第24話 再会
ウェアウルフ達を倒したあの日から数日が経った。
「ベビュゥッ」
「スラッスラ」
今日も今日とてオレは魔獣と戦い、〖レベル〗上げに励んでいる。
虎魔獣の牙を〖転瞬〗で躱し、すれ違いざまに〖クロスカウンター〗で強烈な斬撃を叩き込んだ。
肩口から大きく切り裂かれ慌てて飛び退く虎。
予想通りの動きに対し、オレは〖スラッシュ〗で追撃。既に十回ほど軽い攻撃を当てていたのもあり、〖連撃〗も発動。
虎の頭をかち割ることに成功した。
「(おっ、〖レベル〗が上がったか)」
確認してみれば〖レベル47〗になっていた。
〖進化〗まであと少しな手応えを感じる。
「(新しい〖スキル〗にも慣れて来たなぁ)」
〖レベル〗上昇が控えめなのは、要求〖経験値〗が増えて来たのもあるが、一戦一戦に時間をかけていたってのが要因としては一番大きい。
〖スキル〗を鍛えることに主眼を置いていたからな。
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スキル
転瞬 クロスカウンター 挑発→挑戦(NEW)
専念→集中(NEW) 跳躍→空中跳躍(NEW)
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〖転瞬〗は〖回避〗の上位〖スキル〗で、〖クロスカウンター〗は相手の勢いを利用して攻撃した時、威力を底上げする〖スキル〗。
どっちもウェアウルフ戦で開花した。
シンプルで使いやすい〖転瞬〗はともかく、〖クロスカウンター〗の方は扱うのに難儀した。した、っていうかしている。現在進行形だ。
〖雑獣〗相手ならゴリ押しも出来るが、〖長獣〗以上となると相手の動きをよく見極め、先読みする必要がある。
その他既存の〖スキル〗もいくつか上位化した。
上位化すると効果が増えるらしく、〖転瞬〗は動体視力の常時向上、〖集中〗は精神系状態異常への耐性といった新能力が発現した。
〖空中跳躍〗なんて空中でジャンプが出来るんだから驚きだ。
現在は一分の間に四回までしか空中ジャンプは出来ねぇが、熟練して行けば使える回数も増えるはずだ。
「(ごちそうさまでした)」
虎を平らげ森を再び進んで行く。
少し進み、〖登攀〗で木に登った。〖隠密〗を使うのも忘れない。
「(…………)」
樹上で息を潜める。
体の一部を伸ばし、木の向こうの様子を窺う。
「「「…………」」」
三人組の人間が森の中を歩いていた。
オレはジッと彼らが過ぎ去るのを待つ。
爺さんに会う前から、人間自体は時折見かけていた。
だが、最近はこの辺に現れる人間が増えたように感じる。
爺さんから
「(……よし、行ったな)」
スルスルと木から降りる。ちなみに降りる時にも〖登攀〗は発動するらしい。
「(うーん、全然減らねぇな、あいつら。いっそどっか他んとこに引っ越すかぁ?)」
さっき来た冒険者とは別の方向に歩きながら、そんなことを考える。
二、三週間もすりゃあ人間もいなくなるのかもしれねぇが、今のところその兆候はねぇ。
あと一回〖進化〗したらもっと〖マナ〗の濃い地域に突入するつもりだったんだが、その前に狩場を移してもいいかもな。
森は広い。この辺りに人間が集まってる分、他のとこは人数が減ってるだろ。
「(よし、そうと決まれば早速移動だ)」
〖方向感覚〗のおかげで人間の町がどっちにあるかは分かってる。
そちらには近づかず、しかし〖マナ〗が薄くならねぇ方向へと移動して行こう。
スススススッ。
スススススッ。
木から木へ。草むらから草むらへ。
視線を遮るようにして動く。
ただでさえ森の中では目立つ体色をしているのだ。
体を平べったくするだけでは足りない。出来る限り注意しなくては。
「(ふう、結構進んだな)」
変形したままずっと移動し、疲れて来たので一息入れる。
ちょうど体が収まるサイズの窪みがあったので、その中に隠れた。
そこで少しゆっくりしていると、唐突に声がかけられる。
「……もしかしてあの時のスライムさん?」
「スラッ!?」
警戒は怠ってなかった。
窪みの縁から体の一部を出し、周囲を確認していた。
にも関わらず突然聞こえた声に、オレは思わず跳び上がる。
窪みを出て辺りを見回すがしかし、声の主は見つからない。
「やっぱりそうなんだ。こっちだよ」
言いながら、木の後ろから出て来たのは一人の少女。水色の毛髪で、木製の籠を持ち、革鎧を纏っている。
かつてザリガニに殴られた時、薬草をくれたあの子だ。
『おぉ、あんただったか。久しぶりだな、あん時は嬉しかったぜ』
「……えっ?」
今度は少女が驚いた。突然頭の中に声が響いて動揺しているらしかった。
以前会った時は〖意思伝達〗が使えなかったから無理もねぇな。
オレは混乱する彼女に〖スキル〗で意思を伝えているのだと説明した。
すると得心が行ったように、
「……やっぱり、あの時のは聞き間違いじゃなかったんだ……」
と頷いていた。
「そう言えば、他の魔獣さんもそんな風にお話しできるの?」
『どうだろうな。少なくともオレはオレみてぇに話せる魔獣とは会った事ねぇなぁ。あ、でもスライムは別だ。〖意思伝達〗抜きでも話せるぜ』
「へぇー、スライムさん達ってお話しするんだ」
『まあ大体の個体は大雑把な意思疎通しかできねぇし、人間の言う“お話し”とはちょっと違うけどな』
一応、希少種のスラ太とはある程度“お話し”もできたが、そもそもアイツは脳筋過ぎて会話が成立しなかった。
「人間のことに詳しいんだね。昔、人と暮らしてたの?」
『そんなとこだ』
いい子っぽいし友好的に接されてるしでついつい口が軽くなっちゃいるが、前世のことまで喋る気はない。
この世界に他の転生者が居るのかは分からねぇが、もし悪印象を持たれてたら狙われる理由が増えるかもしれねぇ。
経験値モンスターだから、だけで狙われる理由は一杯一杯なのだ。
『そういやあんたはオレを倒さなくていいのか? 他の人間には狙われてんだが』
「え? いやいやっ、そんなことしないよ! アタシの力じゃ魔獣は倒せないし……それにスライムさんはアタシを襲わないんだから悪い魔獣じゃないでしょ?」
『それはそうだが……でも、この前会った時はどうして助けてくれたんだ? 良いか悪いかなんて分かんなかったろ?』
「それは……何て言うか、
『んな理由だったのか。オレ以外の魔獣なら薬草を食べた直後に襲い掛かっててもおかしくなかったぞ。次からは魔獣を助けようなんて絶対するなよ……って前も言ったか、これ』
「ふふっ、そうだね。言ったというか伝わって来た? って感じだったけど。肝に
そんな風に話していると突如、少女は明後日の方角に振り向いた。
前もこんな反応をしていた気がする。
『どうしたんだ?』
「誰かが襲われてる……。ごめんね、スライムさん。アタシ行かなきゃ。他の人に狩られないよう気を付けて暮らしてね」
『は? ちょい──』
それだけ言い残すと、少女はどこかへ走って行くのだった。
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