第17話 咀嚼
むしゃむしゃむしゃむしゃ。
倒した怪鳥を食べる。
『むしゃむしゃ』という擬音が示している通り、オレは今咀嚼していた。
何でかっつーと怪鳥がデカすぎたからだ。
普通に溶かしてたんじゃあ時間が掛かり過ぎる。
てな訳で今は絶賛噛み砕き中。
まず体を刃状にして怪鳥の一部を切り取り、それを体内に取り込む。
そして体内に二枚の刃を作り、上下で挟むようにして斬ったのだ。
これがスライム流の咀嚼である。他のスライムがしているかは知らねぇが。
てか、ラフストーンスライム系統以外のスライムはこんなに鋭利には変形できなかったので、多分無理だろう。
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>不破勝鋼矢(ジュエルウェポンスライム)が〖スキル:嚙みつき〗を獲得しました。
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「(ごちそうさまでした)」
食べ終わったので手を合わせる。鞭を左右から伸ばして腕みたいにしたのだ。
それからふぅ、と一息。噛む動作に結構体力が要った。
全身運動みてぇなもんだからな、アレ。
「(……次の獲物を探すか)」
一休みを終え、立ち上がった。
〖マナ〗も体力もまだまだ有り余っている。
今日中にもっと〖レベル〗を上げてしまおう。
その後、見つけた魔獣と戦闘すること数回。オレの〖レベル〗は29になった。
〖スキル〗の方は変わりないが、代わりに戦い方が洗練された……と思う。
ジュエルウェポンスライムの体にも慣れ、〖スキル〗も連続して繰り出せるようになった。
「(そろそろ寝床を探さねぇとな)」
現在はもう、カラスがカァーカァーと鳴きそうな時間帯である。
今日の狩りはこの辺りで切り上げだ。
「(おっ、こことか良さげだな)」
昨日寝たのと同じくらいの大きさの木の根を見つけた。
いそいそと潜り込もうとし、そこであれ? と気づく。
「(入らねぇな……そういやオレ〖進化〗で大きくなってるもんな……)」
〖進化〗の予期しない副作用だ。
オレはこれからこのバランスボール大の肉体を隠せる場所を探さなくてはならない。
一瞬、どうせ傷つけられないんだし外で寝たんでいいんじゃね? という思考になりかけた。
けど、すぐに訂正する。
夜行性魔獣が集まって来て睡眠妨害されそうだし、万が一防御を破れる魔獣が出てくればジ・エンドだ。
「(いい場所はねぇかなー)」
てくてくと森を歩き回る。
いや、スライムの移動音はてくてくというよりはズリズリの方が近いが。
オレ達は体を引きずるようにして移動するのだ。
──と、あそこなんかがいいかもな。
オレが目を付けたのはこんもりと盛り上がった丘。その下にある洞穴だ。
いい加減日も暮れそうなので気持ち早足に入口へ向かう。
「(お邪魔するぜー)」
入った途端、三匹のゴブリンが襲い掛かって来た。
どうやらここはゴブリンが住処としていたらしい。
『オレに戦う気はねぇ。一晩でいいから泊めてくれねぇか?』
「「「ゴギャギャッ(バンゴハンガキタッ)」」」
「(ま、応じねぇわな)」
〖意思伝達〗で戦意は無いと伝えてみたが、ゴブリン達は構わず攻撃してくる。棍棒でタコ殴りだ。
血の臭いで他の魔獣が寄って来ても面倒だ、という理由で戦闘は避けようかと思ったのだが。
ま、倒してから全部食えば大丈夫か。
「(〖逃走〗、〖スラッシュ〗)」
一ダメージにもならない攻撃を繰り返すゴブリン達から少し距離を取り、すかさず刃を振り下ろす。
頭を縦に斬り裂かれ、ゴブリンAは絶命した。
「(〖跳躍〗、〖跳躍〗)」
仲間の死をゴブリン達が認識するより早く跳び上がる。洞穴の天井は低く、オレの跳躍力でも天井に届いた。
そこで再度〖跳躍〗し、高速で落下する。
〖圧し潰し〗と合わせて悲鳴すら上げられず圧死するゴブリンB。
間髪入れず隣のゴブリンCに刃を振るう。
「(〖スラッシュ〗!)」
呆けていたゴブリンが防御を取るより一瞬早く、その腹を剣刃が抉った。
ガクリと膝が折れる。そいつが立ち上がることは二度とないだろう。
「(ま、こんなもんか)」
日中何度か戦ったが、〖長獣〗のオレにとって〖雑獣〗は相手にならない。
こんな風に一蹴できる。これが〖獣位〗の差だ。
その後、ゴブリン達を〖溶解液〗で余さず平らげた。
血痕も地面ごと溶かしたので綺麗さっぱり。きっと名探偵にだってバレやしないだろう渾身の隠蔽だ。
それから洞穴の奥でちょうどいい大きさの窪みを見つけ、オレはそこで眠りに付いたのだった。
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少し短くなったので本日は十九時過ぎに閑話を投稿します
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