲得しました。
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
見張りのホブゴブリン達を吸収し、装備を〖武具格納〗に仕舞い、洞窟に向き直る。
下り坂を少し進めばもう真っ暗で、奈落に続いてるんじゃねぇかと錯覚しそうになる。そんくらい深そうな洞窟だ。
横幅はオレが二体は並んで歩けない程。体が引っかかることはなさそうだが、そこそこ窮屈だ。
まあ、変形すればどうとでもなるんだけどな。
「(にしても、ホブゴブリン達は不便じゃねぇのか、これ?)」
一寸先も見えぬ闇を見てそう思う。
もしかすっとゴブリン系の魔獣は暗いとこでも視界が利いたり、利くようになる〖スキル〗を持ってたりすんのかもな。
ただ、そんな能力はオレには無いので対策を講じる。
〖スキル〗を覚えられるか試すのはまたの機会でいいだろう。
「(発動、雷撃・弱)」
【ユニークスキル】を低威力で発動する。
オレの体から天井へ細い雷が伸びて行き、雷光で洞窟の中が若干見えやすくなった。
「(行くぜ!)」
そのままそそくさと洞窟に侵入。早足で奥へと向かう。
出力を下げて消費を抑えているとは言え、〖マナ〗を消費していることに違いはねぇ。
〖進化〗を繰り返し、〖貯蓄〗を覚えたことで〖マナ 825/500〗になっているが、貯蓄量は漸減しているので早めにカタを付けたい。
少し進むと道の脇に小部屋のようなスペースがあった。
覗いて見ればそこでは数匹のホブゴブリンが
「(〖スラスト〗!)」
「グギャァぁっ!」
雷光に気付いた彼らが警戒を始めるより早く、左端の個体を槍で突いた。
覚えたての〖スラスト〗だが、閉所ではこれが一番使いやすい。
一匹目の断末魔の声を聞きながら槍を鞭剣に変え、横薙ぎ。
「(〖スラッシュ〗!)」
「「「ギギャギャっ!?」」」
半数近くのホブゴブリンの胴が斬り裂かれ、残りは壁に押し付けられた。
位置によっては致命傷とまでは行かなかったが、大体が重傷を負っている。
それからそう間を置かず、小部屋のホブゴブリンは全滅した。
「(にしてもここは……戦利品の仮置き場、みてぇなもんか?)」
部屋を見渡してみれば、魔獣の一部や武器らしき物が無造作に置かれている。
ホブゴブリンの一部は肉を摘まみ食いしたりもしていたし、そう的外れな予想でもないだろう。
人間の生首を極力意識しないようにしつつ、置かれた武器を片っ端から格納して部屋を出た。
「(お出ましか)」
小部屋で殺したホブゴブリンの叫びを聞いたのだろう。
ちょうど奥から増援が現れたところだった。
そいつらは二匹や三匹で終わる事はなく、闇の中からひっきりなしに湧いて出る。
「スラァ!」
迫り来る彼らにそう叫び、オレは〖投擲〗を発動。
〖武具格納〗から取り出した武器を勢いよく投げつけ、一度に二匹を串刺しにする。
「(出すのにもほとんど時間が掛からねぇのはいいな)」
残る武器も次々と投げて行き、ホブゴブリンを押し返そうとした。
とはいえ、それだけで殲滅できる数ではないが。
「(残りの二つは温存として、残りのホブはどうするか……)」
と、そこで名案を閃く。
これなら効率よく移動と殲滅を両立できるぜ。
実行に移すべくオレはまず体を丸めた。球状になったのだ。
「〖突進〗!」
そして力強く飛び出す!
オレの丸い体は坂を勢いよく転がり、道中の敵を轢き殺していく。
「「「グギャァァっ!?」」」
「(ぎえええぇぇっ!?)」
ついでに、闇の中でグルグルと高速回転する感覚はオレの目を回させた。
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