第16話 怪鳥

「スゥスラッスラー!」


 ヒュンヒュンヒュンヒュンッ。

 腕を鎖鎌みたくして旋回させながら森を進む。

 いや、鎌の刃と繋がってんのは鞭なんだし、正しくは鞭鎌か……?


「(まあいいや)」


 鎌回しを中止する。

 タイミングを合わせて変形させ続けなきゃなんねぇから地味に神経使うんだよなぁ、これ。


 そんなことより、問題は獲物がなかなか見つからないことだ。

 小動物タイプの魔獣は何度か見かけたが、あいつらは察知能力が高く、すぐに逃げ出してしまう。


 それに多分〖逃走〗系の能力も持ってるんだろうな。

 あっちは〖雑獣〗のはずなのに、走っても全く追いつけなかった。


「(案外、探すと居ねーもんだなぁ)」


 スライム集落の周辺より〖マナ〗が濃いのでそろそろ遭遇していいはずなんだが、一向に敵は現れねぇ。


 あー、〖長獣〗とか出てこねぇかなぁ。

 推測になるが、オレの〖タフネス:818〗は〖長獣〗の攻撃ならノーダメージに抑えられる。

 だからこの推測が正しいかどうか、この辺で確かめときてぇ。


 ちなみに、大熊は〖長獣〗の上の〖豪獣〗だったと思われる。

 基本、〖獣位〗は体のサイズに合わせて上がるからな。


「(ゴブリンでもいいから出て来てく──)」


 ──〖ブロック〗ッ。


 キキンッ。


「クィィーッ」


 突如、枝を突き破って急降下して来た怪鳥の爪撃を、二本の鞭を交差させて防いだ。

 スライムの視界が全方位じゃなければ危なかったぜ。


「クェーッ」


 攻撃を防がれた怪鳥はすぐさま離脱。

 枝の高さで滞空し、オレを見下ろす。


 そいつは鷹とか鷲とか、そういう猛禽類っぽい見た目だった。

 全長は約一メートル半。翼を広げれば三メートルくらいになりそうだ。

 〖獣位〗は〖長獣〗だろうか。


 さっきの爪撃も、〖ブロック〗越しに感じた手応えはザリガニの最期の一撃よりちょっと軽いぐらいだった。

 不意打ちには驚かされたが、これは手頃な相手に出会えたかもしれない。


「ピヒョウッ」


 しばし睨み合っていたが、怪鳥が一つ甲高い鳴き声を発すると、いきなり激しく羽ばたき出す。

 羽音に混じって何かが空を切る音が聞こえたかと思えば、オレの体表で何かが弾けた。


「スラっ!?」


 “何か”はその後も連続して当たって来る。

 〖ライフ〗は少しも減っちゃいねぇが、ぶつかった時の衝撃でオレは徐々に後退していた。


「(鎌鼬的なヤツかっ)」


 謎の攻撃の正体に当たりを付ける。

 感触的には風の刃と言うよりも空気の塊っぽいが。ずばり空〇砲だ。


「(にしてもどうすっかな。この状況)」


 相手の攻撃は有効打にならないが、オレにも攻撃手段がない。

 こっちから仕掛けるなら〖逃走系スキル〗は使えないし、この攻撃の中じゃあ〖投擲〗も雷撃も届かねぇ。


「(……いんや、待てよ……)」


 空気の弾丸に耐えながら一つの案を閃いた。

 思い立ったら即行動。

 オレはまず、反復横跳びするように左右に跳び出した。


「(よし、〖逃走〗も〖回避〗も発動してるな)」


 自身の内側に意識を沈め、試みが上手く行っていることを確認。

 なお、〖回避〗は回避行動の速度を上げる〖スキル〗だ。ザリガニ戦で覚えた。


「(さあ、行くぞ!)」


 そして唐突に駆け出す。

 向きはもちろん怪鳥の方だ。


 相手に突撃しているので、当然〖逃走〗達の効果は切れて──いない。


「(成功か!)」


 明かしてしまえば種は単純で、オレが逃げるために前進しているからだ。

 今回、怪鳥は空中にいる。奴の下を通り抜けて逃げる、と意識すれば発動したままに出来た。


 もし〖逃走〗達が『敵から遠ざかるか否か』で逃走判定を下してるのなら、この作戦は失敗だっただろう。

 けど、成功する自信はあった。

 さっきの反復横跳びで敵から遠ざからなくても〖逃走〗系は発動してたからな。


「(作戦変更ォ、相手の上を跳び越えて逃げるぜッ、〖跳躍〗!)」


 オレを捉えようとする空気弾を〖回避〗しながら疾走し、充分に距離が縮まったところで飛び跳ねる。


 だが、相手も馬鹿じゃない。〖挑発〗で攻撃に思考を誘導していたが、それでもオレの急接近を見て上空に逃げようとしていた。

 頭上を跳び越えるというオレの目論見は外れ、一メートルほど下を掠める軌道になりそうだ。

 残念残念。


「スラァッ!」


 臨機応変に次の手を切る。

 〖進化〗して長くなった鞭を伸ばしつつ、


「(雷撃!)」


 鞭の先端から雷を放った。

 あと少しで逃げ切れそうだった怪鳥は雷撃を受けて一時硬直。


「(どりゃぁッ!)」

「クエエェェっ!?」


 よっし! 長鞭を怪鳥の足首に巻き付けられた。

 そしてオレの重さが加わったことでバランスを崩し、怪鳥は墜落する。


「(逃がさねぇぞ、〖圧し潰し〗っ、〖圧し潰し〗っ、〖圧し潰し〗っ!)」


 墜落の直後、オレはすかさずマウントポジションを取ると、軽く〖跳躍〗して連続スタンピング。

 オレの無駄に硬く重いし掛かりを食らわせた。


 怪鳥はその攻撃から逃れることができず、〖連撃〗の効果も合わさってみるみる抵抗が弱まって行く。

 トドメに落下の勢いを乗せて〖スラッシュ〗を叩き込み、この戦闘は幕を閉じたのだった。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

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>>不破勝鋼矢(ジュエルウェポンスライム)の〖魂積値レベル〗が27に上昇しました。

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