A-if

物書未満

0と1と、それとあれと

「ご主人、なぜ私を外に連れ出すのです?」


 ご主人に問う。

 様々なアンドロイドが溢れるこの世界で私のような旧式のアンドロイドははっきり言って時代遅れもいいところだ。

 他を見れば全く人間の見た目をしていて、もう人間と見分けはつかないだろう。

 私は頭部ユニットから何から全て旧式の如何にも出始めのそれである。


「……」


 ご主人は多く喋らない。今日だって煙草の買い足しのために賑やかな通りから一つも二つも奥まった裏通りの煙草屋に来ただけだ。

 そしてご主人は壊れかけたベンチに座って今では珍しくなった両切り煙草を何本も何本も灰にしている。実のところ、ご主人は日に何十と吸う。一日で丸缶一つなくなってしまうこともよくある。

 ずっと同じ部屋で隣にいる私のボディにはきっとご主人の煙草の匂いが染み付いているんだろう。


――パキュッ


「……」


 缶コーヒーを開ける。ご主人の飲む缶コーヒーは泥水だなんだと酷評されている。それを眉一つ動かさずに飲んでいるのもまたご主人だ。

 

「帰るぞ」

「はい」


 コーヒーを飲み終えたご主人はそれだけ言って歩き始めた。

 ご主人が新型アンドロイドに目もくれず私を使い続けている理由はなんとなくだけど分からないわけじゃない。ただ、私の旧型AIでは確証には程遠いだろうけど。


 だから、問う。


「ご主人、なぜ私なのですか?」

「……黙ってついてこい」

「はい……」


 いつ聞いても、何度聞いてもそうとしか帰ってこない。そして別にご主人は怒ったりしない。私も気になるけど、そう言われたらそうするしかない。プログラムのせいかもしれない。


「……取り残された私にはお前しかいねぇんだ」


 ご主人の小さな呟きはイマイチよく分からない。


 でも、ご主人のか弱い左手と私の無機質な左手には誓いのそれがある。


 だから

 きっと

 たぶん

 おそらく


 そういうことなんだ、と思う。

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