第18話 閑話 その頃群れでは
俺の名はスラ太。
スライムでありながら〖進化〗を遂げ、〖長獣〗のラージブラッディスライムとなった天才だ!
生まれながらに希少種だった俺は若くして族長に上り詰めた。
いつの日か〖長獣〗を超えて〖豪獣〗になり、この森を統べるのも夢じゃ無いだろう。
「(付いて来いお前ら! 今日は奥地を探索するぞ!)」
選りすぐりのスライム十匹の前でそう宣言した。
こいつらは〖雑獣〗で俺とは比べ物にならないほど貧弱だが、数だけは多い。石を投げさせれば牽制にはなる。
意気揚々と出発しようとしたが……一部のスライムは何か言いたげだ。
どこか萎縮した様子の奴らに問い質してみる。
「(どうした、言いたいことがあるならハッキリ言え)」
「(……スラ助、イッテタ。モリノオク、〖マナ〗ガツヨイ。チカヨルノ、キケン)」
スラ助はちょっと前まで群れに居た軟弱者だ。
希少種だが高いのは〖タフネス〗だけ。それ以外はてんで駄目な落ちこぼれで、卑怯な小細工を考えるしか能のないお荷物だった。
それだけならまだしも、アイツは事あるごとに俺の邪魔をした。
「あっちには危険な魔獣が多い」だの「オレ達にはまだ早い」だの、自分が弱いからって俺達まで一緒だと思っていやがった。
たしかに一度敗走したことはあったが、あれから俺達も強くなった。今なら同じような失敗はしないはずだ。
だからこそアイツを追放し、ようやく奥地の探索が出来る……そんな時だってのに。
(スラ助め、面倒ばかり増やしやがって)
心の中で独り言ちた。
俺や俺の腹心はともかく、群れの中にはアイツの弱気が
奥地に出かける前に、こいつらにガツンと言ってやる必要があるらしい。
「(あ゛あ? お前は俺より、あんな弱腰の雑魚の言うことを聞くってのか?)」
「(ソ、ソンナコト、ナイケド……)」
「(じゃあ文句はねーよな!?)」
「(ハ、ハイ)」
他のスライムからも反対意見は上がらなかった。
そうだそうだ、初めから大人しく従っていればいいんだよ。
「(よし、出発だ!)」
俺は堂々と先陣を切る。
これから俺の時代が幕を開けるのだ。
そのはずだったのだが……。
「(イタイッ、イタイッ)」
「(オチツケ。テキ、シンダ。ヤスンデレバ、ナオル)」
「(チッ、一匹死んだか……)」
初戦闘の結果は辛勝だった。
相手はゴブリン。たった三匹の小さな群れだ。
対しこっちの戦力は俺を合わせて十一匹。
普段なら危なげなく勝利できる戦力差。
だがしかし……。
「(ゴブリン、イツモヨリ、ツヨカッタ)」
そう。普段の活動地域にいる個体よりも能力が若干高かったのだ。
〖雑獣〗であるのは変わらないが、〖レベル〗が高かったのだろう。
「(ソレニ、チカヅイテクルノ、トメラレナカッタ)」
当初はオレが三体を抑え込み、他の奴らには〖投擲〗をしてもらう予定だった。
が、予想外の強さに手間取ってしまい、その隙に一体が後ろに走って行ったのだ。
部下達は〖溶解液〗で対抗したが、ゴブリンの振り回す剣によって一匹が死に、他の奴らも怪我を負った。
「(コンナトキ、スラ助ガイレバ──)」
「(何か言ったか?)」
「(ナ、ナンデモナイ……)」
余計なことを言いかけた一匹を一言で黙らせる。
俺は何も間違ってはいない。あんな奴は居なくてもいいに決まっている。
「(いいかお前ら、敵が強いってことはそれだけ〖
それから少しして、また新たな敵を発見した。
「(さっきと同じようにすんぞ)」
「(エ、デモ、アレ、ニンゲンジャ……)」
「(それがどうした?)」
俺はイライラしながら訊き返す。
「(ニ、ニンゲンハ、ケッソクリョクガ、ツヨイ。メヲツケラレタラ、ヤッカイ。ダカラオソッチャダメダッテ、スラ助ガ……)」
「(ゴチャゴチャうるせえ!)」
「(ギャァッ)」
一発殴って黙らせる。
「(この群れの長は俺だ。俺の指示には黙って従え)」
「(……ワカッタ)」
喝を入れて群れの団結を強め、俺は四体の人間達へと駆け出した。
それと同時に部下達が石を〖投擲〗して牽制する。
「ဟွာ၊ ဒါက!?」
「ဘာလဲ။!」
人間達はすぐに防御体勢を取ったが、投石の雨に苦しそうにしている。
俺はそのまま駆けて行き、剣と盾を構える人間に飛び掛かった。
「〖ရိုက်နှက်ခြင်း〗っ」
斬撃が俺の体を抉る。が、俺の膨大な〖ライフ〗の前では大したダメージではない。
そのまま強引に前へ進み、人間に〖溶解液〗を使おうとする。
「〖ညစ်ညမ်းမှု〗」
「(ぐっ)」
しかし、突然吹いた強い風に押し戻される。
後ろに居る小柄な人間の能力のようだ。
「ရုပ်သိမ်းလိုက်ပါ!」
負けじとさらに踏み出そうとした矢先、人間達は一目散に逃げだした。
あまりに清々しい逃げっぷりに追いかけるのも忘れてしまう。
「(タオセナカッタ……)」
「(ハッ、いいんだよこれで。人間なんて俺達の敵じゃないって分かったんだからな)」
獲物を仕留められず落胆する部下達へそう言った。
スラ助が過剰に怖がるからどんなものかと身構えていたが、拍子抜けだ。
これならまだウルフの方が強いだろう。
「(やっぱり俺は、何も間違ってはいなかった)」
その確信を強める。
人間だって敵じゃないし、これから〖マナ〗の濃い奥地で俺や群れを鍛えれば、他の魔獣達にだって勝てるようになる。
そしてその先にあるのは、俺を頂点とするスライムの楽園だ。
「スラッスラッスラ!」
未来の栄光を幻視し大笑いする
俺が最強の魔獣となりこの森を支配する日もそう遠くはない!
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