第8話 修行

「(クソ、硬ぇな。オレの〖溶解液〗じゃ溶かせねぇか)」


 森亀が立ち去った後。

 オレは取りあえず、残された赤鬼を食べようかと考えた。朝ご飯がまだだったしな。


 まあ案の定と言うべき、赤鬼の体は硬すぎて溶かせなかったんだが。

 死んだからって〖タフネス〗が激減なんてしねぇんだから当然っちゃ当然だ。


「(他のもん探すか)」


 食えねぇ物に固執しても仕方ないので、他の魔獣が来る前に赤鬼の元を離れる。

 あんな戦闘音を聞いて近付こうと思える猛者はそうはいねぇだろうけどな。


 ここで待ち伏せし、来た魔獣を狩ろうかとも思ったが、今の状態だとリスクが大きいのでまたの機会にする。

 と言うのも……、



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

ライフ :9/30

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



 〖ライフ〗が割とヤバめなのだ。

 肉体の体積も、普段より一回りか二回り小さくなっちまってる。


「(うぅ、落ち着くと沁みてくんなぁ……)」


 オレは戦闘の余波を受け少しずつ〖ライフ〗を削られていた。

 あの時は興奮のあまり痛みなど気にも留めてなかったが、平静を取り戻すにつれ体中で突き刺すような痛みがしてきやがった。


 スライムにもアドレナリン的な脳内物質が出んのか……?

 いや、そもそも脳があるのかすら不明だけども。


 少なくとも皮膚の概念はないらしく、怪我したところが地面や空気に触れても殊更ことさら痛くはならない。

 お陰で身体が二回りほど小さくなるという重傷を負っても問題なく歩ける。


「(それにこんくらいならっときゃ治るしな)」



~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

自己再生 常時、負傷や欠損を自動で回復する。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 スライムなら生まれながらに持っている〖スキル〗だ。

 回復速度は遅いが、それでも一時間もあれば全快する。


 それから戦場跡から離れ続け、途中で木の実をいくつか食べ、そして〖ライフ〗も粗方あらかた回復した頃に立ち止まる。


「(よし、やるぞ!)」


 フンスと意気込んだ。

 巨大魔獣達みてぇになると決めたのだ。そのためには鍛えなくては。


 つっても、強くなるだけなら一番早いのは〖レベル〗上げなのだが。

 〖圧し潰し〗戦法を使えば〖雑獣〗くらいなら楽に狩れる。


 けどそれじゃダメだ。上位の魔獣には通じねぇ。

 もっと能動的に攻撃できる能力を得ねぇと、いつか行き詰まっちまうはずだ。


 て事でこれから攻撃〖スキル〗習得のための修行を始める。

 どういった攻撃〖スキル〗を取るべきかはさっきの森亀が教えてくれた。


「スラ……」


 集中し、薄青い体の一部を伸ばしていく。

 可能な限り細く、長くなるよう意識した。


 ──スライムの肉体は、通常時はカーリングのストーンのような、若干潰れた球形をしている。

 何も意識していなければ自然とその形を取ってしまうので、言わばそれが自然体って奴なんだろうな。


 でもそれは、他の形になれないってことじゃあない。

 潰れた球形からかけ離れるほどに難易度は上がるが、それでも頑張ればある程度の変形は可能である。

 〖レベル〗が上がったからか、はたまた〖進化〗の影響か、以前より変形を使いやすくなったのも追い風だな。


「(ぐぬぬぬぬ……っ)」


 てな訳で頑張って変形し続け、何とか納得いく形になった。

 作ったのは細長い鞭だ。先端には重石代わりに小さなこぶを付けた。

 理想は森亀の蔓であったが、あんな太さにしてはオレの体積が無くなってしまう。


 その点、今回作った水道ホースより少し細い鞭は、体積をそこまで使わずそれなりの長さを確保できた。

 潰れた球形からあまり離れられない関係上、体積の半分は球形を維持していなくてはならないのだが、それでも鞭と言い張れるくらい長い。


「(よし、始めるぞ……!)」


 球形に戻ろうとする体を必死に律し、鞭を振りかぶった。

 目一杯に後ろに回してから、目の前の木へと叩きつける。


 ぺしっ。


 酷く締まりのない音がした。

 鞭は幹の表面を撫でただけで、少しの傷も付けられていない。


「(うーん、一発目は失敗か)」


 ジュエルスライムの体は一般のスライムと違って弾力が無い。つまり硬い。

 自身の意思でなら自在に形を変えられるが、外からの力ではほぼほぼ形は変わらねぇ。


 だからこそ、きちんと速度を乗せられれば樹皮も多少は削れるはずである。

 今回失敗したのは単にオレの技量不足だ。


 ジュエルスライムの体は自分の意思でしか動かせないため、通常の鞭のようにグリップ付け根を振るうだけではその近く以外は動かない。

 鞭の付け根から中程、先端までを淀みなく連動させる必要があった。


 ま、一回目から上手く行くなんて思っていない。

 ここからはひたすら修練あるのみだ!




 それからしばらく、オレは鞭を振るい続けた。

 その内に徐々にコツを掴み、変形状態の維持にも慣れ、ついでに〖スキル〗も習得した。


 こうした変化を経て、いつの間にやら鞭の音は様変わりしていた。


 ズパンズパンズパンズパンッ!


 連続して鞭を振るうと、幹の弾ぜる快音も連続する。

 鞭の速度も、再度振るうまでの間隔も、格段に向上していた。

 一振りごとに舞い散る木片が鞭の威力を物語っている。


「スラーッ」


 だが、その程度で満足なんてしねぇ。

 目指すは最強! もっともっと鍛えねぇと。


 そう思ってひたすら鞭打ちに没頭することしばし。

 メキメキメキ、という不安を掻き立てる音が響き出したが、オレは気付かず鞭の練習を続ける。


「(うおおおおおっ!)」


 一旦、状況を整理しておこう。

 オレは一方向から木を削りまくっている。

 それ故、根元付近には大きな窪みが出来てしまった。


 この状況で窪みを抉り続けたらどうなるかは想像に難くない。


「(ぎゃああああああっ!?)」


 鞭打ちに夢中で〖逃走〗の発動が遅れたオレは、倒壊した木に頭を打たれたのであった。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>不破勝鋼矢(ジュエルスライム)が〖スキル:柔軟運動〗を獲得しました。

>>〖スキル:ウィップ〗を獲得しました。

>>〖スキル:連打〗を獲得しました。

>>〖スキル:専念〗を獲得しました。

>>〖スキル:コンパクトウィップ〗を獲得しました。

>>〖スキル:連撃〗を獲得しました。〖連打〗が統合されます。

>>〖スキル:愚行〗を獲得しました。

・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る