第9話 修行の成果

「(ふぅ、酷い目に遭ったぜ……)」


 突如として倒れて来た木から這い出て一息ついた。

 止め時を見失っていた修行だが、ちょうどいいのでここで一時中断して成果を確認してみる。



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 スキル

不退転 柔軟運動(NEW) ウィップ(NEW)

専念(NEW) コンパクトウィップ(NEW) 連撃(NEW)

愚行(NEW)

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 集中して鍛えたのが効いているらしく、〖スキル〗の量がグッと増えた。

 一つ一つ効果を見て行こう。


 まず〖不退転〗は踏ん張る力が強くなり、吹き飛ばされにくくなる〖スキル〗だ。

 修行前から持ってたし、巨大魔獣同士の戦いを見ていた時に習得したっぽい。


 お次の〖柔軟運動〗はなかなかに便利である。

 効果は肉体操作の補助。修行の途中から鞭型を維持するのが楽になったが、きっとこの〖スキル〗が働いていたんだろう。

 これからはもっと自在に体を変形させられるぜ。


 〖ウィップ〗と〖コンパクトウィップ〗は強力な鞭打ちを繰り出す〖スキル〗だな。

 後者は『コンパクト』って付いてる通り、隙の少ない一撃を放てる。

 その分威力は落ちるみてぇだけどよ。


 〖専念〗は一つの事柄への集中力を上げる〖スキル〗で、〖連撃〗は連続で攻撃してっと威力が上がる〖スキル〗。

 さっきみてぇに攻撃し続けられるチャンスは早々ねぇだろうし、実戦でどんくらい活かせるかは未知数だな。


「(ここまではいいんだけどよ……)」


 問題は最後に残った〖スキル〗だ。

 なかなか気の滅入る名称をしてやがるが、確認しない訳にもいかねぇ。〖ステータス〗に意識を集中させる。



~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

愚行 愚行時、〖ライフ〗と〖マナ〗以外の〖スタッツ〗に補正。常時、病魔耐性に補正。

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 お、おう……これは強い……のか?

 全〖スタッツ〗上昇は強ぇけど『愚行時』って条件が曖昧なんだよなぁ。

 それに、いつもクレバーに行動しているオレみてぇな人間スライムには使える機会が少なそうだしな、ガハハハ。


 その話は置いといて、病気の耐性が上がるのは素直にありがてぇ。

 スライムも病気とは無縁ではなく、群れに居た頃は病魔に斃れる同胞を何度か見かけた。


 全身が斑模様になって衰弱して行くあの姿は、今思い出しても背筋が凍る。

 〖レジスト〗が高いとはいえ、予防線は多いに越したことはねぇ。


 ま、こうして一通り〖スキル〗の確認は終了したわけだが、その後で一つ気づいたことがある。


「(【ユニークスキル】が変わってやがるな)」


 たくさん使ってたから上位版にパワーアップしたんだろうか。

 昨日目覚めたばっかであんま使った気はしねぇが、『収穫量最大化』が【ユニークスキル】自体にも掛かっていたのかもしれねぇ。


 はてさて、どんな効果になったのかなと確認する……その前に。

 オレは茂みの方を見やった。


「スラァスッラ(来やがったか)」


 倒木音に引き寄せられたのか、はたまた偶然通りがかったのか。

 とある一団が現れた。


 二足歩行するそいつらは、緑色の体色に児童くらいの背丈をしていた。

 尖った耳と濁った眼。剝き出しの黒ずんだ犬歯が特徴的だ。


「(ゴブリンか)」


 端的に言うと、ゲームやアニメに出て来るあのゴブリンに似ていた。

 この森ではポピュラーな生物で、前世の記憶を思い出す前にも何度か戦ったことがある。

 もっとも、その時のオレは防御役に徹してたけどな。


 強さは下の中。

 生態系ピラミッドの中では下部に位置する弱い魔獣だ。


 スライム一匹よりかは強いが、二匹相手だと互角、三匹相手だと劣勢になるといった感じ。

 〖投石〗を覚えたスライム相手だともうちょい分が悪い。


 魔獣にしては賢く武器を扱え、今回出て来た四匹も錆びた剣や槍、斧、ナイフを持っている。

 武器はどれも状態が悪く、剣なんかは中折れしていた。

 まあ、多分死んだ人間から奪ったんだろうから当然っちゃ当然だ。


「「「ゲギャギャァッ!」」」


 そのゴブリン達が我先にと走り寄って来た。

 きっと一匹でいるスライムを見て、獲物だとでも勘違いしたんだろうな。


 分析しつつ、本当に戦うのかと自問する。人間の記憶を取り戻したことで、人型生物への攻撃に躊躇が生まれていた。

 けれどそれも一瞬。そもそもゴブリンは人間の敵だと思い直す。


「(ちょうどいい、試運転に付き合ってもらうぜ)」


 まず、一番足の速かったナイフのゴブリン……ではなく、二番手の剣ゴブリンに狙いを定めた。

 シュルルと体の一部を鞭に変え、その先端で石を掴み、そして〖投擲〗!


「ゲギャっ!?」


 石礫が直撃し剣ゴブリンが転ぶ。

 今のオレの投擲は〖投擲〗の補正だけじゃなく、長い腕やそこそこの〖パワー〗によってそれなりの威力となっているのだ。


 さて、これでナイフゴブリンが若干孤立した。

 鞭の射程に入ったその瞬間に〖ウィップ〗。


「ギグッっ!?」


 風を切った鞭がゴブリンの顔面を打ち据えた。

 先端に作った尖った重石が頬の肉を抉る。


 肉片と血液が宙に散った。

 ナイフゴブリンは前のめりに転び地面を削る。

 けど、こいつは後回しだ。


「(〖ウィップ〗、〖ウィップ〗!)」


 続々と突っ込んで来やがるゴブリンに攻撃を当てる。

 奴らは揃いも揃って地面に突っ伏すこととなった。


 うずくまっていたナイフゴブリンが立ち上がりそうだったので、すかさず〖コンパクトウィップ〗。

 足の肉を削ぎ、再度転ばせる。

 他のゴブリンが立とうとすれば、そいつにも攻撃。


 そのようにして一方的に攻撃を続けていたが、一対四じゃあさすがに手が足りねぇ。

 少しずつ近寄られ、そうなると鞭の威力を活かし辛くなっちまう。


「(ま、〖逃走〗するだけなんだけどなっ)」


 武器を振るうゴブリン達の間をすり抜け仕切り直し、再び一方的な攻撃を始める。

 このサイクルでオレはゴブリンを蹂躙し続け、途中で逃げられそうになると〖挑発〗と〖魅惑の輝き〗で戦場に釘付けに。


 戦闘開始からしばらくした頃。

 一匹のゴブリンが出血多量で息絶えた。


 〖連撃〗で強化された〖ウィップ〗は木を抉る威力がある。

 それを何度も受けてはこうなるのは必然だ。


「(終わりだな、〖ウィップ〗)」


 最初の一匹を皮切りに、どんどんと死んで行くゴブリン達。

 最後の一匹に渾身の鞭打ちを叩き込み、オレは戦闘に終止符を打った。

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