第32話 洞窟での戦い

 ゴンッ。


「(うえぇぇ……気持ちワリぃ……)」


 洞窟でひたすら坂を転がり落ちたオレは、しばらくの回転の末に壁にぶつかって止まった。

 球形から立方体に戻る。スライムに三半規管はねぇはずだが少しフラフラすんな……。


「(ら、雷撃・弱)」


 気を取り直し、転がっている間は切っていた【ユニークスキル】を再発動。頭上から天井へ雷が昇る。

 これで周囲の様子が把握できるぜ。


「(ここは……広間、か?)」


 ぶつかった坂のすぐ横に入口があった。そしてどうやらその先は広い空間になってるみてぇだった。

 中に入りつつ、雷撃の出力を上げて広間中を照らそうとする。


「「「ゴブゥ!?」」」

「(めっちゃいんじゃん)」


 目を覆うように腕を掲げたホブゴブリン達が雷光で浮かび上がる。

 その数はパッと見、三十体ほど。中には一段と強い〖マナ〗を発する、〖豪獣〗相当と思しき者が二体いた。


「(ここがボス部屋って訳か)」


 ざっと見渡してみたが洞窟はこの広間で行き止まりっぽいからな。

 一応、本当のリーダーは外出中って可能性もあるが。


「ゲギョ、ギグゲェ!(行ケ、オ前達!)」

「「「グギャギャ!」」」


 〖豪獣〗の片割れの指示でホブゴブリン達が一斉に突っ込んで来る。


「(うーん、もうちょい弱くか……?)」


 オレは彼らに歩み寄りながら、雷撃の威力を調整する。

 雷光の強さを視界確保に必要な最低限に絞った。


「(よし、これで完璧だ)」


 調整を終えたその時、先頭のホブゴブリンが槍で突き出して来る。

 オレが何もせずにそれを受けると、鉄槍は体の表面で弾かれた。


「(〖コンパクトスラッシュ〗)」


 お返しに首を刎ねる。

 兜を被ってはいたが、この距離なら肩と兜の隙間を狙うのは簡単だ。

 多分、人間の兜よりもサイズが合ってねぇから、ってのもあったんだろうが。


「「「ギャギャギィァッ!」」


 一番槍の悲惨な末路にも怯まず突っ込んでくる後続のホブゴブリン達。

 中には鎧で武装を固めた者も数体混じっていたが、関係ねぇ。〖ウェポンスキル〗を連打してその命を奪っていく。


 鞭剣や鞭槍が舞い踊り、血飛沫が吹き荒れた。

 〖流転の武芸〗のおかげでオレは切れ間なく〖ウェポンスキル〗を連発できるのだ。

 そうして地獄絵図が形成されてから少しして、〖豪獣〗タッグも動き始めた。


「ギャクグァーグッ、ギョゥグ!(役立タズ共メッ、〖剛武〗!)」


 先に動いたのは体格の良いゴブリン。

 身の丈三メートルはあろうかという埒外の巨漢は、駆け出すと同時、全身の筋肉がパンプアップした。

 押し上げられた鎧が悲鳴を上げる。


「ゴグギュィィ!(〖鬼瓦割り〗ィ!)」


 結構な間合いをたった二歩で詰めたムキムキゴブリンは、丸太のような腕でチョップを放って来た。

 〖転瞬〗発動中でも霞んで見える高速の一撃を、オレは無防備に受ける。


「ギュギィ!?(痛ェ!?)」


 爆発にも似た轟音が響き渡り、ムキムキゴブリンの手甲が弾け飛び、彼は手を抑えて数歩下がる。

 攻撃の威力に耐え切れなかったんだ。


「(やっぱ普通の攻撃なら〖豪獣〗相手でも防御は必要ねぇな)」


 〖意思理解〗を介し、何らかの〖スキル〗を使ってたのは分かってる。

 けど、オレの〖タフネス〗は同格が力技で破るのはほぼ不可能らしい。


「(それで終わりか? 〖挑戦〗)」

「ゴグゥッ(舐メルナッ)」


 ムキムキゴブリンは手が駄目なら足だとばかりに回し蹴りを放って来た。


「(〖転瞬〗、〖スラッシュ〗)」

「ギャギャぁぁぁぁっ!?」


 相手の攻撃より一足早く動き出していたオレは、高速で迫っていた脚を斬り付ける。

 〖挑戦〗で攻撃のタイミングを誘導したのだ。これなら速度で劣っていても攻撃を当てやすい。


「スラ」

「ゲギャ!? ゲゴ、ゴギョギャァギョ……」


 足の痛みでバランスを崩したムキムキゴブリンを、オレは素早く全身で包み込む。

 暴れる彼を〖タフネス〗で抑え込み、鎧の隙間から侵入して〖溶解液〗。それと同時に〖噛みつき〗を使って捕食した。


「ギィゲグギャ!(時間稼ギゴ苦労!)」


 これまで不自然に沈黙を保っていたもう一体の〖豪獣〗ゴブリンが攻撃を始める。

 そいつも背は三メートル程なのに、ムキムキゴブリンとは対照的な印象を受けた。


 と言うのも、奴は手足が細く腰が曲がっているのだ。

 どこか老人のような印象を感じさせる細身ゴブリンは、両手を地面に付けると膨大な〖マナ〗を発散させた。


「ググゲ、グゴゴゥギャ!(〖鋼鉄洗錬〗、〖光沢の波濤〗!)」


 細身ゴブリンの前方、広間全体の床が波打った。

 波は床の材質を鋼鉄へと変え、それらがフロア中を攻撃する。


 鋼鉄は刃や穂先など様々な形状となり、広間全域を斬り、刺し、裂き、貫いた。

 その攻撃範囲は僅かに生き残っていたホブゴブリン達を巻き込むほどである。酷すぎる……なんて言えた立場じゃあないけども。


「(ま、これなら〖空中跳躍〗でもどうにかなりそうだな)」


 邪魔な武器達の間をすり抜けるようにして進みながらそんな風に思う。

 この空間は広間だけあって天井も高いので、宙に逃げればこの攻撃は躱せた。〖空中跳躍〗は有事に備えて温存してぇから躱さなかったけどな。


「グっ、グギャぁぁぁ(ひっ、ひぃぃぃ)」


 自身の〖スキル〗が通じていないことに恐れをなしたのか、細身ゴブリンは広間の隅で震えて縮こまっている。

 壁際にいるため逃げることも出来ないのを見て、少し可哀想だなと思ったその時、


「(っ!)」


 〖転瞬〗を発動して瞬時に前進。


 ──ゴギンッ!


 背後で床に武器の刺さる音がした。

 オレの斜め後ろの天井から、鋼鉄の武器が射出されたのである。


 オレがこの攻撃に気付けたのは偶然だ。

 鉄が雷光を反射して、それで気付けたのだ。


 完璧な〖マナ〗の隠蔽とオレの油断が相まって、運に助けられなきゃ確実に一発入れられていた。

 つってもこの程度の攻撃じゃ傷は負わなかっただろうが……そういう気持ちでいると強敵との戦いでヘマをするかもしれねぇ。

 ここからは気を引き締めて行こう。


「(雷撃・出力最大)」

「ぎぎゃぎゃぎゃっ!?」


 鋼鉄を纏おうとしていた細身ゴブリンに雷を浴びせる。

 〖スキル〗の金属が特殊なのか、はたまた【ユニークスキル】の雷が特殊なのか。

 雷撃は周囲の鉄には見向きもせず、真っ直ぐに細身ゴブリンを貫いていた。


「(〖突進〗!)」


 すかさず突撃し体内に取り込む。

 そしてムキムキゴブリンにしたような手順で消化し、ゴブリンの群れでの戦いは終結したのであった。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>不破勝鋼矢(ジュエルアーマリースライム)の〖魂積値レベル〗が73に上昇しました。

・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



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 本日は夕方にもう一話、〖スキル〗一覧を投稿します。


 また、試験的にタイトルを変更する予定です。変更後は『メタルなスライム、逆襲す。』になります。

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